今から始める「データセキュリティ」【第2回】
ログ取得だけでは無意味 失敗しない「データアクセス監査」5カ条
データの安全性を高める具体策の1つが、データの利用状況を記録して不正の特定に役立てる「データアクセス監査」である。その効果的な実施に不可欠なポイントを整理する。
第1回「“情報漏えい体質”と今こそ決別する『データセキュリティ4カ条』」では、データセキュリティの重要性が高まりつつある理由と、データの安全性を高めるための4つの主要な対策を整理した。今回は、4つの対策のうちの1つ「データのアクセス監査」について掘り下げて解説しよう。
データの利用状況をログとして記録し、原因や被害範囲の特定に活用するデータアクセス監査。その目的は、以下の5つに集約できる。
- 社会的および企業経営上の不正の抑止・発見
- 原因調査
- 影響範囲の特定
- 対策検討
- 予兆検知
データアクセス監査に関する詳細な解説の前に、企業におけるデータアクセス監査の現状を整理しておこう。
連載:今から始める「データセキュリティ」
データアクセス監査の現状:収集するもチェックはせず
Imperva Japanが2013年11月に実施した調査では、データへのアクセスログを記録している企業は全体の63%と、半数を超える結果となった(図1)。ただし、実際にアクセスログを定期的にチェックしている企業は全体の21%にとどまり、データアクセス“監査”を実施している企業はそれほど多くないことが見て取れる。
多くの企業が情報漏えいに危機意識を抱えているにもかかわらず、データアクセス監査の実施企業がまだ少数派になっているのはなぜか。その理由は、業務の効率性と安全性のバランス、コスト、運用の課題をうまく解決する方法が見つからないためだと考えられる。
例えば、問題が起きたときのために、データへのアクセスログをネットワーク機器やサーバなどから大量に記録しているとしよう。その場合、いざ問題が起きたときに、以下の事実に気付かされるはずだ。
- 問題に関係するログを抽出し、原因調査をするために膨大な時間やコストが掛かる
- 大量に保管していたログのうち、原因調査に利用できるログはごくわずか
こうした状況は、あらかじめデータへのアクセスログの活用方針や監査の設計が不足している場合によく直面する。こうした企業は結果として、無駄な作業時間やストレージコストを費やしてしまうことになる。
どうすれば、無駄の発生を避け、業務の効率性と安全性のバランスが取れた効果的なデータアクセス監査が実現できるのだろうか。
効果的なデータアクセス監査のためのポイント
業務を妨げず、安全性を向上し、かつ余計な投資を抑える。そんな効果的なデータアクセス監査を実現するには、以下の5つのポイントが重要となる。
- データアクセス監査方針の統一
- データの分類と所在の明確化
- 監査対象データの取捨選択
- リポートフォーマットの統一
- 業務システムへ与える影響
ポイント1:データアクセス監査方針の統一
企業はビジネスを遂行していく上で、不正や損失を防ぐためにさまざまな施策を立てている(表1)。
| 施策 | 関連ITセキュリティワード | 対象データ |
|---|---|---|
| コーポレートガバナンス | ・データ漏えい ・データ改ざん ・データ隠蔽 |
・財務情報、入札情報 ・個人情報、人事情報 ・クレジットカード情報など |
| リスクマネジメント | ||
| コンプライアンス |
こうした施策は、企業が扱うデータを保護する上でのルールやポリシーを含んでいる。だが各施策を個別に実施してデータアクセス監査全体の仕組みを構築するのは、効率的とはいえない。共通するデータの改ざんや漏えいに関してはデータアクセス監査の方針を統一するなどして、対象データへの効率的なアクセス監査を実施すべきだ。
ポイント2:データの分類と保存場所の明確化
いざデータを保護しようとしたときに軽視されがちなポイントが、データの分類と保存場所の明確化である。当たり前ではあるが、人や物を守るときと同じで、
- どのデータを守るべきか
- そのデータはどこにあるのか
- 何から守るのか
- どう守るのか
を考えなければ、効果的なデータの保護はできない。
明確な基準を策定した上で、各部門が扱うデータを自ら分類し、保存場所を明確化していく必要がある(表2、表3)。
| データのレベル | データの例 |
|---|---|
| 機密レベル | 個人情報、財務情報、人事情報、設計情報 |
| 限定レベル | 営業用資料、ブローシャ |
| 公開レベル | WebのHTML、画像ファイル |
| その他 | 汎用プログラムなど |
| データの種類 | 保存場所 |
|---|---|
| 機密レベルのデータ | ・DBサーバのテーブルA、B、D、Qに存在 ・ファイルサーバのフォルダA、C、F、Zに存在 |
| 限定レベルのデータ | ・DBサーバには存在しない ・ファイルサーバのフォルダB、R、Tに存在 |
| 公開レベルのデータ | ・DBサーバのテーブルC、F、Pに存在 ・ファイルサーバのフォルダB、Gに存在 |
| その他のデータ | ・DBサーバには存在しない ・ファイルサーバのフォルダB、H、Xに存在 |
上記の表3では、ファイルサーバのフォルダBには「限定レベルのデータ」「公開レベルのデータ」「その他のデータ」が混在し、非常に保護し難い状況にあり、保存場所を再考する必要があることが分かる。このようにデータを分類して保存先を明確化することで、保護すべきデータが置かれている状況を把握でき、効果的なデータアクセス監査の準備を進めることが可能になるのだ。
ポイント3:監査対象データの取捨選択
データアクセス監査を効果的に進める上で、最も重要なポイントが監査対象データの取捨選択だ。どのデータを監査対象とするかの選定基準をしっかりと策定した上で、その基準に基づいてアクセスログを取得するデータを決定する。このフローを確実に運用することで、データアクセス監査に必要なログ取得やリポート生成の効率化、精度の向上が可能になる。
監査対象とするデータの基準は、「データの分類と保存場所の明確化」にならって策定するとよいだろう(表4)。
| アクセス監査対象となるデータ | アクセス監査対象外のデータ |
|---|---|
| ・機密レベルのデータ ・限定レベルのデータ |
・公開レベルのデータ ・その他のデータ |
ポイント4:リポートフォーマットの統一
データアクセス監査で用いるリポートフォーマットの統一は、監査に関係する業務の効率向上につながる。
企業では、目的に応じてさまざまな業務システムでデータを扱うことが常だ。監査の際には、各業務システムが持つデータアクセス監査機能を利用することが一般的だろう。その結果、異なるITシステムが、それぞれ独自のフォーマットで多数の監査リポートを提供することになる。リポートに統一性がないので、監査業務をする側の業務が煩雑化することが容易に想定できる。
ビジネス環境の変化に追従すべく、業務システムの増加や更改が必要となることもあるだろう。だがそのたびに新たな独自リポートが生まれ、データアクセス監査に余計なコストが掛かったり、監査精度の低下を引き起こしてしまうのだ。こうした事態を回避するためにも、リポートフォーマットの統一は不可欠だといえる。
ポイント5:業務システムへ与える影響
データアクセス監査が業務システムやシステム運用者へ与える影響は小さくない。ざっと考えただけでも、以下のような影響が想定できる。
- 業務システムの性能低下:データアクセス監査に必要なログ収集とリポーティングによる性能低下。一般的に10~20%程度低下するといわれる
- ストレージの圧迫:監査対象データが選択できない場合、日々膨大な容量のアクセスログがストレージへ保存されていく
- 運用者の増員:データアクセス監査の業務自体の運用と、上記2点の業務システムへの影響に対処するために必要
これらの影響は連鎖しており、業務システムの増加に比例してデータアクセス監査の運用コストを肥大化させ、企業にデータアクセス監査の運用を止めさせてしまう最大の要因になり得る。効果的なデータアクセス監査を継続的に運用するには、業務システムへ与える影響を最小限に抑えることが非常に重要なポイントだ。
データアクセス監査方式の選択
前述した5つのポイントを抑えつつ、冒頭に掲げたデータアクセス監査の目的を満たすには、環境や要件に合わせた監査方式を選択する必要がある。現在、業務システムのデータアクセス監査を一元的に実施可能な方式は大きく4つある(表5)。市販のデータアクセス監査製品は、このいずれかの方式を採用している。
| アクセス監査方式 | 主な優位点 | 主な弱点 |
|---|---|---|
| ネットワーク方式 (データへのアクセスをネットワークで監視し、アクセスログを取得) |
・業務システムへの影響を抑える ・ファイアウォール機能を提供可能 |
・ローカルアクセスのアクセスログの取得不可 |
| エージェント方式 (データへのアクセスをサーバにインストールしたエージェントで監視し、アクセスログを取得) |
・ローカル/リモート双方のアクセスログが取得可能 | ・業務システムへの影響あり ・データへのアクセス方式に依存 ・エージェントのメンテナンス負荷が高い |
| ログ連携方式 (業務システムの監査機能で取得したアクセスログを利用) |
― | ・業務システムへの影響が大きい ・ログフォーマットの変更に弱い ・対応システムが少ない |
| ハイブリッド方式 (上記3方式それぞれの優位点を生かし、弱点をカバー) |
・業務システムへの影響を最小限に抑える ・ファイアウォール機能を提供可能 ・ローカル/リモート双方のアクセスログが取得可能 |
― |
データアクセス監査方式の選択次第で、5つのポイントのうち、特に以下3つのポイントでの効果が大きく左右される。
- 監査対象データの取捨選択
- リポートフォーマットの統一
- 業務システムへ与える影響
上記3つのポイントに基づき、各データアクセス監査方式を評価・比較していこう(表6)。
| 監査対象データの取捨選択 | リポートフォーマットの統一 | 業務システムへ与える影響 | |
|---|---|---|---|
| ネットワーク方式 | × (不可能) |
○ (可能) |
○ (なし) |
| エージェント方式 | ○ (可能) |
○ (可能) |
△ (部分的にあり) |
| ログ連携方式 | × (不可能) |
△ (部分的に可能) |
× (あり) |
| ハイブリッド方式 | ○ (可能) |
○ (可能) |
○ (なし) |
監査方式1:ネットワーク方式
ネットワーク方式は、監査対象データの取捨選択に課題がある。本方式では、データが保存されたサーバへリモートデスクトップなどで直接ログインされた場合、アクセスログを取得できないという弱点がある。
監査方式2:エージェント方式
エージェント方式を検討する際は、業務システムへ与える影響を考慮する必要がある。本方式では、データが保存されたサーバへ必ずエージェントをインストールするので、サーバへの負荷が増し、業務システム全体に影響を与えてしまう可能性がある。
インストールしたエージェントの設定変更やアップデートも必要になる。対象サーバの台数やロケーションによっては、運用負荷がかなり増加することになる。
監査方式3:ログ連携方式
業務システム側へ依存する部分が多いのが、ログ連携方式の特徴だ。データアクセスログの取得は業務システム任せとなるため、監査対象データの取捨選択や業務システムへの影響をコントロールできない。対応できる業務システムの種類もあまり多くないため、他の方式と比べると柔軟性に欠ける。
監査方式4:ハイブリッド方式
各方式の利点を生かしてマイナスポイントを補う“次世代的”な方式が、ハイブリッド方式だ。監査対象データの取捨選択をコントロールし、リポートフォーマットを統一しながら、業務システムへの影響を最小限に抑えることが可能な方式である。
ハイブリッド方式を採用したデータアクセス監査製品は複数存在するが、各製品とも監査対象データの取捨選択に関する設計思想や運用面での利便性などに違いがあり、独自の特徴がある。
冒頭で紹介した通り、データアクセス監査をしている企業は、現状では2割程度と少ない。だがデータアクセス監査を含めたセキュリティ対策は、企業が安全にビジネスを遂行していく上で重要な要素だ。
一方、セキュリティは多くの企業にとって、コストや負荷的な面で敬遠されがちだという現実も存在する。だからこそ、データへのアクセスログ収集だけに止まっている現状を改め、今回解説したような効率的かつ効果的な手法を利用して、データアクセス監査を始めてほしい。
連載3回目となる次回では、セキュリティ対策を主眼に置いたデータベースの具体的なコントロール方法について解説する。
執筆者紹介
佐藤靖忠(さとう やすただ) 株式会社Imperva Japan
国内のネットワークインテグレーター(NIer)/システムインテグレーター(SIer)において、セキュリティ製品などの導入・保守サポートやサーバイ ンフラ構築、ビジネスプロセスリエンジニアリング(BPR)を経験。現在は、Imperva Japanにセキュリティ・エンジニアとして従事し、ユーザー企業におけるデータセキュリティの普及に取り組んでいる。
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