Zapposが実践する「管理職がいない世界」
上司を置かない「ボスレス企業」続出、本当に上手くいくの?
少しずつ数を増やしている、“ボスレス”な組織。上司に監視されず、自己管理する経営の効果と実現するためのポイントとは。
靴と衣料品のオンライン販売を手掛ける米Zapposは、常識にとらわれない斬新な経営手法で知られている。2015年5月、そのZapposがメディアの見だしを飾り、「ホラクラシー」と呼ばれる組織構造への転換を図る中で多くの離職者を出していることが話題となった。ホラクラシーとは、組織から管理職や上司を一掃し、自己管理を実践する経営スタイルのことだ。食物連鎖の頂点に立つ一握りのリーダーではなく、全従業員の集合知を引き出すことで、機敏で透明性の高い組織を実現する方法として注目を集めている。
米ITコンサルティング会社Optimity Advisorsの技術革新担当ディレクターであるロッド・コリンズ氏によれば、上司を置かない“ボスレス”な組織を実践しているのはZapposだけではない。防水透湿素材GORE-TEXのメーカーである米W.L. Gore & Associates、トマト加工業者の米Morning Star、オンライン百科事典を運営している非営利組織の米Wikipediaなどは、それぞれ形態は異なるが、いずれも上司を置かない経営スタイルを採用している。
コリンズ氏は組織のフラット化について一家言を持つ。かつて同氏は、世界最大の民間非営利健康保険組合である米Blue Cross Blue Shield(BCBS)の連邦政府職員プログラム(Federal Employee Program)にCOO(最高執行責任者)として迎えられた。課された使命は、20年近くに及ぶ低業績と低成長からの脱却だった。同氏は実際、組合幹部らとともにこの使命を全うしたが、そこでは組織の上層部が物事の決定権を持つトップダウン型ヒエラルキーの経営から物事を合意によって進める経営モデルへの移行が奏功したという。
米TechTargetは同氏に話を聞く機会を得て、組織のボスレス化とは実際どのようなものかについて聞いた。
――Zapposが実践するホラクラシー型の組織運営が最近、メディアの見だしを飾りました。ホラクラシーとはどのようなものですか。
コリンズ氏(以下、敬称略) ホラクラシーは、管理職を置かずに企業をいかに機能させるかという方法論です。ホラクラシーを実践している企業としては、恐らくZapposが最も大規模です。ホラクラシーは非常に綿密に考え抜かれた方法論です。Zapposの取り組みも一夜で実現したわけではありません。管理職がいる世界から管理職がいない世界へと移行するにあたり、Zapposはホラクラシーのトレーニングを取り入れました。そして2014年、丸々かけて上司不在の組織がどう行動すべきかについて、従業員にトレーニングを施しました。
私は、ホラクラシーを実践している人たちや、企業にホラクラシーのトレーニングを実施している人たちについてよく知っています。ホラクラシーには、2つの基本的な仕組みがあります。1つは「戦術的ミーティング」です。このミーティングでは、皆が日常業務の遂行に関するさまざまな問題を検討します。2つ目は「ガバナンスミーティング」と呼ばれるものです。こちらでは、より戦略的な決定が下されます。
――著書では、ネットワーク型組織について論じておられますが、それらとホラクラシーとはどこが違うのでしょうか。
コリンズ氏 呼び方はいろいろあります。ホラクラシーもその1つです。私は“wikiマネジメント”と呼んでいます。マネジメント論の提唱者であるスティーブ・デニング氏は“ラディカルマネジメント”と呼んでいます。ソフトウェア開発の世界では“アジャイルマネジメント”として知られています。いずれも、ネットワーク型組織の形態をしています。管理職を置くものもあれば、置かないものもあります。つまり、管理職を排除することは必ずしも必須要件ではありません。ただし、トップダウン型ヒエラルキーのように管理職に主権を持たせることは避けなければなりません。
こうしたホラクラシー型の組織では、報酬に何かしたらの形で影響を及ぼす方法で、誰もが他の人たちを評価する必要があります。そうすることで説明責任の連鎖が広がり、ひいてはそれが極めて効率の高い組織の実現につながるのではないでしょうか。トップダウン型ヒエラルキーでは、評価は一方通行です。上司は部下を評価しますが、上司の報酬に影響を及ぼすような形で部下が上司を評価することはほとんどありません。
――Zapposの自己管理型モデルへの移行の成否はまだ定かではありません。BCBSの連邦政府職員プログラムでの経験の他にも、ボスレス組織の成功事例をご存じですか。そうした組織はやはりホラクラシーを実践しているのでしょうか。
コリンズ氏 Gore & Associatesは1958年の創業当時から、上司を置かないボスレスの経営方針を採っています。創業から50年以上になりますが、業績は極めて良好で、事業開始以来、毎年利益を上げています。私が基調講演でこの話をすると、人々は決まってひどく驚きます。米Fortune誌は毎年「働きがいのある企業100社」を発表していますが、私の記憶では、このリストの公表が始まって以来毎年ランクインしている企業は4社で、Gore & Associatesはそのうちの1社です。2015年のランキングでも選出されました。ただし、Gore & Associatesは独自に編み出した経営手法を採用しており、ホラクラシーを実践しているわけではありません。
トマト加工業者のMorning Starもボスレスです。Morning Starも独自の経営手法を考案し、採用しています。その中心となるのが、「同僚との基本合意書」と呼ばれる仕組みです。同社はフルタイムの正社員が400人で、トマトの収穫時期には2000人を臨時雇用していますが、セルフマネジメントはこの2400人全てに適用されています。
Morning Starの従業員は毎年適当な時期に「同僚との基本合意書」を作成し、各自が達成すべき目標を同僚同士で明確にします。進捗については、測定基準を設け、月に2回計測しています。この基準は全て公開され、透明性が確保されているので、誰もが進捗状況を確認できます。同僚同士で互いに説明責任を負える仕組みになっているのです。
Morning Starも創業当初からボスレス体制を敷いているので、途中で方針を転換する必要はありませんでした。ただし同社は2つの基本原則を定めています。1つは、「他者に何かを強要する権限は誰であれ持つべきではない」というもの、もう1つは、「社内の全員が各自の基本合意書の内容を果たさなければならない」というものです。Morning Starはこの2つの基本原則に基づき、セルフマネジメントシステムを考案しました。
――ボスレス化がうまくいかなかった企業の例はありますか。
コリンズ氏 本で得た情報ですが、米Googleは従業員数が400~500人ほどに増えた時点でボスレス化を試みたようです。ですが、珍しいところから反発にあいました。従業員が反対したのです。Googleの共同創業者であるラリー・ペイジ氏とセルゲイ・ブリン氏が理由を尋ねたところ、従業員らは「私たちにはメンターが必要であり、審判員も必要だ」と答えたそうです。
その次に起きたことは、まさに集合知の実例といえるでしょう。ペイジ氏とブリン氏は、従業員の希望を尊重し、双方にプラスとなる解決策を探ることにしました。その結果、彼らは管理職を復活させたのです。だが、それと同時に、マイクロマネジメント(※)を確実に回避するための2つの力学も導入しました。マイクロマネジメントこそが、両氏が最も懸念していたことだからです。両氏は、会社が成長とともにトップダウン型ヒエラルキーへと変わっていくことを恐れていました。
※管理者が部下の業務を細部まで監視、干渉する管理方法。
Googleが実践しているルールの1つは、管理職と従業員の比率を大きくすることです。ときには15対1程度になることもありますが、目標としているのは60対1の比率です。このくらい大きい比率にしておけば、スタッフを細かく管理することなどできません。もう1つのルールが、「従業員は業務時間の20%を自分の好きなプロジェクトに使うことが認められ、上司への報告も不要」という制度です。この20%ルールの狙いは、良いアイデアをつぶす権限や悪いアイデアをいつまでも引っ張る権限を誰にも持たせないことにあります。
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