校務処理時間の大幅削減を達成
先生の仕事を年160時間分削減、大阪市「校務クラウド」の実力とは?(2/2 ページ)
大阪市が進める「校務支援ICT活用事業」
この校務支援サービスの構築は、大阪市教委が2013年度から取り組む「校務支援ICT活用事業」の中核事業だ。校務支援ICT活用事業は、校務支援サービスの導入、活用の段階ごとに4つのフェーズに分けて進められてきた(表1)。
| 年度 | フェーズ | 実施内容 |
|---|---|---|
| 2011年度 | 事業検討フェーズ | ・校務支援ICT活用事業に着手。学校業務軽減検討部会を設置し実態調査 |
| 2012~2013年度 | 事業導入フェーズ | ・教員1人1台へのクライアントPC整備や事業者の決定、ガイダンス、集合研修などを実施 ・市内の31校をモデル校に選び、試験導入・検証 ・グループウェア/掲示板、メール、学校Webサイトなどに使うコンテンツ管理システム(CMS)を全小中高・特別支援学校に導入 |
| 2014年度 | 事業定着フェーズ | 市立小中学校全428校において校務支援サービスを全校稼働 |
| 2015年度 | 事業革新フェーズ | 教育の質向上を目的とした施策 |
以下、それぞれのフェーズを詳しく見ていこう。
事業検討フェーズ:「PC不足」にまつわる問題が調査で露呈、改革に着手
校務支援ICT活用事業の検討が開始された時期は2011年にさかのぼる。同市の校務作業は当時、ほとんどが紙に手書きで、教員は校務処理に膨大な時間を費やしていた。そのため、USBメモリで持ち帰って仕事をする教員が増加し、情報漏えいの問題を懸念する声が上がっていたという。
その背景には、当時の大阪市内の校務用コンピュータ整備率の低さがある。2012年の文部科学省の調査結果によると、教員の校務用コンピュータ整備率は、当時の全国平均が約103%だったのに対し、大阪市は37%と低かった。学校現場では、1台のクライアントPCを複数の教員が使い回したり、私物端末を持ち込む教員がいたりする状況だったという。プリンタ接続の待ち時間も頻繁に発生するなど、運用面とセキュリティ面の両面で問題が深刻化していたのだ。
こうした状況を打破すべく、大阪市教委は2011年度、事務局内に学校業務軽減検討部会を設置した。まずはアンケートやインタビュー、視察によって校務の実態を調査し、その結果を踏まえて校務支援ICT活用事業に着手した。
事業導入フェーズ:ポリシーの体系化と校務支援サービスの導入
2012年度の事業導入フェーズでは、ネットワーク環境や教員1人1台の校務用PCを整備するとともに、校務支援ICT活用事業の効果に関するロードマップを描いた(図4)。「授業関連の教育系事業は児童・生徒に対するダイレクトな投資なので予算取りがしやすいが、校務系事業は内部業務なので予算を確保し難い」と山本氏は明かす。そのため、校務IT化に当たっては説明責任(アカウンタビリティ)を果たすことが重要だと考え、ペーパレス化など投資対効果の高い校務を最優先したと同氏は説明する。
加えて、情報セキュリティポリシーを「管理規程」「対策基準」「実施手順」の3項目に分類して整備した。整備した情報セキュリティポリシーの特徴は、「学校を軸とした体系であることに加え、校長に権限を与えて現場の状況に対応しやすくしたことだ」と山本氏は説明する。利用者の権限を設定し、権限に応じたデータの閲覧や修正を可能にして、現場の校務の円滑化を図る。例えば、管理規程の中では、教育長を始めとした役職クラスの責任と権限を明確化している(表2)。
| 役職 | 責任と権限 |
|---|---|
| 統括情報セキュリティ責任者 | 各教育機関における情報セキュリティを統括し、情報セキュリティ対策の統一的な実施に必要な指導や助言、調整をする |
| 副統括情報セキュリティ責任者 | 統括情報セキュリティ責任者を補佐する |
| IT管理者 | 情報資産のセキュリティに関する統一的な管理に必要な連絡調整をし、各教育機関における情報セキュリティ対策の実施状況を適切に管理する。各システムの運用状況、データの管理状況、ネットワークの利用状況などを把握。情報セキュリティ管理者や情報セキュリティ責任者と連携しながら、適切に情報セキュリティ対策がなされるよう指導する |
| 情報セキュリティ管理者 | 各教育機関における情報資産の情報セキュリティに関する権限と責任を有する |
| 情報セキュリティ責任者 | システムの利用管理と端末などの運用管理を担う。各教育機関で利用者がデータやプログラムを利用する際、利用権限と実施手順に基づき、安全性に十分考慮して適切に利用されるようにする |
| 情報セキュリティ担当者 | 情報セキュリティ責任者を補佐する |
大阪市教委では、教育現場でのIT活用を支える専門人材である「ICT支援員」は設けていない。主にITが得意な教員側のリーダーが「校務支援システム担当者」に就任。校務支援システム担当者にひも付く形でIT活用事業を拡散しているという。同市教委では、この校務支援システム担当者を指して「CIO」と呼ぶ。
校務IT化の定着目指しPDCAサイクルを徹底
2013年度には、大阪市教委はモデル校31校を選び、校務支援サービスの試験導入と検証を進めた。各モデル校は、成績処理の活用や授業時数管理、週案作成など8種に分かれた検証テーマから2種を選び、それらを重点的に利用して検証した。また運用定例会を毎月設けて、各モデル校での校務支援サービスの利用状況や要望、課題などを洗い出し、サービス内容を定期的に見直した。
運用定例会では下記の項目について、PDCA(計画、実行、検証、見直し)サイクルを徹底したという。
- コールセンターでのインシデント報告
- インフラ(クライアントPC、ファイルサーバの利用率、ウイルス検知、駆除数、種別)
- 校務サービス利用率/頻度状況、メール/Webサイトアクセス数、更新数
- 校務IT化に関する課題と対策
- 障害報告と再発防止策の提案
加えて事業者との間でサービスレベル基準の合意を示すサービスレベル契約(SLA)も設定し、6種の指標を設けた(表3)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 可用性 | ・稼働率: 24時間365日運営で99.9%以上 ・計画停止時間:月10時間以内 |
| 利便性 | ・電話応答率(開庁日8~18時営業): 97%以上 ・問題解決率(24時間以内): 95%以上 |
| 迅速性 | ・障害復旧予定時刻の報告: 2時間以内 ・障害復旧時間: 4時間以内 |
このように運用定例会を設け、PDCAサイクルやSLAを基に校務支援サービスの利用内容や運用を定期的に見直して改善し、教員が使える校務支援サービスを目指していった。
1年の試験導入、その成果は?
校務支援ICT活用事業は、具体的にどのような成果をもたらしたのか。大阪市教委は、2013年度に市内の試験導入校31校で実施した校務支援サービスとグループウェアの導入・活用について教員にアンケートを実施し、その結果を基に2014年8月に成果報告として発表した。それによると、教頭の校務時間は年136.3時間、クラス担任は168.1時間の削減につながった(図5)。
山本氏は、校務支援サービスとグループウェアの導入効果について、「校務時間の短縮とともに、教員がルーチンワークから解放されたことが大きい」と述べる。この成果を受けて、大阪市教委は2014年度から、市内の全小中学校428校で同様の校務支援サービスの本格利用を開始している。
2014年度の成果について山本氏は、「現在は集計をしている段階だが、個人的な感触としては、クラス担任の校務削減時間は200時間以上に達するのではないか」と説明する。大阪市教委はその他、2013年度の試験導入から2014年度の本格実施にかけて、数値的な成果を幾つか発表している(表4)。
| 項目 | 2013年度 | 2014年度 |
|---|---|---|
| 校務支援サービスを毎日利用している教職員 | 93% | 93% |
| 学校Webサイトを毎月更新している学校 | 86% | 96% |
| テレワークを利用したことがある教職員 | 23% | 27% |
| グループウェア、校務支援サービスの利用率 | 93%(※1) | 93% |
| 学校Webサイトのアクセス数、更新数 | 86% | 96%(※2) |
| テレワーク利用率 | 23% | 27% |
※1 中でも、管理職(校長・教頭)の利用率は3カ月目で100%を達成。
※2 このうち、平日毎日更新した割合は71ポイントに上る。
テレワークの導入により、2014年度はUSBメモリに関する事故は発生しなかったという。2015年度からは、テレワークのシステムを使い、教室でタブレットを用いた出欠管理などの業務を可能にすることも試行している。またCMSについては機能を強化し、今後はスマートフォンや携帯電話からもWebサイトの更新ができるようにする計画だ。
こうした一連の校務支援ICT活用事業の成果は、現場の教員からもおおむね好意的に受け取られている(図6)。
校務IT化は「即効性」が鍵
2014年度の事業定着フェーズを経て、2015年度は事業革新フェーズに入る校務支援ICT活用事業。大阪市教委はこれまでの取り組みを基に、下記のような施策に取り組む考えだ。
- 施策1:役職別掲示板による特別情報の共有
- 施策2:ベテラン教員と新人教員の授業力格差を埋めるためのグループウェアによる授業の週案/年間指導計画などの共有・活用
- 施策3:校務情報のさらなる電子化と情報セキュリティの強化
- 施策4: CMSを用いた地域と保護者の連携強化
- 施策5:ダッシュボード形式の校長向け校務マネジメント
大阪市教委の校務支援サービスのように、自治体が外部データセンターにシステムを構築し、ネットワーク経由で利用できるようにしたシステム利用形態を「自治体クラウド」と呼ぶ。「システムの規模にもよるが、自治体クラウド導入には一般的に多大なコストが掛かるので、全ての自治体が導入できるわけではない」と山本氏は語る。現実的な自治体クラウドの実現方法として、複数の自治体が共同利用したり、“割り勘”でコストを負担するなど、各自治体のコストが削減できるような導入方法も考えていく必要があると同氏は指摘する。
「教育は『未来への投資』だといわれるが、校務に関してはすぐに結果を出す必要がある」と山本氏は強調する。「現場では何が負担になっているのか、教員の声が教育委員会に届くことが大切だ」(同氏)
執筆者紹介
神谷加代(かみや かよ)
フリーランスライター/ブロガー。結婚を機にサンフランシスコに移住し、日本語の絵本を扱ったECサイトを運営。その後、10年の在米生活を経て帰国し、主婦ブロガーとして「家庭×教育IT」に関する話題をメインにした「主婦もゆく iPad一人歩記」を執筆。家庭や教育におけるITの在り方を主婦目線で描き、教育関係者をはじめとする多くの読者から支持を得ている。現在は教育ITの分野を中心にライター業、子ども向けプログラミング教室の講師として活動中。著書に『iPad教育活用 7つの秘訣』。
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