理想的なクラウド基盤を構築する方法【第1回】
ビジネス部門から見た、理想的なクラウドの要件とは?(2/2 ページ)
3.現状の最適解がハイブリッドクラウドになる理由
ここまでで、クラウドの必要性、理想像については明確になった。では、現状のクラウドでどこまで実現可能か考察してみよう。まずは、プライベートクラウド、パブリッククラウドの特徴を下記に整理する。
プライベートクラウドの特徴
・専用システムのためセキュリティが高い
・サービスレベルを自由に設定できる
・初期投資が高額になる
・システムの増強に月単位の時間が必要になる
・適切なリソース総量を決めるのが難しい(ある程度の過剰リソースが必要)
・IT基盤のハードウェア、ソフトウェアの管理が必要になる
パブリッククラウドの特徴
・スモールスタートが可能
・大幅なワークロードの変動に強い
・可用性に限界がある(SLAが保障されていない)
・運用にマッチしない課金体系を利用するとコストが高額になる可能性がある
・セキュリティとデータ保護がプライベートクラウドに比べると落ちる
・ネットワーク経由となるため、データ移行に時間がかかる
プライベートクラウドは、自社で管理・運用を行うため、セキュリティおよび信頼性について、求められるレベルに合わせてシステムを構成することが可能である。その半面、スモールスタートで導入する場合でも数百万円以上の初期コストが必要になる。ワークロードが大きく変動するシステムを乗せた場合、余剰リソースが大量に発生し、費用対効果が大幅に悪化する恐れがある。例えば、ワークロードがピークを超え、ビジネス部門がITリソースを解放したとしても、基盤はリソースを抱えたままなので運用費は一定のままである。
パブリッククラウドは、クラウド事業者の基盤を利用するため、数万円のごく小規模からスタート可能であり、コストを無視すれば数千台のサーバを動作させることも可能である。しかしながら、長期的に利用した場合、プライベートクラウドに比べてコスト高になる可能性がある。また、ネットワークトラフィックや使用したストレージ容量に課金されるサービスもあるため、データ容量が多いシステムはパブリッククラウドには向かない。ネットワークの接続形式もクラウド事業社のサービスに依存するため、複数のクラウド間をまたいだアクセスは一般的に苦手である。
以上のように、プライベートクラウドのみ、またはパブリッククラウドのみでは、理想的なクラウドの要件を満たすことができないのは明らかである。そこで、プライベードクラウドとパブリッククラウドのデメリットを打ち消し、メリットを最大限享受できるハイブリッドクラウドに着眼する。
| 項目 | プライベートクラウド | パブリッククラウド |
|---|---|---|
| 初期コスト | 数百万~ | 数万~ |
| 利用コスト | 一定 | 変動 |
| サービスレベルの選定方法 | 個別設定 | 選択式 |
| クラウド基盤のシステム管理 | 要 | 不要 |
| クラウド基盤のキャパシティー管理 | 要 | 不要 |
| 急激なワークロードの変動への対応 | 不可 | 可 |
| 既存からクラウドへのデータ移行 | 容易 | 困難 |
| セキュリティ性 | 高 | 低~中 クラウド事業者に準拠 |
| 可用性 | 高 | 低~高 クラウド事業者に準拠 |
| データ保護 | 高 | 低~高 クラウド事業者に準拠 |
しかし、仮想環境やプライベートクラウド環境に、パブリッククラウドを「単に併用する」だけでは理想的なシステム像ではない。シームレスな1つの環境として、仮想マシン、データ、アプリケーションが用途や状況に応じて、ネットワーク設定を変更せず、プライベートクラウド/パブリッククラウド間を自由に移動できること、これが真の意味で理想的なハイブリッドクラウドのシステム像といえる。
ただ現状は、プライベートクラウドとパブリッククラウド間をシームレスに移動できるような理想的なハイブリッドクラウドは、既存製品やサービスを組み合わせるだけでは実現できない。各ベンダーが仮想化基盤とパブリッククラウドを一元管理できるツールをリリースしているが、任意のパブリッククラウドと連携して、シームレスに管理できるツールは今のところ存在しない。しかし、「『Hyper-V』+『Microsoft Azure』」「『VMware vSphere』+『VMware vCloud Air』」など、理想に近づきつつあるが、ベンダーロックインされる可能性がある。今後、複数のパブリッククラウドとプライベートクラウドを連係させたマルチクラウドなハイブリットクラウドが実現できれば、パブリッククラウドへのロックインを回避できるようになるだろう。
4.ハイブリッドクラウドを見据えた理想的なプライベートクラウドを考えていこう
ハイブリッドクラウドの設計は、従来の物理環境や仮想環境の方式の組み合わせではなく、ハイブリッドクラウド特有の新しい方式で設計するべきである。現状、各技術分野おいて、そのようなものが実在するかどうかは次回以降の連載に任せるとして、あくまで姿勢として、そう考えるべきである。そのためには、ハイブリッドクラウドに対応した新しい技術や製品に注目しておく必要がある。例えばパブリッククラウドが提供するAPIに対応した製品だ。
仮想化が導入され始めたころ、物理環境の方式を仮想環境に適用し、運用で苦労した人は多いのではないか。その後、ハイパーバイザーと連係し仮想化特有の機能に対応した製品が生まれ、運用性がはるかに向上した。ハイブリッドクラウドに関しても同じことがいえるのではないだろうか。パブリッククラウド(IaaS:Infrastructure as a Service)では、ハイパーバイザーやストレージへの操作が許可されておらず、仮想マシンより上位レイヤーに対して物理環境と同じ方式を使用することになり運用が非効率になる。ハイブリッドクラウドでは、その経験を生かして、今から準備が必要ではないかと思う。そのためには、まずはオンプレミスをプライベートクラウドとして整備し、プライベートクラウドに主軸を置きつつ、最適なパブリッククラウドを活用するための実装を検討すべきである。
次回以降、下記の各技術分野の専門家が、課題/現状、設計指針/実装方針、製品選定などについて検討していく。最後までお付き合い頂けると幸いである。
本連載で予定している技術分野
ノード(サーバ、ハイパーバイザー)
ストレージ
クラスタ/事業継続
ネットワーク
運用/自動化
伊藤忠テクノソリューションズ
ITサービス事業グループ 製品・保守事業推進本部
ITインフラ技術推進第1部
渥美秀彦/木島 亮/國分 学/高橋繁義/藤澤好民
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
理想的なクラウド基盤を構築する方法
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「Excel至上主義」の終わらせ方 丸2日の手作業地獄から情シスと現場を救うには
-
2
「Microsoft 365のセキュリティ運用」に関するアンケート
-
3
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
4
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
5
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
6
「Salesforceのテスト自動化ツール」に関するアンケート
-
7
IT製品の導入に関するアンケート「サーバ&ストレージ」編
-
8
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
9
「AI時代の統合基盤・エンタープライズAI管理」に関するアンケート
-
10
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー