いまさら聞けないハイブリッドクラウド【第5回】
オンプレミスとクラウドをつなぐ、システム間データ連係の仕組みを大解剖
システムの円滑な連係は、ハイブリッドクラウドのメリットを最大化するための重要な要素である。データ連係のニーズやパターン、データ連係ソリューション、留意点に触れる。
ハイブリッドクラウドは、システム単体の最適化に適用される場合もあるが、一連の業務プロセスを構成する複数のシステム全体で適用される場合もある。後者の場合、ハイブリッドクラウドの成果を享受するためには、システム間データ連係を考慮する必要がある。ハイブリッドクラウドへの移行が進むと、自社開発アプリケーション、パッケージソフトウェア、SaaSなどアプリケーションの形態だけでなく、アプリケーションの稼働環境(オンプレミス《自社環境》、事業者のデータセンター、IaaS/SaaSなどのサービスプロバイダーのデータセンター)も含め、データ連係を柔軟に検討する必要がある。
今回は、データ連係のニーズやパターン、データ連係ソリューション、データ連係における留意点などに触れていきたい。
ハイブリッドクラウドでのデータ連係の必要性
オンプレミスでは既に、複数のシステム間データ連係が一般的に行われている。クラウド活用が進んだとしても、当然、システム間データ連係のニーズはなくなるわけではない。特に、SaaS活用が進むと、必要なアプリケーションを容易に調達できるようになり、既存システムにあるマスターデータをSaaSで利用したり、SaaSの処理結果を既存システムに反映したりといったシステム間データ連係が容易に想像できる。そこに大きな工数と時間がかかってしまうことは、迅速性や柔軟性といったクラウド活用のメリットを損なう恐れがある。データ連係は、全体最適を図るハイブリッドクラウドにおいて極めて重要な要素だといえる。
考慮すべきハイブリッドクラウドのパターン
ハイブリッドクラウドでシステム間データ連係を行う上で、どのような稼働環境で連係を行うかを理解しておくことは有用だ。
1.オンプレミスとIaaS/PaaS
企業のクラウド活用が進むにつれ、投資コスト削減、運用負荷の軽減などの理由から、オンプレミスにサーバを用意せず、IaaSやPaaSにシステムを開発・構築し稼働させるケースが増えている。IaaSではオンプレミスと同様に、パッケージアプリケーションを稼働させることもある。既存のオンプレミスにおける方法の延長線上で連係するか、クラウドサービスのAPIを通じて連係することになる。
2.オンプレミスとクラウド(SaaS)
ビジネスの変化が速くなる中、手軽にアプリケーションを導入、活用できるという観点で、SaaSは非常に魅力的な選択肢である。ただし、複数のシステムを連係させるような業務プロセスに組み込んで活用するためには、既存のシステムとの連係を十分考慮しなければならない。SaaSでは提供されるAPIを通じて連係するケースが一般的である。
3.クラウド(IaaS/PaaS/SaaS)とクラウド(IaaS/PaaS/SaaS)
今後、より多くのアプリケーションがSaaSで提供されればSaaS間の連係が必要になってくる。特定のSaaS間でデータ連係する機能を提供している場合もあるが、そうでない場合や、IaaS上のシステムとSaaS連係をする場合は、各サービスのAPI仕様の変更やサービス間のネットワーク接続なども考慮する必要が出てくる。
4.上記1~3の組み合わせ
ハイブリッドクラウドの活用が進むと、上記の1~3の形態を全て含むような複雑な構成となる。その際には、各システム間を1対1で連係させることはもはや現実的ではなく、システム間を円滑にデータ連係するためには、次に触れるデータ連係ソリューションの活用が必須になることは簡単に想像できるだろう。
データ連係ソリューションの活用
システム間データ連係を行う場合、都度プログラムを開発して連係させることはもちろん可能だが、連係仕様が変更になった際や、連係先が増えた場合の運用負担が大きい。こうした問題を解決させるために従来のシステム間データ連係では、EAI(エンタープライズアプリケーション統合)などのデータ連係ソリューションを活用するケースが多い。EAIが提供する、主要なデータベース(DB)や各種アプリケーションパッケージに対応したアダプターなどが、連係を容易かつ円滑にしている。
クラウドサービスとのデータ連係の場合、一般的にはクラウドサービスが提供するAPIを利用する。各種データ連係ソリューションは、主要なクラウドサービス向けにAPIを活用して連係できるアダプターを用意している。クラウドサービスは頻繁に提供機能を増加したり、仕様を変更したりする。そうした変更に対応するためにもデータ連係ソリューションを活用することにはメリットがある。また、一定以上のクラウドサービスと連係できることは、各データ連係ソリューションの競争力を維持するために必須となっており、各社とも連係先を順次増やしている。データ連係ソリューションを活用することは、ユーザーにとっても活用できるクラウドサービスの選択肢を保持するために有用である。
1.データ連係ソリューションが提供する主な機能
以下に、データ連係ソリューションが提供する主な機能を列記する。こうした機能により、システム間データ連係をより簡単に開始できるとともに、連係先が増えた場合や、連係するデータが変更になった場合などにも柔軟に対応することができる。
| 機能 | 機能の概要 |
|---|---|
| トリガー | データ連係処理をさまざまなタイミングで自動実行する機能。ファイルベント、インターバル、スケジュール、DB、FTP、Webサービスなどをトリガーとして実行する |
| アダプター | 複数の形式のシステムやデータの連係を容易に行うための機能(モジュール)。アダプターを利用すれば連係ごとの面倒なコーディングやデータ仕様の解析などから開放される アダブタの種類 -クラウド:(例)Salesforce、Amazon Web Services(AWS)、Google Apps、Microsoft Azureなど -アプリケーション:(例)SAP、Microsoft Dynamics、Oracle E-Business Suite、IBM Notes/Dominoなど -ファイル:(例)CSV、Microsoft Excel、PDF、HTML/XHTML、XMLなど -DB:(例)JDBC、ODBC、Oracle DB、SQL Server、IBM DB2、PostgreSQL、MySQL、Microsoft Accessなど -ネットワーク:(例)Mail(SMTP/POP3/IMAP4)、FTP、Web、REST、Webサービスなど |
| デザイナー | データ連係に必要なスクリプトなどを作成する機能。グラフィカルなインタフェースで、ノンプログラミングでスクリプトを作成できるものもある |
| コントロールパネル | 各種設定や実行状況のモニタリングなど、運用管理に必要な機能を提供 |
| ログ出力 | 各種のログを出力する機能を提供 |
2.自社で製品を導入か、サービスを利用するか
クラウド時代になり、データ連係ソリューションも「サービス利用」できるものが増えてきた。以下では、自社で製品を導入するケースとサービスを利用するケースのメリットを比較してみたい。基本的には、一方のメリットが他方のデメリットとなる。データ連係に求める要件や予算などに応じて選択することが望ましい。
| 概要 | メリット | |
|---|---|---|
| 自社導入 | パッケージ製品を購入し、自社環境で構築、運用する | -自社環境に合わせたデータ連係を柔軟に行える 構成自由度や性能担保がしやすい -長期利用や大規模利用でのコストメリット -高い管理性の保持 |
| サービス利用 | クラウド型(SaaS)を利用する | -短納期 -初期コスト圧縮 -短期利用が可能 -サーバやツール運用の負担の大幅な軽減 -機能追加や改善を自動的に享受できる |
3.データ連係ソリューションの例
以下では、代表的なデータ連係ソリューションをリストアップする。従来のオンプレミスでの運用をベースとしつつも、各種のアダプターによってクラウド連係を実現しているもの、クラウド連係をメインとし、SaaS型での提供に特化したものも登場している。
| --- | --- | --- | --- | --- |
|---|---|---|---|---|
| ソリューション | 提供会社 | 提供形態 | 備考 | |
| DataSpider Servista | アプレッソ | ○ | 豊富な連係アダプターが用意されており、BPMツールとの連係も可能 | |
| SkyOnDemand | テラスカイ | ○ | クラウドサービスとの連係を重視したSaaSサービス | |
| ASTERIA | インフォテリア | ○ | ○ | 複雑な連係をノンプログラミングで実現するフローサービスが特徴。自社導入およびサービス利用の両方に対応 |
| Concord | ブリスコラ | ○ | 世界の主要なパッケージ製品やクラウドサービスへの接続をサポートする豊富なアダプターを用意 |
データ連係におけるポイント
詳細については次回以降に譲るが、ハイブリッドクラウドをフルに活用するための検討すべきポイントを挙げる。
スループット
オンプレミスのシステム間データ連係と比較すると、オンプレミスとクラウド、クラウドとクラウドの連係では、スループットが問題になることがある。クラウドサービスの処理性能とネットワークの速度に起因するものであるが、実際の処理時間を測定する必要がある。
エラー対応
クラウドサービスとの連係では、ネットワークにおけるエラーが発生しやすい。そのため、エラー時のリトライ処理が不可欠であり、かつクラウドサービスによるエラー時の返信内容が異なるため、個別の対応が必要になる。
ストレージやネットワークに対する課金
クラウドサービスでは、ストレージ容量やネットワーク通信量への従量課金を行うものが多いため、使用量を十分に見積もり、コストの最適化を図る必要がある。
ネットワーク接続形態
クラウドサービスとの接続は、基本的にインターネット経由となる。連係するデータのセキュリティレベルを上げたい場合、VPNなどを使用することになる。また、大容量のデータをやりとりする場合、通信速度が重要になるケースがある。その場合は、インターネット経由ではなく、専用線接続という選択肢を取る必要がある。最近は、キャリアサービスで手軽に利用できるクラウドサービスとのダイレクト接続(専用線接続)の提供が増えており、選択肢が広がっている。ハイブリッドクラウドのネットワークについては第2回「4パターンで理解する、ハイブリッドクラウドのネットワーク」を参照されたい。
高度なクラウド連係によって、ハイブリッドクラウドのメリットを最大化する
今後、より多くのシステムがクラウドで稼働することが想定される。オンプレミスやIaaS/PaaS上のシステムと複数のSaaSで構成された、一連のビジネスプロセスを連係させるような活用方法が広がるだろう。それに伴い、データ連係の重要性も高まる。具体的には、よりリアルタイムに近いタイミングでの連係や、より大量のデータをやりとりが必要になってくるだろう。
長い目で見れば、多くのクラウドサービスがそうした高度な連係をキャッチアップして進化していくと考えられるが、その過程においては、利用する側はクラウドサービスごとの仕様や特性を理解する必要がある。データ連係ソリューションも単に個別システム間のデータのやりとりではなく、複数クラウド利用を前提とし、ビジネスプロセス連係を想定した機能が拡充されていくだろう。
クラウド間データ連係において、ネットワークは今後より重要な要素となる。IaaS/PaaSの多くは専用線による高速かつセキュアなダイレクト接続サービスを提供し、その利用は拡大し始めている。SaaSに関してもダイレクト接続へのニーズは強まる可能性が高く、SaaSプロバイダーはそうしたニーズへの対応が求められるだろう。
データやプロセスの高度な連係は、IT活用の全体最適を実現するハイブリッドクラウドのメリットを最大化し、ビジネスのスピードアップと柔軟性に貢献するものである。ハイブリッドクラウドに取り組むのであれば、将来的な展望の中でデータ連係についても十分に考慮することをお勧めする。
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