より人間らしいAIの実現へ
ディープラーニングは“黒歴史”を乗り越えられるか
ディープラーニング(深層学習)がAIコミュニティーを席巻している。Microsoftのエリック・ホービッツ氏とFacebookのヤン・ルカン氏が、この種の機械学習がなぜ極めてエキサイティングなのかを解説。
人工知能(AI)が再ブームに沸いているが、かつてのように、また“AIの冬”と呼ばれる停滞期に入ってしまうのだろうか。この分野の著名な専門家であるエリック・ホービッツ氏とヤン・ルカン氏は、そうはならないと考えている。「マシンインテリジェンスによって物事がどれだけ高速になるかは不明だ。私自身、確固たる見通しは持っていない」と、米Microsoftの研究機関Microsoft Researchのディレクターを務めるホービッツ氏は語る。「だが、近いうちに非常に価値ある大きな発展が生まれるのは明白だと思う」
AIブーム再燃につながる2つの潮流
ホービッツ氏は、2つの“主要な潮流”がAIの現在の隆盛をもたらしたと指摘する。その1つは「確率の革命」、すなわち「論理に基づく推論から、不確実性の下での推論へ」という流れだ。「統計学、オペレーションズリサーチ(作戦・運営研究)、そしてもちろん、確率的意思決定科学といった分野の研究が、この潮流の原動力となっている」とホービッツ氏は2015年11月初旬、米誌MIT Technology Review主催の新興技術カンファレンス「EmTech」で語った。
だが、最高情報責任者(CIO)に強い印象を与えるのは、ホービッツ氏が挙げるもう1つの潮流だろう。CIOは、再び到来したAIの活況を支える技術的な進化と、ビッグデータが脚光を浴びるようになった背景にある技術的な進化が、同様のものであることに気付くはずだ。「もう1つの主要な潮流は機械学習の革命だが、これは主に近年、われわれがデータの収集、保存にほぼ無限のストレージを利用できるようになったことに加え、Webによるユビキタスな接続のおかげでデータソースが拡大してきたことによって促進されてきた。これらのこととコンピューティングの発展が相まって、機械学習にルネサンスをもたらした。機械学習は現在のAIのけん引役となっている」とホービッツ氏は述べた。
この指摘は、最近大きな注目を集めているディープラーニング(深層学習)に特に当てはまる。ディープラーニングは機械学習の一種で、一部の提唱者は、人間の脳が情報を処理する仕組みに似たものと説明している。この分野の権威として知られる米ニューヨーク大学教授で米FacebookのAI研究ディレクターも務めるヤン・ルカン氏は、ディープラーニングは古いアイデア(1950年代にまでさかのぼると言ってよい)がこうした技術的な発展のおかげで復活したものだと述べている。同氏はEmTechで、この技術的発展の具体例を2つ挙げた。1つは、ディープラーニングシステムを効果的に訓練あるいは“教育”するために必要な大規模データセットを扱えるようになったマシン。もう1つは、「並列性が高く、最新チップのほとんどが2000コア程度を搭載しているGPUだ」(同氏)
だが、ディープラーニングは常にもてはやされてきたわけではない。ルカン氏はそのことを大抵の人よりも知っている。
ニューラルネットワークの光と影
ルカン氏は1990年代に、「畳み込みニューラルネットワーク」(ConvNet)と呼ばれるディープラーニングの一種について顕著な実績を挙げた。その設計は脳の視覚野から大まかなアイデアを得ている。畳み込みニューラルネットワークは複数の層を通じてデータを処理し、画像や文字を識別する。最初に最下層で非構造化データの基本的な特徴を発見し、発見結果を上位の層に順に渡し、集約処理していくことで、最上位層で最終的に、データで表現されているものを識別する。ルカン氏は25年前、米AT&T Bell Laboratoriesに勤務していたときに、手書きの数字を認識できるニューラルネットワークを構築。その手法は認識成功率が高かったため、銀行が小切手預金用に現金自動預払機(ATM)に導入した。
だが、畳み込みニューラルネットワークが脚光を浴びたのはつかの間だった。「機械学習コミュニティーは離れていった。このアイデアは一過性のものでしかないと考えたからだ」とルカン氏は語る。そして、「ニューラルネットに第2の死が訪れた」と同氏は振り返る。第1の死が訪れたのは1960年代だった。米MIT(マサチューセッツ工科大学)のマービン・ミンスキー氏を含む研究者たちが、「従来のアプローチの限界を露呈させてしまったからだ」とルカン氏は説明した。
強力なニューラルネットワークを実現するには、処理を行う層を増やす必要があることが分かっている。だが1960年代には、ミンスキー氏が論じていたように、その要件に対応できる技術がなかった。1980年代の研究者も、依然として技術的な制約を抱えていた。「研究者は2~3層のネットワークしか訓練していなかった。われわれが持っていたマシンではそれが精いっぱいだったからだ。その限界は主に、扱えるデータセットが小さいことに起因していた。データが小さいときにネットワークを大きくしようとしても、あまりうまくいかない」(ルカン氏)
こうした場合、ニューラルネットワークは暗記によって学習してしまう恐れがある。それでは、有用な機能は発揮できない。当時としては例外的だったのが、5層、6層、7層で構成されていたルカン氏の手書き認識用の畳み込みニューラルネットワークだ。だが、1990年代末までに、ニューラルネットワークの考え方は人気がなくなり、畳み込みニューラルネットワークへの期待もしぼんでしまった。
「人々は、『層を増やすだけでうまくいく』とは考えられなかった。誤った数学的直観がその一因だった」(ルカン氏)
ところがここ5年程度で、多層型ニューラルネットワーク(10層以上)が一般的なものになり、この技術のパフォーマンスと業界での認識は劇的に変わった。今では、「スマートフォンで動作する全ての音声認識システムが、ディープラーニングを利用するようになった。ディープラーニングは、人間の視覚のロボット版であるコンピュータビジョンの分野も席巻している」とルカン氏は語る。
「コンピュータビジョンコミュニティーで画像認識に取り組んでいる人々は、1年以内の間に、それまで何を使っていたかにかかわらず、こぞって畳み込みニューラルネットに鞍替えした。30年間研究してきたが、こんなことは、つまり、こうした技術がこれほど急激に優勢になるのは、見たことがない」(ルカン氏)
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