従業員が業務で得た情報は宝の山
営業利益アップを達成した老舗企業に学ぶ、中小企業の“起死回生”CRM活用術(2/2 ページ)
「Chatter」を徹底的に使って、全従業員のオープンなコミュニケーションを促す
Mipoxのユニークな取り組みが、社内SNSのChatterを全社的に活用したことだ。このときも渡邉氏は、Chatterという新しいツールを浸透させるために、メールの利用を極限まで減らすようにして、Chatterへの利用を促していった。また渡邉氏は「情報を抱えている人に価値があるのではなく、情報を発信する人に価値がある」という経営者メッセージを繰り返し表明した。
業績低迷とともに、部門間の対立や孤立が目立つようになり、社内の雰囲気は悪くなっていた。Chatterの活用はこの環境に刺激を与え、従業員同士のコミュニケーションをオープンに、そして活性化させる意識改革につながっていった。
ChatterのアカウントはMipoxの全従業員(グローバル含む)に付与している。そのため、グループ分けの機能を使い、「他の国の従業員には見られたくない」という気持ちにも配慮した。例えば中国事業所では中国のみのChatterグループに分けたことで、メッセージのやりとりが増えたそうだ。
また、経営者にとってChatterは、経営判断のための情報のアンテナにもなる。渡邉氏は、Chatterのアクティビティを追うことで、Salesforceに展開するさまざまな情報にショートカットできるのだ。
Salesforce導入の成果
「従業員が業務で得た情報は会社の財産。それをプールするための器を持つ必要がある」という理念から、Mipoxでは社長である渡邉氏自らがオペレーション改革の旗振り役となった。社内にSalesforceを普及させていく過程でも同様に、Salesforceをきちんと利用できるキーパーソンを育てて、その人を他の従業員のお手本にさせる流れを意識したという。日本の営業部門での運用が軌道に乗ると、活用範囲は当初の構想通り全部門に広がり(表2)、そして海外の営業部門にも拡大していった。
| 部門 | 成果 |
|---|---|
| 営業部門 | ・PDCA管理と未コンタクト先をゼロに ・業務の見える化と上司のフィードバックで受注精度向上 ・案件の増加率で効果を判断 ・週報、月報の廃止(報告書を完全に削減) ・会議はSalesforceに基づいて話をする |
| 技術部門 | ・技術データは全てSalesforceに ・開発の期日設定と営業との連携 ・作業時間を短縮し、処理数を増やす ・営業からの情報で開発精度アップ ・過去の経験を蓄積し、重複作業をなくす ・開発の進み具合はChatterでアップデート ・新製品リリースは製造部門とも共有 |
| 製造・生産管理部門 | ・日々の生産情報を共有 ・トラブル情報もChatterに載せる ・処理数を増やす ・納期情報の共有 ・依頼事項の返信承諾は「いいね!」で済ませる(省力化) |
| 品質保証部門 | ・過去事例で対処のスピードアップ ・処理件数と処理時間・情報共有で貢献 |
| 財務管理部門 | ・数字以外の状況を知ることができた ・数字以外の状況にも向き合うようになった |
| 人事総務部門 | ・人材、人事情報のデータベースとしてSalesforceを活用 ・社内の情報の把握が容易に ・採用面談の記録もSalesforceに載せる(アクセス権限を細かく設定) |
出典:Mipoxのセミナー発表資料より
Salesforceによる業務可視化がもたらした変化は次の4つだ。
- 重複業務の削減(報告書や会議を廃止)
- 情報検索効率の向上
- ノウハウの蓄積
- リスクを常に想定し、早期の対処を可能に
従業員が自分以外の部門の業務に理解を示し、部門間の心理的な対立がなくなり、顧客のために仕事をするという意識を醸成できたことも特筆すべき成果だろう。Chatterのバーチャルなコミュニケーションの促進が、リアルのコミュニケーションの増加にもつながり、「みんなが仲良くなった」と渡邉氏は話す。
業務スピードが上がったことも大きな成果だ。Salesforceには全従業員200人以上のChatter情報が流れ、常に共有されている。その結果、各部署の仕事の把握が早くなり、稟議(りんぎ)決裁に掛かる日数は0.8日だという。Chatterの何気ないメッセージが新しい製品開発のヒントになったケースもあった。Salesforceを導入した2012年以降、営業利益は4期連続増収増益を達成した。
会社が求める人物像も変化した。Mipoxは人事評価や査定の際に情報発信力(SalesforceおよびChatterの投稿数、いいね数)を“会社への貢献度”として参考視している。現代のビジネスでは顧客ニーズは多様化し、変化も早い。特に中小企業のビジネスではフットワークの軽さと対応の速さが生命線になる。世界の顧客ニーズに素早く柔軟に対応し、短期間での製品開発につなげていくために、中小企業ならではのスピード感をSalesforceが支えているのだ。
今後の課題と、さらなるSalesforce活用の展望
Mipoxでは、Salesforceの活用範囲がますます拡大している。例えば技術部門では特許管理を開発プロジェクトにひも付けて管理するようになった。人事部門は、月1回の上司と部下のコミュニケーションの機会を設け、面談の積み重ねが人事評価につながるようにSalesforceで管理している。製造部門では、製品ごとの製造条件データベースをSalesforceの中で管理して、いつでもどこからでも情報を確認できるようにした。今後は資産管理や、品質マネジメントシステムの国際規格「ISO9001」、環境マネジメントシステムの国際規格「ISO14001」の認証取得プロジェクトの管理などにも活用していく予定だ。
Salesforceに蓄積された情報をさらに深く活用するために、データ分析ツール「Wave Analytics」、マーケティングツール「Pardot」といった関連製品の活用も始まっている。2016年4月からは、Salesforceアカウントも従業員全員に付与し、To Do管理に活用させるという展望を見据えている。MipoxにとってのSalesforceは、ビジネスを加速させるエンジンだ。経営者の強い意志と、従業員の創意工夫の相乗効果で、これからも新しい価値が生まれていくことだろう。
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