動き始めた「ラーニングアナリティクス」【第2回】
教育ビッグデータ分析「ラーニングアナリティクス」に必須な“4つの機能”とは?(2/3 ページ)
ラーニングアナリティクスの4大機能
(1)学習履歴の収集
eラーニングシステム、学習アプリ、各種デバイス、人事データベースなどの教育システムには、学習活動の結果としての学習履歴や行動履歴が記録されています。ラーニングアナリティクスでは、これら複数の教育システムが生成したさまざまな種類の学習履歴をまとめて処理する必要があります。
こうした多種多様な教育システムの学習履歴を取り扱うための標準規格が、現時点で2種類存在します。米国防総省の内部組織Advanced Distributed Learning(ADL)の「xAPI」(Experience API、旧「TinCan API」)と、業界団体IMS Global Learning Consortiumの「Caliper Analytics」です。xAPIやCaliper Analyticsを用いることで、多様なシステムの学習履歴を収集し、分析用のシステムへ引き渡すことが可能になります。
これらの規格は、学習履歴を記録する教育システムに埋め込んで利用します。その際、「どのデータを」「どのタイミングで集め」「どのように処理をするか」を決める必要があります。これを「ステートメント設計」といいます。例えば受講者がログインするたびに、ログイン日時や利用端末OS、利用Webブラウザの情報を採取して履歴を引き渡す、といった設計をします。
1つの教育システムから引き渡される学習履歴は、多くの場合複数存在します。そのため複数のステートメント設計が必要になります。それぞれの教育システムについて、こうしたステートメント設計を過不足なく実施して、必要な学習履歴が収集できるようにしておきます。
(2)学習履歴の格納
こうして引き渡された学習履歴は、LRS(ラーニングレコードストア)という学習履歴データベースに格納します。LRSは、いわば教育ビッグデータの実体です。
データベースといえば、Oracleの「Oracle Database」やMicrosoftの「SQL Server」、オープンソースソフトウェア(OSS)の「MySQL」などのリレーショナルデータベース管理システム(RDBMS)を用いることが一般的です。しかしLRSでは多くの場合、「NoSQL」という、RDBMSとは別の種類のデータベースを利用します。NoSQLはデータ構造が単純で、分散処理も容易なことから大規模データを格納するのに適しており、Webコンテンツやビッグデータの格納先として注目されています。
一見便利なNoSQLですが、現時点では弱点もあります。NoSQLの多くは、RDBMSが得意とする複雑なデータ処理を苦手としています。このためデータを別途集計してRDBMSに格納しておき、より分析しやすくデータを整えることもあります。
(3)学習履歴の分類・整理(データクレンジング)
教育ビッグデータの多くは、そもそも分析しやすくするために設計されているわけではないですし、データの揺れや欠損もあります。不完全なデータが存在した状態では正しい分析ができないので、“きれい”で“正しい”データにする作業が必要です。この作業は「ごしごしこすってきれいにする」様子に例えて「データクレンジング」と呼ばれます。
昔からある代表的なデータクレンジングの1つに「名寄せ」があります。例えば複数のシステム間で、メールアドレスや学籍番号、社員番号など、個人を特定するキーとなる文字列が存在する場合、これらキー文字列が一致しているデータを同一人物のデータだと見なすことは問題ないでしょう。
ただし、こうしたキー文字列が存在しないケースで、氏名が一致している人を同一人物だと見なしてよいのでしょうか。さらに氏名の揺らぎ、例えば「渡辺太郎」さんと「渡邉太郎」さんを同一人物だと見なしてよいのでしょうか。氏名に加え、性別や生年月日、電話番号が一致していれば同一人物だと見なしてよいのでしょうか。こうしたさまざまなケースを踏まえた上で、適切な判断をしてデータを整理しなければいけません。
欠損データの扱いも考える必要があります。例えばeラーニングシステムで、学習者の1回当たり学習時間を、ログイン時刻とログアウト時刻という2つの値の引き算から算出することを考えます。強制終了などの理由で、ログアウト時刻が空欄になるケースが発生する可能性はゼロではありません。こうしたケースでは学習時間をどのように計算するのか、あるいは無効として削除するのかなどを事前に想定し、どう処理するのかを定めておく必要があります。
ここで挙げた例はごく一部ですが、それ以外にも教育システムの特性によってさまざまなデータクレンジングが必要です。ちなみにこのデータクレンジングは教育に限った話ではなく、ほとんどのデータ分析に必要な作業です。一説にはデータサイエンティストの業務の大半を占めるとさえ言われています。
(4)学習履歴の分析
以上の手順で、ようやくデータが準備できました。いよいよラーニングアナリティクスの本体ともいえる分析に入ります。学習履歴の分析にはさまざまな手法がありますが、大きく分けて3つのレベルに分類できます(表2)。
| レベル | 特徴 | 利用する主要な手法/技術 |
|---|---|---|
| レベル3 | 自動化 | アルゴリズム、人工知能(AI) |
| レベル2 | 学習傾向の可視化 | 解析、相関、クラスタリング |
| レベル1 | 基礎情報の可視化 | 集計、統計 |
レベル1では、学習履歴を出現率や平均値、偏差値などの統計手法でまとめ、データそのものを表や散布図、棒グラフ、円グラフなどのグラフで表現します。高度な処理というよりも、「Microsoft Excel」などの表計算ソフトウェアでの一般的な処理に近く、学習の全体像を分かりやすく把握することに主眼を置いています。
レベル2では、学習履歴をより深く分析することで、成績に相関する学習活動を明らかにし、学習活動の背景にある学習傾向を探ります。いわばラーニングアナリティクスの王道ともいうべき領域です。例えば「学習完了に大きく寄与する学習行動は何か」「成績上位層の学習行動パターンは」など、学習者の学習に有益な情報を与えたり、教員に効果的な指導方法を示唆したりします。
レベル3では、分析結果を用いて自動処理をします。代表的な自動処理には、
- 自分に最適な教育コースを案内する「レコメンド」
- 学習者のこれまでの学習状況を基に、弱点補強や発展学習のための教材を個別かつ動的に生成する「アダプティブ」
- 途中でドロップアウトする危険性の高い人を抽出する「退学予兆検出」
があります。こうした自動処理により、教育ビッグデータを分析して生まれた価値を学習者や教員へダイレクトに届けることができます。
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動き始めた「ラーニングアナリティクス」
教育や学習活動から生まれる教育ビッグデータを生かす「ラーニングアナリティクス」。その実態を明らかにする。
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