ライフサイエンス企業のCIOが描く成長戦略【第2回】
製薬企業の営業・マーケ部隊をITで支援する2つの方向性とは?(2/3 ページ)
変革を促進するファクター(1):顧客エンゲージメント最大化に向けた営業部隊の進化
1.より一層の顧客理解
製薬業界に限らず、エンゲージメント(きずな)の最大化のためには、顧客理解は欠かすことができない。医師との面談履歴を蓄積して営業・マーケティング活動に役立てるために、多くの製薬企業がCRM(Customer Relationship management:顧客関係管理システム)を導入している。CRMとビジネスインテリジェンス(BI)ツールを連係させて利用する企業が多く、医薬品の販売状況や競合に対するシェア、営業活動のKPI(重要業績評価指標)、KGI(重要目標達成指標)達成状況などを本社と現場で共有しながら顧客に合わせた営業・マーケティング戦略を展開していく。
CRMはMRにとって必要不可欠なツールである。MRは戦略を実行する過程で、医師の属性情報に加え、活動履歴などをCRMに記録する(図2)。自身の活動履歴だけでなく、前任者や協業者の活動履歴も訪問前に確認しながら営業活動を進める。医師の属性以外にも、学会や地域など医師が所属するコミュニティー、KOL(Key Opinion Leader、自社医薬品の普及に影響力を持つと考えられる人物)、医療従事者間の相関や影響力なども踏まえた顧客分析が必須とされる。近年ではソーシャルネットワーキングサービス(SNS)やWebサイトの普及に伴い、インターネットでの発言が注目を集め一定の影響力を与える「デジタルKOL」も登場している。昨今のMRにはこれらのデータも活用した顧客理解が求められる。
上述に加え、厚生労働省により推進されている地域医療構想と地域包括ケアシステム(注3)の導入を見据え、MRは「地域」という軸で顧客と市場の再定義が急務となっている。これからのMRは、地域ごとのケアシステムを理解し、「多職種連携」と呼ばれる医師以外のステークホルダーに対しても営業・マーケティング活動をすることになる。いわゆる「エリアマーケティング」だ。この実行に向けて、CRMやBIツールなどといったシステムを活用した、より深い顧客・市場分析やインサイトの導出が求められている。
※注3:地域医療構想とは、都道府県がそれぞれの地域の医療需要に合わせ、その地域にふさわしいバランスのとれた医療機能の分化と連携を適切に推進するための構想。地域包括ケアとは高齢者が住み慣れた地域で医療や介護、生活支援サービスなどを一体的に利用できるようにする仕組み
2.高生産性集団へのトランスフォーメーション
MRの活動は多忙化かつ高度化している。定型業務の効率をさらに上げ、限られた回数と時間でも医師との面談インパクトを最大化するために、営業部隊の変革をITでリードすべきだ。営業部隊のIT武装を支える情報プラットフォームは、競争が激化する「現場の生命線」と言っても過言ではない。
(1)訪問タイミングをガイドする
MRは医療機関を訪問するタイミングを考慮する必要がある。医師ごとに最適な面会日時や場所があり、医師との面談目的もさまざまだが、これらの多くは暗黙知としてMRの意識下のみに存在するために、うっかり訪問すべき医師を見落とすなど、機会損失が起こる恐れもある。
このさまざまな条件や環境をアルゴリズム化し、今訪問すべき医師が誰かをガイドするITシステムの導入が進んでいる。MRはこれをリマインダー機能として活用しながら、タイミングよく、効率よく医師を訪問することができる。「今あなたが訪問すべき医師はこの人だ」と、面談すべき医師の優先順位をシステムに推奨・提案(指示ではない)してもらうことで、本社側のビジネスルール徹底も期待できる。そして何よりアルゴリズムに従って実践した結果を分析することで、より良いアルゴリズム=営業活動を継続的に実現することが可能となる(図3)。
(2)訪問ルートを最適化する
地理的な距離を考慮した「最適な訪問ルート」について製薬企業がシステム的に考慮している例はほとんどない。なぜなら、前述のような多くの制約条件下で、効率の良い訪問ルートとともに、1週間あるいは数週間分の医師との面談プランを作成するのは不可能に近い作業だからだ。そのため多くのMRは、前任者から引き継いだルートをそのまま回ってしまいがちで、効率の悪い活動となる場合も少なくない。
最適な訪問ルートの計画には、
- 医療機関の訪問規制状況
- ディテーリング品目の組み合わせ
- 実施中の営業施策
- 医師の都合
- 地理的データ
などのさまざまなデータを活用したプランニングが必要だ。だからこそ、ITでリードすべきであろう。さらに、実際に訪問した履歴と最適訪問ルート、提案内容を比較検証し、分析した結果をフィードバックし、より精度の高いアルゴリズムを獲得することは、訪問タイミングのガイドと同じくらい重要だ。
(3)スマートフォンを活用した効率化
これまでAppleのタブレット「iPad」を営業ツールとして活用していた多くの製薬企業でWindows搭載PCへの回帰が起こっている。その理由の1つは、iPadだけでは日常業務を全てこなすことができず、依然としてWindows PCを併用していたことにある。CLM(Closed Loop Marketing)と呼ばれるiPad内の動画や資料を活用した説明は2010年ごろにはやり始め、多くの製薬企業が採用したが、その普及とともに医師に与えるインパクトは勢いを失っているようだ。医師は、製品説明動画を見るだけなら自分の空いている時間に自分のスマートフォンやPCから、必要な情報だけ入手する方が便利だと見なすようになっている。
ポケットからスマートフォンをスッと出して、MR自身が直接集めた情報を簡単に記録できるようになれば、より精度の高い情報収集が期待できる。またMR主導のマーケティングも実施できるようになるだろう。人工知能(AI)技術の実装による音声認識や画像認識の機能向上により、利便性が向上し続けるスマートフォンは、高生産性を実現するツールの1つになると考える。ただしセキュリティの担保は必要だ。キーワードを検知して医薬品の適正使用に関するような情報は直ちに関係部署へ連絡する、といった機能的サポートも必要だろう。一般消費者向けのスマートフォン用アプリケーションをそのまま使用できないことが多い点はIT部門として対応していかなくてはならない。
また、高速コミュニケーションに向いているスマートフォンはデータを収集する役割だけでなく、リアルタイムに最適解を返してくれるインタフェースとしての役割を担う。優秀なMRの活動から抽出される訪問ガイド、訪問ルーティングを「ベストプラクティス」として、スマートフォンを活用して伝達・共有することで組織全体としての生産性を高めることができるだろう。
これまでは費用、時間、手間などの負担が大きかったOJT(職場内訓練)や研修は、スマートフォンの活用により効率化が期待できる。本社のトレーニングメニューや優秀なMRのノウハウなどをいち早く取り込み、それを基に他のMRが学習し、現場での展開と実践に繰り返し取り組むことは、競争優位性の確保につながる。
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