ライフサイエンス企業のCIOが描く成長戦略【第2回】
製薬企業の営業・マーケ部隊をITで支援する2つの方向性とは?(3/3 ページ)
変革を促進するファクター(2):顧客とのつながりの強化に向けたデジタルマーケティング
ITの進展とそれに伴うチャネルの多様化により、医療従事者の情報収集手段や情報ニーズの満たし方が大きく変化している。従来であれば、人手を介するプロセスが主流で、入手までのタイムラグもあった。今では論文や製品情報はインターネット経由で即時に入手でき、知り合いの医師とはSNSなどで随時連絡が取れ、Webサイトで同じような課題を抱える医師の意見も参照可能だ。
またスマートフォンやソーシャルメディアの普及によって、情報を提供する側も入手する側もデジタル化が進んでいる。訪問規制などで制約を受けるMRの強力な補完手段として、デジタルの特性を生かした柔軟なコマーシャルモデルへの再構築と、新たなモデルに基づくプロモーションの遂行が必要になっている。
1.コミュニケーションモデルの再設計
医師は多忙な診療や日常の隙間時間を活用し、必要な情報のみを必要なタイミングで、場所やツールを選ばず入手したいと願うようになった。この変化に伴い、製薬企業も医師のカスタマージャーニー(薬の処方を判断するまでのプロセス)をいま一度再定義する必要がある。医師が情報を入手できる環境はある程度整った半面、インターネットにあふれる大量の情報から、自力で欲しい情報にたどりつけない場合も多い。また医師は、安全性情報や自分の専門領域の最新情報は、信頼の置ける情報源からタイムラグなく受け取ることを希望している。コミュニケーションアプリの「LINE」を活用し、このようなニーズに応える企業も登場している。
各企業はMRによる情報提供に加え、デジタルチャネルでの顧客行動履歴データを活用し、複合的な顧客分析を踏まえたコミュニケーションモデルの再設計に取り組んでいる。各チャネルの特性を最大限に生かしつつ、ベストなチャネルの組み合わせとタイミングにより顧客体験を最大化することが目的だ。このモデルでは顧客の製品認知から採用までの心理プロセスの段階に合わせたチャネルコミュニケーションも考慮する必要があるだろう。
2.新たなコミュニケーションモデル「パーソナライズドマーケティング」の実現
医師個別の情報ニーズに応えるコマーシャルモデルをIT活用により実現する1つの形として、動画配信サービスの「Netflix」を例に挙げる。Netflixは映画やドラマをオンラインで配信しており、顧客の好みをよく理解し、次に見るべき作品を提案する。その提案が的確だということで、利用者から高く評価されている。利用者がコンテンツのどこを見た、どこを飛ばした、何回見た、などといった再生履歴機能を用意したり、「お気に入り」に登録した内容などから個人の好みを抽出してパーソナライゼーションをしている。
これと同様に製薬企業のデジタルチャネルでも、医療従事者がどのチャネルを通し、どの分野のコンテンツにアクセスしたかを分析することで、適切なコンテンツを提案することができるだろう。また動画コンテンツでは、再生停止時点からの続きをどのデバイスからでも再生できるマルチデバイス対応の実装も期待される。
このようにパーソナライズされたデジタルマーケティングの実現には、IT部門が主導すべき多くのタスクが存在する。例えば次のようなものだ。
- マルチチャネルマーケティングに向けたシステムグランドデザイン
- チャネル間でのシームレスなデータ活用を可能にするシステムインテグレーション
- データドリブン(注4)・マーケティングを実行するためのデータ整備や可視化
- 個別ニーズに応えるために高頻度で多種多産されるデジタルコンテンツ管理
- マーケティングオートメーションを支えるITツールの選定、導入
- これらを実現するための情報プラットフォーム運用体制の整備
※注4:効果測定などで得られるさまざまな分析データを基に次の施策を立案し、実行すること。
これらに付随して、複数ベンダーやプロジェクトのマネジメントも含まれる。変化の速い医師の情報ニーズと個別化に、高い精度で継続的に応えていくためには、これらのサイクルを高速化する仕組み作りと維持が不可欠となる。
AI技術で医師にもっと寄り添う
製薬企業各社は最新のITテクノロジーを活用し、データの価値と重要性をいち早く見いだし、自社の武器に変えていく取り組みを今後ますます加速していくだろう。その仕組みの整備には、情報だけでなく、組織(ガバナンス)の統合も同時に実行していく必要がある。対人チャネルは営業部門、デジタルチャネルはマーケティング部門というように、それぞれ独立した組織構成をもつ企業は少なくないが、対人とデジタルの両者をマネジメントしていくケースなども想定できるため、製薬企業全体として統合された活動をITシステムがサポートしていくことになる。
近い将来にはAI技術の活用により、顧客である医師の行動や個別の志向に基づいた情報提供がさらに進化するだろう。またAI技術によって、多様なチャネルデータを同時にリアルタイムで自動処理できるようになり、刻々と変化する営業・マーケティング現場の課題やニーズに即時対応ができるような時代が来ることだろう。
金子直美(かねこ・なおみ)
アイ・エム・エス・ジャパン テクノロジー・ソリューションズ部門 マネジャー。2002年NTTデータ入社。医療・ヘルスケア業界のシステム提案および開発に10年以上携わり、製薬R&D領域のシステム提案・導入を多数担当。2014年アイ・エム・エス・ジャパン入社。デジタルマーケティング戦略立案支援やシステム導入に関するプリセールスおよび導入支援を担当。
出木場 秀二(いでこば・しゅうじ)
アイ・エム・エス・ジャパン テクノロジー・ソリューションズ部門 マネジャー。1997年デンドライト入社(同社は2007年にセジデム、2015年にIMSと統合)。以降一貫してCRMの導入プロジェクトに従事。2015年以後CRM製品のプロダクトマネージャーを務め、機能改善および新機能の開発に注力し現在に至る。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
ライフサイエンス企業のCIOが描く成長戦略
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社MatrixFlow] 「物流リソース最適化」ガイド:人員・配車・傭車を出庫依頼の確定前に決めきる -
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
2
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
3
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
4
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
5
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
6
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
7
「結局使わなくなる」Microsoft 365 Copilotを半年で定着 キリンの3施策
-
8
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
9
「中堅・中小企業のネットワーク・セキュリティ運用実態」に関するアンケート
-
10
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー