医療におけるIT活用の“一歩先”とは
医療IT事例2選――「多職種協働」を踏まえたクラウド利用、セキュリティ対策(2/2 ページ)
電子カルテのデータを臨床研究に応用する鍵は「構造化データ」
現状の電子カルテ製品は「紙ベースの診療録の電子化」という目的においては一定の成果を達成しているが、そのデータを有効活用する方法については発展途上にある。大阪大学の松村泰志氏は「医療の質向上に資する電子カルテに向けて」というテーマで登壇。NECの電子カルテ「MegaOak-HR」の「ダイナミックテンプレート」機能を例示しながら、構造化データ(テンプレート入力)のメリットとデメリットについて解説した。
電子カルテには次の3つの役割がある、と松村氏は説明する。
- 診療情報の共有
- 記録の編集、二次利用
- 意思決定支援
「診療情報の共有」には、院内だけでなく他院でも情報を共有できることへの期待がある。「記録の二次利用」は、紙カルテではできなかったことだ。「意思決定支援」は、人工知能(AI)技術の利用につながっていくテーマである。
電子カルテの活用を促進するためには、データ入力を容易にする工夫が不可欠だ。フリーテキスト入力による自然言語処理が電子カルテに備われば、紙カルテと同様の感覚でデータを入力できるのではないか、と考える人もいるだろう。だが現状の技術では実現が難しい。「日本語は表記の揺れが激しいからだ」と、松村氏はその理由を説明する。「例えば検索性を保持するためには、テンプレートを利用した入力によって、データを構造化することが重要な意味を持つ」(同氏)
テンプレートの利用には課題もある。構造化データのままでは、人間である医療従事者にとっては読みにくいからだ。こうした課題の発生を回避するためには「階層構造を持った登録データを、再び自然言語表現に変換する表示用テンプレートが必要になる」と松村氏は指摘する。入力テンプレートから登録したデータは、コンピュータ処理のためにXML形式でデータベースに登録し、医療従事者が読む際には表示用テンプレートを変えて自然言語表現に変換する、という具合だ。
全ての医師が“決まったタイミング”で“共通の評価項目”に基づいて患者を診察し、その記録を構造化データで登録していけば、観察研究(注2)の基盤となるデータが蓄積されることになる。慢性疾患で外来診療に訪れる患者のデータを再評価するには、患者が受診したタイミングで評価をすることに加え、定期的な患者状態の総評価が必要となる。患者状態を観察して異変を見逃さないためにも、松村氏は「電子カルテのデータは1年に1回程度は再評価をするのが望ましい」と語る。その上で同じ医師の立場として「多忙な医師に自発的な再評価を促すのは簡単ではないので、リマインドの仕組みが必要」とも指摘する。
※注2:対象とする集団に対して研究者は何の介入もせず、病気の経過を観察したり、医療行為の効果や影響のデータを集めたりして検討する研究デザイン。
この場合、電子カルテのシステム側には、
- テーマ(疾患)に対して統一した評価計画を設定してテンプレートに反映する
- テーマ発生をトリガーとしてシステムが検知する
- 適切なタイミングで医療従事者にテンプレート入力を誘導する
といった仕組みを搭載することで、確実なデータ収集の助けになる。
松村氏は糖尿病を例に挙げ、具体的なデータ収集の流れを次のように説明する。「糖尿病患者は1年に1回、合併症の評価(診察)をする必要がある。この評価項目は電子カルテの経過記録に記載されるが、時系列データとして管理できる構造化データが必要だ。外来診療に携わる全ての医師が共通した評価を下せるよう、標準化した評価項目のリスト化も必要になる。このように全ての医師が定期的に、共通の評価項目を構造化データとして登録していけば、自然に糖尿病の観察研究の基盤となるデータが蓄積されることになる」(松村氏)
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