0.5歩先の未来を作る医療IT
電子カルテへの期待と現実のギャップを埋める3つの方法
電子カルテの導入がうまくいかない理由は、紙カルテの業務フローが現場に残っているせいかもしれません。解決のヒントは「紙は残さない」「電子カルテ操作はクラークに任せる」「過去カルテの処分」です。
前回「IT化が進まない理由――紙が残ってしまうことで、電子カルテの導入効果がダウンする」では、医療現場でIT化が進まないのは、IT化への期待と現実にギャップが生まれることが原因であると説明しました。
今回は電子カルテを例に挙げて、IT化の期待が裏切られてしまう原因の解決に話を進めようと思います。
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医療従事者が喜ぶITシステムを考える
電子カルテはいまだになかなか普及しない
紙は基本残さず、電子カルテに一本化する
まず、電子カルテと紙の指示簿の並行運用はせず、電子カルテの運用に統一することが大切です。並行運用する期間は3カ月、長くても6カ月にとどめてください。この期間はあくまで過去カルテの情報を移行するために取っている期間です。
いつまでも「カルテの移動」がなくならないままだと、IT化の効果を実感できません。早く紙カルテの運用から脱却すべきなのです。そのためには人の「慣れる」という能力を信じてください。従来型携帯電話(ガラケー)からスマートフォンへ乗り換えたことがある人であれば、その経験を思い出すと分かりやすいかもしれません。最初は難しいと感じても、慣れたらむしろ便利さを感じるものです。電子カルテも同じ現象が起こります。
この際の注意点は、「目的」を見失わないこと、そして目的達成までの「期間」を決めることです。IT化の目的を「カルテの移動距離をゼロにすること」といったん決めたならば、紙カルテを廃止し、電子カルテに一本化すべきなのです。指示簿として残すという曖昧な部分が、IT化の効果を薄くしてしまうからです。
電子カルテ操作を受付スタッフにお願いする
そもそも電子カルテは、1970年代から導入が始まったレセプトコンピュータ(レセコン)の延長線上にあるシステムです。初期の電子カルテは、レセコンにカルテ記載の機能を付加したシステムでした。
前回「IT化が進まない理由――紙が残ってしまうことで、電子カルテの導入効果がダウンする」の繰り返しにはなりますが、レセコンから電子カルテへ移行することで消える業務は、下記の2つです。
- カルテ出し(カルテ搬送)
- レセコン入力
一方で、新たに次の2つの業務が発生します。
- 問診入力(転記)
- カルテ入力
消える業務は、かつて受付で行っていた業務です。それに対して新たに発生する業務は、診察室で行う業務です。「電子カルテになると発生源入力になる」といわれるのは、そのためです(業務フローの違いは図1を参照してください)。これらの変化によって、業務が増えた診察室の医師は「負担が増えた(忙しくなった)」と感じ、業務が減った受付のスタッフは「負担が減った(暇になった)」と感じることになります。
レセコンから電子カルテへ移行することで、入力者が受付スタッフから医師へ転換するという現実をどう捉えるかが、電子カルテ導入を成功させるカギとなります。例えば、電子カルテを導入した後でも、入力担当者は引き続き受付スタッフにして、そのスタッフには診察室で業務をしてもらうとしたらどうでしょうか。これを実現するのが医師事務作業補助者、いわゆるクラークという職種です。受付スタッフの場所を「受付」から「診察室」へ移動するだけで、医師の入力の負担は軽減するのです。むしろ医師は電子カルテの記載という業務から解放されるため、診療に専念でき診察スピードが向上します。電子カルテとクラークを同時に導入して、患者の院内の滞在時間が大幅に縮小している事例が数多くあります。
「私が患者と会話をしている間に、クラークが診療内容を電子カルテに入力してくれるので、診察が終わったらカルテが完成しているのです。おかげで、より診療に集中できるようになりました。クラーク運用じゃないと電子カルテは導入できませんでした」――これは筆者が電子カルテの導入をお手伝いした、ある医師の言葉です。クラーク運用によって、スムーズに電子カルテが導入できた例として紹介しました。
過去カルテから電子カルテへ移行する方法
電子カルテを導入することで紙カルテを廃止し「ペーパーレス」を目指すのであれば、過去カルテをどう処分していくかという問題を考える必要があります。
電子カルテ導入から3~6カ月かけて、過去カルテの仕分けをしましょう。仕分けの方法は、
- 前回の処方が入っていれば今後閲覧は必要ない
- 継続して閲覧を必要とする
- 今回は判断できない
という3つに分類していきます。「1」は段ボールにしまい、「2」と「3」のみカルテ棚に戻します。これを続けていくと、過去カルテは段ボールにどんどんたまり、カルテ棚は見る見る少なくなっていきます。仕分け作業が進めば、「場所」が減っていくというIT化の効果を実感できます。ここで大切なのは、カルテ棚を半年かけてゼロにするという目標を立て、実際に取り組むことです。目標が「完全ペーパーレス」ではないので実現はしやすく、また期待と現実のギャップも起きにくくなるでしょう。
電子カルテを例に、IT化への期待と現実のギャップを埋める方法について考えてみました。今回取り上げた内容はいずれも、現在の運用にとらわれてしまうために、新しい運用に大きく歩みを進めることができないことに対する対症療法です。これ以外の方法もあろうかと思いますが、IT化の導入が進まない医療機関にとっては参考になる部分もあるはずです。
次回は、クラウドコンピューティングや遠隔医療など、医療ITの新しい波にフォーカスし、遅々として進まなかったIT化が一気に動き出そうとしている様子について、歴史的背景を交えて紹介します。
著者紹介
大西大輔(おおにし・だいすけ) MICTコンサルティング
一橋大学大学院MBAコース卒業。医療コンサルティング大手に入社。2002年に医療IT機器の常設展示場「MEDiPlaza」を立ち上げ、企画運営、スタッフ指導、拠点管理などを担当。2016年10月より医療ICT専門コンサルタントとして独立し、MICTコンサルティングを設立。医療機関向けシステムの開発アドバイス、導入アドバイス、医療IT人材の育成などを行う。過去2000件を超える医療機関へのシステム導入の実績から、公的団体を中心に講演を多数実施している。
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