初出勤日に得た教訓
CIOは「企業を変える戦略」の前に「ITIL」を実践し、信頼を回復せよ(2/2 ページ)
本当の「大きな課題」を特定する
やがて夜が来て、あなたはこの会社の実情を受け止められるようになった。その瞬間になってようやく、この会社でCIOのポジションが空いていた理由に納得する。この会社では確かに、戦略的CIOに対して豊かな発想力と高い価値を生むイニシアチブや全社的なイノベーションの推進を皆が期待している。ただしそれを実現するには事業運営の基礎固めが先だ。IT部門に対して、業界最高レベルのサービスを実現することを望んではいるが、今のところ社内ITはお話にならないというのが従業員の本音だ。昨今の企業には珍しくないが、社内ITシステムは従業員からの信頼をすっかり失っている。従って、IT部門のリーダーであるあなたのことも、彼らは全く信用していない。素晴らしいアイデアは多々出されるがプロジェクトは失敗続きで、予告された事業が立ち消えになったのも1度や2度ではない。「戦略的CIO」の計画を支持してもらうには、目の前の日常的なIT業務の立て直しが急務だという認識を持つことだ。全社組織の改編を考える前に、まずは足元のIT部門の立て直しから取り掛からなければならない。今のあなたが考えている「最大の課題」は、真の意味で最大ではない。
戦略的イニシアチブは、ひとまず棚上げだ。当座の目標としてあなたが目下最優先するべきなのは、技術面と運用面でIT業務全体の質の高さを確保するよう、方針転換することだ。あなたにとっては想定外だろうが、現在直面しており、かつ速やかに実行しなければならない業務である。技術面および運用面で質の高さを確保することに集中するのは、IT部門の人間にはあまり意欲が持てない取り組みだ。その一方、イノベーションは大いに士気が上がる楽しい部分だ。新しい事業、新しい課題、斬新なアイデアやコンセプトにはわくわくする。しかし、お楽しみは後に取っておかなければならない。
最優先課題:IT運用の効果に焦点を絞る
まずはオフィスでほこりをかぶっていた、業務プロセスに関する有意義な文献を引っ張り出し、世界的に実践されているITプロセスの枠組みのベストプラクティスであるInformation Technology Infrastructure Library(ITIL)を再発見するべきだ。習得したつもりになっていた基本的なプロセスや機能に立ち返り、今こそ活用しよう。ITILの基本的なプロセスは以下の7つだ。
- サービスデスク
- インシデント管理
- 問題管理
- 変更管理
- リリース管理
- 構成管理
- サービスレベル管理
サービスデスクには、初回電話解決(FCR)に重点を置いた活動を継続させる。その一方、問題管理をバックグラウンドで実施してインシデントの再発率を抑え、IT部門が提供するサービスの可用性を高めるとともにシステムの停止時間を短縮する。
インシデント(つまりネットワークの停止)の80%は、システムの変更が不適切または変更に失敗したことが原因であると突き止めたら、直ちに変更管理に焦点を当てる。こうしてインシデントの低減やシステムの可用性と安定性の向上を実現し、信頼性を高めることで、IT部門に対する他部門の従業員からの信頼が回復するまでの道筋が見えてくる。
ITプロジェクトには「最後に」ではなく開始時からリリース管理を取り入れる。開発者とプロジェクト管理側がプロジェクト開始予定日の2週間前になって(作業の依頼者である)壁の向こうの実務部門に丸投げするパターンはもうやめよう。最新の検出ツール数点に投資して導入し、社内ITインフラのコンポーネントの内容と、各コンポーネント間の依存関係を確認する。
IT部門は社内の業務でどのような役割を引き受けるのかを再定義し、サービスカタログを公開して、社内でIT関連の実作業を引き受ける部門として窓口機能をきちんと整備する。IT部門の存在意義は価値を創造することであるという方向へ、担当スタッフの意識を転換させよう。守れるはずのない空約束をするのもやめよう。企業ITの世界ではこの「約束」はサービス品質保証契約(SLA)と呼ばれる。IT部門としての成功を「サービス品質保証契約を満たす、またはそれ以上のレベルを実践すること」であると再定義しよう。要するに「約束は守る」ということだ。他人からの信頼を勝ち取るときに、有言実行よりも効果的な手段があるだろうか。
ひと息入れながら進めるのは構わないが、決して中止してはいけない。
「リーン」と「アジャイル」のアプローチをあらためて学び、浸透させよう。質の高い業務を実践することと課題解決までの長期的な方向性を念頭に置いて、正しい第一歩を踏み出すことに注力する(IT部門はなぜ、最初から正しい施策を実施する時間がないと言いながら、決まって正しくない施策を実行して、また最初からやり直すような時間の使い方をするのか、これまで疑問に思ったことはないだろうか)。改善の心掛けを決して忘れてはならない。リーンITの重要な原則を適用し、実践中のITILプロセス全体から、徹底的に無駄をそぎ落とす。
(バリューチェーンの中の)フローを実現するために活動しよう。言い換えると、IT部門が持続可能なペースで事業運営を進めることで、事業としての価値を実現することに貢献しよう。課題管理については「カイゼン」の手法を適用しよう。定型的なタスクについて、実行時間、手順、チェックリストの基準を作成しよう。確立したその基準についてはエラー防止策を用意し、(随時発生する)非定型業務にも注意を向ける余裕を持とう。可視性の高い管理技法を採用し、誰が見ても効果のある業務とそうでない業務が明確に理解できるような仕組みを実現しよう。
実力を備えた真のIT責任者として、あなたは自分の役割を完璧にわきまえているはずだ。これはロケット科学ではないのだから。さあ、腕まくりをして「やるべきこと」を片付けよう。
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