孤立無援なIT担当者でもできる無線LAN導入ガイド【第1回】
「802.11ac Wave2」がオフィスに導入するネットワークで最強の理由
個人ユーザーには当たり前の無線LANもオフィスでは意外と普及が進んでいない。しかし、モバイルコンピューティングの業務利用拡大で無線LANを導入しなければならないケースが増えてきた。さあ、どうする? どうやる?
今のうちにオフィスに無線LANを入れないと困ったことになる
BYOD(私的端末の業務利用)が普及して久しい。最近では「社員が所有する機器の業務利用は“黙認”」という企業が相当数ある。IT予算を潤沢に使える企業なら社員向けにスマートフォンやタブレットを配布して「BYOD禁止」という対策を打ち出すケースもある。
どちらにしても、業務におけるスマートフォンやタブレットの利用は確実に広がっている。またクライアントPCであっても、このところのモバイルノートPCは薄型ボディーを実現するために本体の有線LANを廃止して無線LANだけを搭載したモデルがほとんどだ。こういう状況になってくると「いやうちはまだ導入しない」と拒んできたIT担当者でも無線LAN環境のオフィス導入を検討せざるを得ないだろう。
別なケースとして目立ち始めているのが、個人やスタートアップのような少人数のグループで小規模なオフィスを新規に立ち上げる場合のネットワークインフラの導入だ。有線LANを利用する場合、ケーブルなどネットワーク関連敷設工事の手間やコストが意外と高くつく。中には「別に敷設工事なしで床の上をLANケーブルがはい回っていてもいい」という考えを許容する人もいるかもしれない。だが乱雑なケーブル配置は「引っ掛けて抜けた」「引っ掛けて吹っ飛んだ」という事故を誘発するだけでなく、「ネットワークが安定しないと思ったらケーブルが傷んでいた」という意外と気が付きにくいトラブルも招く。
通常なら、オフィス内にパーティションを設けて共用のワークスペースを用意する中でネットワーク工事を必ず行っておきたいが、費用も掛かる。通常はパーティションなどの工事と合算になるので単独での費用算出は難しいが数十万では収まらず数百万以上のコストになることが普通だ。
併せて読みたいお薦め記事
802.11ac Wave対応モデルを選ぶには
連載:最新ネットワークキーワード「無線LAN規格 802.11ac Wave 2」編
このコストを抑えるために有効なのがオフィス内を完全に無線LAN化してしまうことだ。無線LANの導入によってオフィスの立ち上げでは以下のようなメリットを享受できる。
- 最近はノートPCだけでなくコンパクトなキューブタイプのデスクトップPCでも無線LANを標準で搭載している。また、ミニタワー型のPCでもオプションで無線LANモジュールを用意するモデルが多い。また、このデスクトップPC用(マザーボードの拡張スロットやUSBに接続して使う)無線LANモジュールを単体で販売しているベンダーもある。そのため、既にデスクトップPCを導入している企業でも、無線LANモジュールとアクセスポイントを用意すれば短期間でネットワークを利用できる
- 最近業務利用が進んでいるスマートフォンやタブレットもそのまま利用できる
- 無線LANは電波が届きさえすればどこでも利用できる。オフィスのレイアウト変更でもネットワークの敷設変更は不要だ。さらに、常時スタッフがいるわけでない会議室や来客用スペース、共用ワークスペースでも電源さえ確保できればネットワークが利用できる
- 最新の無線LAN規格は、速度面でもセキュリティ面でも有線LANとほぼ同等の性能と機能を実現している
以上のようにコスト面でも転送速度の面でも、そして機能の面でも、無線LANは導入するメリットのあるネットワーク手段となっている。
無線LANの最新規格はこうなっている
個人向けネットワークでは、かなり以前からユーザーが自宅にインターネットを引き、そこで無線LANのルーターを導入することは珍しくなかった。古くから無線LANを使っているベテランユーザーによくあるのが「無線LANは遅い」「電子レンジと干渉して使えない」という否定的な意見だ。これは、無線LANの規格、特に初期に登場した規格の仕様が影響している。現在世の中で利用されている無線LANの規格を簡単にまとめると以下の通りになる。
| 無線LAN規格 | 周波数帯 | 速度(最大理論値) |
|---|---|---|
| IEEE 802.11b | 2.4GHz | 11Mbps |
| IEEE 802.11g | 2.4GHz | 54Mbps |
| IEEE 802.11n | 2.4/5GHz | 600Mbps |
| 802.11ac Wave 1 | 5GHz | 1.3Gbps |
| 802.11acWave 2 | 5GHz | 6.93Gbps |
このうちIEEE 802.11bは2000年から、IEEE 802.11gは2004年から普及した規格で、今となっては速度も十分とはいえない。街で使える公衆無線LANのアクセスポイントであれば、現在もこれらの規格に準拠していると考えてよい。これより新しい規格が、2009年から普及したIEEE 802.11nだ。こちらは転送速度も大幅に向上し、使用する電波もIEEE 802.11bの2.4GHz帯に加えて5GHz帯も利用可能になった。個人向け無線LANルーターで現在も多く稼働している。
そして、2013年末から製品投入が始まったのがIEEE 802.11acと呼ぶ規格に準拠したモデルだ。こちらは電子レンジなどさまざまな機器が使用して電波干渉が起きやすい2.4GHz帯の利用をやめ、5GHz帯のみを利用すると共に、新技術の導入で最大理論値1.3Gbpsの通信を可能にしている。ただ、IEEE 802.11acは新しい技術を多数導入している関係で、最初からフルスペックの製品を作るのが難しかった。
そこで、IEEEとは別に、無線LAN関連機器の普及促進を進める団体「Wi-Fi Alliance」がIEEE 802.11acの一部を実装したものを「802.11ac Wave 1」、完全なスペックを盛り込んだものを「802.11ac Wave 2」と呼ぶようにした。2013年末から登場したものはWave 1だが、2015年末から2016年にかけて、802.11ac Wave 2対応の製品について発表があり、2016年6月の正式決定を経て802.11ac Wave 2の製品が登場し始めている。
今からオフィスに802.11ac Wave1/Wave2準拠のアクセスポイントを導入するのであれば、この802.11ac Wave 2準拠製品を選ぶのが最もパフォーマンスを期待できることになる。
802.11ac Wave 2の特徴を挙げると次のようになる。
- 理論性能で最大6.9Gbps
- MU-MIMO(詳しくは後述)の搭載
理論性能で最大6.9Gbps
無線LANの場合、実効性能は理論値の半分程度にとどまることが多い。IEEE 802.11bなら5Mbps強、IEEE 802.11gで25Mbps程度、IEEE 802.11nでやっと300Mbps出るか出ないかといった程度だ。802.11ac Wave 1でも600Mbps前後と、まだ有線LANが高速だった。そのためインターネットへアクセスするなら無線LANでも問題ないが、オフィスに設置したNASへアクセスすると「遅い」と不満に思うことになる。
ところが802.11ac Wave 2なら、ほぼ3Gbps近くまで発揮できることになる。実際のところ、802.11ac Wave 2では、アクセスポイントがボトルネックになりがちだ。これは、アクセスポイントが有線LANの「1000BASE-T」(データ伝送速度1Gbpsのイーサネット規格)準拠のケーブルへ接続していると、1000BASE-Tが発揮する最大伝送速度の1Gbps以上の速度が出ないことに起因する。これを解決するため、最近2.5Gbpsまたは5Gbpsで接続できる「2.5GBASE-T」「5GBASE-T」という規格が既に制定されており、これを利用したネットワーク機器も出荷を始めている。これらを利用することで、NASなども有線LANと変わらない快適さでアクセスできる。
MU-MIMOの搭載
無線LANでは「1人で使っていると快適だが、複数で使い始めると急激に遅くなる」という問題がある。これを解決するのが、「MU-MIMO」(Multi User MIMO)を利用した「ビームフォーミング」だ。MIMOとは「Multi-Input Multi-Output」の略で、同時に複数の送受信を可能にする技術だ。802.11ac Wave2の場合、最大8対のMIMOをサポートする。これは同時に8チャンネルの送受信が可能というものだ。この場合、アンテナも8本用意してそれぞれで電波を出して送受信をする。
この8本のアンテナから出る電波のタイミングを微妙に調整して電波に指向性を持たせるのが、ビームフォーミングの基本的な仕組みだ。電波が指向性を持つと、AさんとBさんが無線LANを使っているとき、Aさんと通信するときにはAさんにだけ、Bさんと通信するときにはBさんにだけ電波が届くような工夫が可能になる。こうして、特定の人(実際には無線LANで接続するデバイス)の他にも無線LANを使っているデバイスがあっても、干渉を最小限に抑えて転送速度の低下を少なくできる。
スピードが遅くなってもよければ、8チャンネルの電波をそれぞれ別の人(デバイス)に割り当てることで、同時に8人が通信できる(これがMU-MIMOの頭文字のMU: Multi Userの意味)。このビームフォーミングとMU-MIMOは、802.11ac Wave 2で利用可能になる技術であり、オフィスのように常時、ある程度の人数が無線LANを利用する条件では、“Wave 1”を含むそれ以前の規格より802.11ac Wave2が格段に適している大きな理由の1つとなる。無線LANベンダーが独自技術でビームフォーミングとMU-MIMOを実現しているモデルもあるが、標準規格となることで、他のベンダーが混在するネットワーク環境での動作安定性が向上する。
802.11ac Wave1/Wave2は後方互換性を維持しており、802.11ac Wave 2準拠のアクセスポイントは、Wave 1のみならずIEEE 802.11 b/g/n準拠の機器との通信も可能なので、手持ちの機器が802.11ac Wave2に準拠していないからといって、慌てて全てを入れ替える必要はない。
次回は、802.11ac Wave2をオフィスに導入するにはどんな機器を用意しなければならないのかを解説したい。具体的には
- 802.11ac Wave2に準拠したアクセスポイント
- アクセスポイントと2.5GBASE-T/5GBASE-Tで接続できるスイッチ
- 802.11acWave1/Wave2準拠のクライアント側ネットワークカード
に言及することになる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社MatrixFlow] 「物流リソース最適化」ガイド:人員・配車・傭車を出庫依頼の確定前に決めきる -
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
2
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
3
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
4
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
5
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
6
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
7
「結局使わなくなる」Microsoft 365 Copilotを半年で定着 キリンの3施策
-
8
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
9
「中堅・中小企業のネットワーク・セキュリティ運用実態」に関するアンケート
-
10
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー