成功するテレワークの条件とは【後編】
「顔が見えない部下は管理できない」は幻想 テレワークがうまくいく組織文化とは(2/2 ページ)
地方から優秀な人材を集め、オンラインで組織形成した“ギルド”
中川氏は「テレワークを前提として会社を作ったことで、採用面でもメリットが得られました」と語る。その理由も簡潔だった。一言でいえば、首都圏におけるパートやアルバイトの求人募集は“狩り尽くされたレッドオーシャン市場”だったが、同じ求人募集の観点で地方を見れば、そこには“未開拓のブルーオーシャン市場”が広がっていたのだ。
労働力人口が将来的に減っていくのは統計的に見ても明らかだ。オフショアリング(海外への業務委託)を進めてきた企業も少なくないが、言語や文化の違いなどから、委託できる業務には限界がある。そうなれば、次はニアショアリング(近隣地域への業務委託)を狙うのは当然の流れだといえる。「地方にも、働く場を求めている人は多くいるのですから」(中川氏)
キャスターのビジネスは働く場所を問わないので、全国で人材募集をしている。デジタルの求人媒体は、募集を首都圏に限定しなくても(つまり全国で掲載しても)出稿コストはほとんど変わらないのだという。東京都の会社が、東京都基準の待遇で全国エリアに募集をかければ、地方においては極めて好条件の待遇として映るわけだ。
募集をするとほぼ毎回、数百人から多いときには約500人の応募がある。応募者のほとんどは地方在住の女性だという。「地方では、女性のキャリアが評価されにくかったり、出産や育児でキャリアが途切れやすかったりするためでしょう。中には高度なスキルを持ちながらキャリアを断絶させている人もいます」(中川氏)
この数百人の応募者から数人にまで絞り込むための“ふるい”は、「テレワークを前提とした働き方に対応できるだけのITスキルがあるかどうか」ということだ。キャスターの採用の大まかな流れはこうだ。まず自社開発の採用ツール上で、応募者にエントリーしてもらう。この段階でITに慣れていない人は脱落してしまう。その後は実技テストを実施。実務で利用するアプリを実際に使えるかどうかといったような独自課題だ。ここでも多くの人が脱落するという。
キャスターは、これらの実技のプロセスで応募者のITリテラシーを確認する。最終段階の面接も、応募者にオフィスに来てもらうことはなく、採用担当者が「Skype」や「Appear.in」でオンライン面接を実施する。この過程でも、ビデオ会議ツールをスムーズに接続でき、オンラインのコミュニケーションをきちんと取れるかどうかを評価するという。「採用プロセスの全てで、テレワークに必要なスキルを確認しているのです」(中川氏)
キャスターの従業員は、このようなステップを経て採用されるだけに、東京オフィスに来たことがない、中川氏が実際に会ったこともない従業員が多くいるという。ここでも中川氏が繰り返す「生産性さえしっかり管理できていれば業務上問題はない」という考えが伺える。
「このような環境で、従業員の業務評価などできるのだろうか」という不安を感じる向きもあるかもしれない。しかし中川氏は「そもそも会社が従業員を評価するといった、一般的な人事評価はしない」と答える。「一定の評価基準はルールとして示していますが、“どのぐらい頑張りたいか”といった裁量はチームや個人に委ねています。人事異動についても、それぞれの希望に基づいて調整しています」
この理念は「ホラクラシー」(Holacracy)に近い考え方だ、と中川氏は説明する。ホラクラシーとは、階級や上司・部下などの上下関係がない、フラットな組織管理体制を指す言葉だ。ホラクラシー型の組織では、意思決定の権限は個々人にあり、上命下達ではなく横の連携で自律的・自走的に運営されていくシステムが形成されることが多いようだ。「われわれは上下関係に基づく組織ではなく、ギルド(職能集団)のような組織を目指しています」と中川氏は話す。
「作りたいのは会社ではなく、ムーブメントです」と語る中川氏。従来の「会社」という枠組みからどれだけ飛び出せるか。コンシューマーの世界では当たり前に進んでいるオンライン化の流れを働く現場にどれだけ取り入れられるか。中川氏の挑戦はこれからも続いていく。
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