テレワークは「自分の仕事の価値とは何か」を問い掛ける
テレワークは社員の価値を浮き彫りに――向いてないのはどんな人?(1/2 ページ)
テレワークの意外なメリットは「会社でないとできない仕事とは何か」を問い直すことで、仕事の棚卸しにつながっていくことだ。テレワークに取り組んだ中堅・中小企業が何に気付いたのか、事例から探ってみたい。
いつでも、どこでも働ける多様なワークスタイルを支援するシステムや製品は、大企業向けから中堅・中小企業向けまで幅広いラインアップがそろいつつある。さまざまな企業でテレワーク製品の導入を検討する機会は少しずつ増えているのではないだろうか。しかしシステムを導入しても、従業員がテレワークをすることにためらいややりにくさを感じて、運用がうまくいかないという場面も起こりがちだ。
コンピュータソフトウェア協会(CSAJ)は2016年7月7日に「テレワーク導入支援オープンセミナー」を開催し、テレワークに取り組む中堅・中小企業の事例を紹介した。テレワークを実施することで職場環境にはどんな変化が生まれるのか。どのような課題が見え、その解決策は何かを、2社の事例から探っていく。
テレワークに取り組む中小企業事業主の支援目的として、「職場意識改善助成金(テレワークコース)」の制度がある。労働時間の設定改善や仕事と生活の調和推進などを目的として厚生労働省が実施しているものだ。政府の支援を追い風に、テレワークを現実的に検討するきっかけにしてはいかがだろうか。
リゾート地でのテレワークで生産性向上――中島啓吾社会保険労務士事務所
社会保険労務士である中島啓吾氏は、中小企業の助成金申請を支援する機会が多いことから「テレワークの助成金制度を理解するために、自分達もテレワークに取り組む経験が必要ではないか」と考えたという。
東京を離れてどれだけの仕事ができるのかを試すために、2016年2月中旬の1週間、4月中旬の1週間、6月中旬の1週間の計3回にわたり、沖縄でテレワークを実施した。テレワークを実践したのは、中島氏の会社に勤務する社会保険労務士の資格を持ったコンサルタントの女性職員だ。
沖縄という場所を選んだのには福利厚生の意味合いもあったものの、中島氏は将来的に沖縄に事務センターを設置することを検討しており、遠隔地と東京で共同業務を行うことで、生産性が上がるのか、下がるのかを分析するのが狙いだったという。
テレワークのために現地に持ち込んだ機材は次の通り。
- Wi-Fiルーター
- 通話用携帯電話(ガラケー)
- スマートフォン
- USBハブ
- モバイルバッテリー
- タブレット端末(「Microsoft Surface」)
- キーボード
- マウス
Wi-Fiルーターは2台用意した。NTTドコモとauの2社という異なるキャリアのものを用意したのは、通信トラブルを想定してのことだ。現地拠点となる宿泊施設のWi-Fiも利用した。また、宿泊施設のテレビをHDMIケーブルで接続して外付けディスプレイとして活用したという。
中島氏自身も日頃からモバイルワークを実践しており、午前中は社外のカフェで仕事をしているという。その経験から「どこからでも、いつでも連絡が取れる環境を整えることが必要。仕事をストップさせないという観点で機材を選ぶ際は、通信環境とバッテリーのリスクヘッジは重要なポイント」と話す。
沖縄の女性職員と中島氏は、報告や打ち合わせにはFacebookのチャットツール「Messenger」を活用した。HTTPS環境でセキュアなチャットができ、添付ファイルの送付もできること、(顧客も交えた)グループチャットが可能であること、スマートフォンやPCなどマルチデバイスでのやりとりが可能なことがMessengerを選択した理由だ。同社の日常業務においても、電話によるコミュニケーションよりMessengerの利用シーンが多いという。移動中や客先など、電話対応ができない時間帯であってもMessengerであればメッセージを残しておくことができる。「1日当たり40~50回、メッセージをやりとりした。チャットは即応性が高く、電話ほど相手の時間を拘束することがない。メールのように文章を整えなくてもいいカジュアルさも大きなメリットだ」と中島氏は話す。
ファイル共有については、従来より利用していたオンラインストレージサービスの「Dropbox」をそのまま用いたという。アクセス権限はスタッフごとに区別している。データ消失対策として、Dropboxのデータは「Microsoft OneDrive」でフォルダ同期を取り、この他にもストレージサービスを利用して合計3カ所にバックアップを取っている。
同社は全スタッフにタブレットPCを配布し、自宅からも作業できる環境を整えている。だが中島氏は「現在は個人情報の取り扱いがほとんどないのでこの環境で作業を行っても問題はないが、今後は個人情報をどう管理していくのかが課題」と今後を見据える。
このようにセキュリティ面にも配慮しながら取り組んだ3回のテレワークについて「仕事が止まることはなく、むしろリラックスできる沖縄の環境で生産性は上がっていたようだ。東京でしかできない仕事はほとんどなかった」と中島氏は振り返る。テレワーク実施期間も顧客先の伸び数は増加傾向が続いていた。東京で書類の受取が必要な業務については、東京のスタッフが受け取った書類をスキャンしてDropboxで共有する、といった対応でフォローしたという。
ただし、この成功の裏には幾つかの要因があると中島氏は指摘する。その1つは、スタッフ間の信頼関係だ。中島氏はかつて新人スタッフに『Skype』で業務の説明をしたとき、面と向かって指導するよりも体感的に長い時間がかかったという経験を持っている。それを例に挙げ「お互いに信頼関係があれば、遠隔地でもコミュニケーションは負担にならない。しかし、これが新入社員だったとしたら、いきなりテレワークを始めるのは難しいだろう」と語る。
もう1つの要因は、勤務時間のルールだ。中島氏は、働き方の裁量は女性職員自身に任せ厳密なタイムマネジメントはしなかったが「『顧問の業務時間となる午前9時から午後5時までは連絡が取れるようにする』『連絡が取れない時間帯はあらかじめ知らせておく』というルールを決めた」という。また、業務の進行管理についてもチャットで互いに報告し、双方の仕事の状況が分かるようにした。
中島氏は今回の経験を軸に、沖縄事務所の設立を目指して、テレワークと生産性向上の実践を継続していくという。
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