先進校の取り組みから見えた可能性と課題
「プログラミング教育」を一般教科にどう盛り込むか? 前原小学校の実践から探る(2/2 ページ)
プログラミングで主体的・対話的な学びを
プログラミングの基礎知識やプログラミング的思考の習得だけが、プログラミング教育の目的ではない。松田氏は今回の共同研究を通して、児童に「とにかく楽しんでもらう」ことを大きな主題としながらも、学習面では特に主体的、対話的かつ深い学びの実現を目指しているという。
課題に対して自らが考えた解決策が正しいかどうかを、画面の変化やロボットの動きでダイレクトに確認できるのが、プログラミングのメリットだ。こうした特徴を生かし「児童が自ら試行錯誤をして、探究的に学習を進められるようにすることが理想的」だと松田氏は説明する。
深い学びを実現するために、共同研究では授業形式も工夫している。受動的になりがちな一斉授業ではなく、始めに学習に必要な最小限の情報を伝えるブリーフィングの機会を設け、後は児童に自由に取り組んでもらうようにした。児童が主体的に学ぶだけでなく、隣り合った児童同士で能動的に助け合う効果を期待する。授業の終わりに振り返りの時間を設けたのは、自らの学びについて自ら考える「メタ認知」を実践してもらうためだという。
プログラミングを教科学習にどう生かすか
プログラミング教育を実践する上での課題も見えてきた。教科の中でプログラミング教育を実践する以上、教科の学習内容の理解にプログラミングをどう生かすかを検討する必要がある。松田氏は共同研究で、まさにこの点に注目して取り組みを進めているものの、教科の内容理解にプログラミングが貢献しているのかどうかを、客観的に評価することは難しい。
学習のツールとしてプログラミングを活用するとしても、プログラミング自体にもそれなりの時間がかかる。場合によっては幾つかの授業では、授業時間の大半をプログラミングの学習や作業に費やさなければならない可能性がある。そうなるとプログラミングと教科学習との関連性が不明瞭になりかねない。
今回の公開授業は、血液と脈拍との関係は前回の授業で学習済みだったという事情はあるものの、公開授業内ではプログラミングの作業が中心となった。そのためか「児童はプログラミング教育の目的を深く理解できていないのではないか」との声を挙げた公開授業参観者がいたのも事実だ。
“英語教科化”や事前準備もハードルに
小学校にとっては、プログラミング教育だけを優先的に進められない事情がある。その主な原因は、英語教育の強化だ。次期学習指導要領は2020年から、小学校5、6年生を対象に英語を教科化し、年間70コマの授業を実施することを求める。小学校では現在、この「英語70時間」対策の優先度が高く、プログラミング教育まで手が回りにくくなっているという。
小学生を対象としたプログラミング教育では、児童のとっつきやすさから、開発対象や教材としてゲームを扱うことが少なくない。表面的に見れば「プログラミング学習と言いながら、実は児童を遊ばせているのではないか」と考える保護者がいてもおかしくはない。誤解を招かないためには、保護者に取り組みの意味を理解してもらう努力が必要になる。プログラミング教育に取り組み始めた2016年から「児童に遊ぶようにして学んでもらってきた」という松田氏も、「保護者にしっかりと説明をしなくてはならない、というのが2016年の学びだった」と振り返る。
スムーズにプログラミング教育を進めるための環境整備にも課題がある。子ども向けのプログラミング環境のほとんどは、クライアントPCへのインストールが必要なネイティブソフトウェアとして提供されている。前原小学校でも授業が始まる前に、児童1人1台のWindows搭載PCに対して、プログラミング教育に必要なソフトウェアを全てインストールするのは「非常に大変だった」と松田氏は明かす。
プログラミング教育に限った話ではないが、ソフトウェアのインストール中にクライアントPC本体やソフトウェアの不備が見つかれば、さらに手間がかかることになる。どのようなIT活用でも、大小問わずトラブルは付きものだ。トラブルが発生すると、対処のために想定外に時間がかかってしまうこともある。実際こうしたトラブル対応が、教員がIT活用を進める際の大きな障害になっている。
プログラミング教育を導入した前原小学校の公開授業では、生き生きと楽しそうに取り組む児童の姿が見られた。一方でプログラミング教育には対処すべき課題があることも分かった。課題はいずれも一朝一夕には解決できないものばかりだ。だからこそ小学校を中心とする教育機関は2020年を見据えて、多方面から準備を進めていかなくてはならない。
執筆者紹介
栃尾江美(とちお・えみ)
大学卒業後、ITコンサルタントとして外資系IT企業に勤務し、クライアント向けに業務システム(SAP ERP在庫購買管理モジュール)の導入などを担当。2005年にライターとして活動をスタートし、雑誌、Webなどに記事を執筆。ジャンルは多岐にわたり、働き方(女性活用、時短、リモートワーク)、IT、デジタル、子育て、教育、採用関連、経営者インタビューなど。プライベートでは2児(♂)の母。Webサイトはemitochio.net。
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