まるで学校IT活用のショウケース
3Dプリンタやプログラミングも導入した公立小学校、その授業の中身とは?
多摩市立愛和小学校が公開授業を実施した。そこでは、3DプリンタをはじめとするさまざまなIT製品/サービスを活用した授業を展開していた。その様子をかいつまんで紹介しよう。
東京都の多摩市立愛和小学校(旧東愛宕小学校)は、米Appleのタブレット「iPad」を1人1台環境で導入した公立小学校だ。2013年10月にiPadの活用を始め、2014年4月には全校児童140人にiPadを貸与。さまざまなIT製品/サービスを活用した教育活動に取り組んでいる。
同校の松田 孝校長はiPadだけにこだわらず、新しい学校作りの一環として企業とのコラボレーションを取り入れるなど、公立小学校の常識を打ち破るような斬新な試みを次々に実施。その内容の興味深さは、iPad導入から1年に満たない公立小学校とは考えられないほどで、外部の関係者らの注目が集まる学校になった。
そんな愛和小学校が2014年6月28日、iPadを活用した公開授業を開催した。新しい学校を目指す公立小学校である愛和小学校。その斬新な取り組みをリポートする。
愛和小学校は、1年生が2クラス、2~6年生が単学級の小規模校だ。IT環境は比較的充実しており、全ての普通教室に大型モニターとセットトップボックス「Apple TV」、無線LAN環境を整備している(写真1)。
児童のiPadは、多目的教室の準備室に保管しており、6年生を対象にiPadを自宅に持ち帰らせる試みも実施しているという(写真2)。多目的教室はかつて「パソコン教室」だったが、iPad導入を機に端末を撤廃した。登校した児童が、自分のiPadを教室へ持ってくるところから、愛和小学校の朝は始まる。
愛和小学校の特長は、iPadだけでなく、多様なIT製品/サービス、テクノロジーを活用していることにある。今回の公開授業でも同小学校は、さまざまな活用事例を一度に公開した。その様子を見ていこう。
全学年・朝読書:読書感想文を学校用SNSに投稿
1時間目が始まる前の15分は、朝読書の時間だ。1、2年生は、デジタル絵本を使って教員が児童に読み聞かせをする。3、4年生は、小学校向けSNS「ぐーぱ」(提供:こどもコミュニティサイト協議会<東京都千代田区>)を使い、本を読んでその感想を共有する(写真3)。5、6年生も読書と感想の共有をするが、こちらはEdnity(東京都渋谷区)が提供する小学校~高等学校向けSNS「ednity」を使う。
1年生・国語/算数:「くっつき言葉」をアプリで学習、動画で“置いてけぼり”をなくす
2クラスある1年生の教室は共に、2014年3月にディー・エヌ・エー(DeNA)が提供開始した教育アプリ「アプリゼミ」と、スターティアラボ(東京都新宿区)の拡張現実(AR)コンテンツ作成支援サービス「COCOAR(ココアル)」を国語と算数の授業で活用した。
国語の授業では、児童は「くっつき言葉」ともいわれる助詞の「は」「を」「へ」を使い、身の回りのことに関する文を作って発表し合った。児童はアプリゼミを利用し、くっつき言葉の使い方について学習。授業を担当した鈴木飛鳥教諭はアプリゼミについて、「問題ごとに画面が切り替わるのがメリット。時系列で説明が必要な内容は黒板に板書するなど、説明内容によってアプリゼミと黒板を使い分けている」と語る。
個別学習の支援のために利用していたのがCOCOARだ(写真6)。COCOARのアプリ内カメラでテキストに記載した専用アイコンを撮影すると解説動画が現れる仕組み。鈴木教諭は、低学年の一斉授業の中において、児童が個別に動画再生ができるようにしたユニークな試みを披露していた。
2年生・図工:デジタルとアナログの融合を体験
2年生の図画工作(図工)の授業は、リコーが開発中のiOSアプリ「SketchLife」を用いて、デジタルとアナログの融合を体験する、名付けて「イラストアクアリウム」だ。原稿執筆時点では、SketchLifeは一般提供されていない。
授業の狙いは「自分のイメージを膨らませてイラストを描き、風景の中で浮遊させることを楽しむ」こと。グループで「夏」「おばけ」などのテーマを決め、児童はそのテーマに関係する絵を画用紙に描く。描いた絵をマジックで塗りつぶし、SketchLifeで読み取ることで、iPadの画面内というデジタル空間に、アナログな手段で描いた絵が浮遊するという仕組みだ。
授業を担当した図工専科の吉岡圭子教諭は、「手描きのイラストに一瞬で動きを付けることができるのがよい」と、SketchLifeのメリットを語る。児童は、自分が描いたイラストが、まるで本物の空や海に浮遊しているかのような視覚体験を楽しんでいた。
3年生・国語:「レゴブロック」で物語を作成
子ども用玩具として有名なレゴブロック。そのレゴブロックを利用した教材が、レゴジャパン(東京都港区)の教育部門であるレゴ エデュケーションが販売する物語作成教材の「StoryStarter」と、その専用画像編集ソフトウェア「StoryVisualizer」だ。3年生はこれらのツールを使い、オリジナルの物語作りに挑んだ。
授業の狙いは、「起承転結や話の構成を意識しながらオリジナルの物語を書く」こと。児童は実物のレゴブロックを動かしながら物語を考え、物語を構成する幾つかの場面を写真に撮る。その写真をStoryVisualizarに取り込んで、レイアウトや編集作業をしながら物語を完成させる、という流れだ(写真9)。
3年の槇田雅江教諭は「物語を考えるときに具体物があるので、“どうしていいのか分からない”という児童がいないことがよい点だ」と、StoryStarterやStoryVisualizerを評価する。
3年生・図工:3Dプリンタではんこを作成
3年生の図工の授業では、市民向け工房のFabLab(ファブラボ)を運営するファブラボ関内(横浜市中区)や企業の協力を得て、オリジナルのはんこ制作に取り組んだ。教室の中央に設置したはんこ作成用の3Dプリンタに、児童たちは何が始まるのかと授業前から興味津々だった(写真10)。
児童は、3Dプリンタについて簡単な説明を聞いた後、リコーのはんこ作成アプリ「Stamp Modeling」を用いて、はんこに入れる自分の名前をデザインしていった(Stamp Modelingも一般販売はしていない)。「はんことしての文字の配置やバランスを考え、工夫して表す」ことが、この授業のねらいだ。仕上がりをイメージしながら、児童は楽しそうにデザイン作業に取り組んだ(写真11)。
学校公開当日は授業時間の関係上、教員がデザインしたはんこのデータを3Dプリンタで出力したが、児童のはんこデータはサーバに保管しており、後日3Dプリンタで出力して実物を手渡したという。
6年生・総合的な学習の時間:プログラミングで算数の“使いどころ”を体験
6年生の総合的な学習の時間では、「プログラミングを行い、課題を解決しよう」と題してプログラミングの授業をしていた。授業では、神奈川工科大学の吉野和芳准教授を講師に招き、レゴ エデュケーションのプログラミング教材「教育版レゴマインドストームEV3」を活用した。
テーマは「歯車を使って、モーターの回転数とタイヤの回転数の比を求めよう」。児童はグループで協力しながら、ロボットの組み立てやプログラミング、走った距離の計測などの一連の作業を進めた。算数の知識が生活のどの部分で使われているのか、児童が実体験を伴いながら学ぶツールとしてマインドストームを生かしていた(写真12、13)。
6年生・社会:歴史上の絵画をITで自由に読み解く
「戦国の世から江戸の世へ」と銘打った6年生の社会の授業では、複数台のiPadを連動させ、1つの大きな画面としてデータを共有・交換できるアプリ「AC Board」(提供:日本インフォメーション)を活用した。教員が電子黒板に映した「長篠の戦い」のびょうぶ絵を児童のiPadにも写し、児童はびょうぶ絵の様子を見ながら連合軍が勝利した理由を考えた(写真14)。
武器や人数の違いなど、児童はグループで話し合いながら気づいた箇所にマークを付けていった。児童はその後、AC Boardの付せん機能を使い、連合軍の勝因をコメントとして書いて発表し合った(写真15)。
担任の竹田 晶教諭はAC Boardを用いた理由として、「教科書では、あらかじめ児童に注目させるべき点が定められている。これでは児童の自由な視点が生かせず面白くないと思った」と話す。児童が資料を自由に読み解くためにITを生かした、というわけだ。
上述した内容のほかにも、学校公開当日はMetaMoJi(東京都港区)の「Note Anytime」「Share Anytime」、Appleの「iMovie」「GarageBand」、LoiLo(横浜市中区)の「ロイロノートスクール」などを使った授業が展開されていた。放課後の20分には、1年生がアプリゼミ、2~6年生がベネッセコーポレーションのデジタルドリルを使った個別学習をする様子も公開した。
愛和小学校が利用しているIT製品/サービスの多くは、研究・実証用途で無償提供されている点で、一般の導入事例とは異なる。とはいえ、公立小学校で、ここまでさまざまなIT製品/サービスを活用した授業を展開する例は珍しく、示唆に富む内容であるといえよう。また、公開授業の内容は、今回のためだけに用意したものではなく、通常の授業での活用例をほぼそのまま公開している点を注記しておく。
21世紀を切り開く人材をITで育てたい
今回の公開授業で松田校長が示したかったのは、「公立小学校の可能性」だったという。ITを生かした学習手法を取り入れる英国の公立学校Flitch Green Academyを理想とし、IT活用を進める愛和小学校。その取り組みを支えるのは、「21世紀を切り開く人材を育てたい」という強い意識だ。
現状の授業は「まだスタートラインに立ったばかり」と謙遜する松田校長。より良い環境を目指すためにも、多くの人の意見に耳を傾けていきたいという。「公開授業の場が新しい教育を考えるきっかけになったり、意見交換ができる場にしたい」と、同氏は公開授業の開催意義を強調した。
「もはやITは当たり前の手段であり、それを使って事を成す能力や技術にこそ価値がある」と語る松田校長。今後の課題は、IT活用の学習面における効果に関する客観的なデータを示すことだという。
2014年度は、教育機関のIT製品導入を支援するパナソニック教育財団の特別研究指定校にも選ばれ、同校の取り組みはますます加速していくはずだ。新しい学校、教育スタイルを求めて挑戦し続ける愛和小学校。今後も同校の取り組みに注目していきたい。
執筆者紹介
神谷加代(かみや かよ)
フリーランスライター/ブロガー。結婚を機にサンフランシスコに移住し、日本語の絵本を扱ったECサイトを運営。その後、10年の在米生活を経て帰国し、主婦ブロガーとして「家庭×教育IT」に関する話題をメインにした「主婦もゆく iPad一人歩記」を執筆。家庭や教育におけるITの在り方を主婦目線で描き、教育関係者をはじめとする多くの読者から支持を得ている。現在は教育ITの分野を中心にライター業、子ども向けプログラミング教室の講師として活動中。著書に『iPad教育活用 7つの秘訣』。
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