浜松市立三ケ日西小学校の「ピッケのつくるプレゼンテーション」活用授業
小学生がプレゼンで学校間交流 “絵本作り”から生まれたアプリを生かす
IT製品を活用した学校間交流の実践が、小学校や幼稚園にまで広がりつつある。プレゼンを生かして北海道の小学校と交流する浜松市立三ケ日西小学校の取り組みと、同校が使うプレゼンツールを紹介する。
教育機関にとって、タブレットやクライアントPCなどのIT製品が生かせる主要な用途の1つが、プレゼンテーションだ。現在は高等学校や中学校だけではなく、小学校や幼稚園でもIT製品の活用が広がる中、小学生や幼稚園児がIT製品を使ってプレゼンをする機会は一層増えるはずだ。
こうした中、実際にIT製品を使ったプレゼンを授業に盛り込む小学校の1つが、浜松市立三ケ日西小学校である。同校は、グッド・グリーフ(神戸市中央区)が2013年11月に販売したWindows用プレゼンツール「ピッケのつくるプレゼンテーション for Windows」(以下、ピッケのつくるプレゼンテーション)を導入し、プレゼンを通じた他校との交流を実現している。
本稿は、三ケ日西小学校が取り組むIT製品を使ったプレゼンの実践内容を紹介する。その上で、同校が利用するピッケのつくるプレゼンテーションの特徴と、その誕生の経緯に迫っていこう。
プレゼンで北海道の学校と交流
2014年3月、ピッケのつくるプレゼンテーションの活用事例を競うイベントである「小学校ICT活用授業 児童のプレゼン力コンテスト」が開催された。このコンテストに応募した小学校は公立校が多く、表彰された小学校も1校を除いて全てが公立校という結果となった。
同コンテストで優秀賞を受賞したのが、三ケ日西小学校だ。同校の菊地 寛教諭は、小学校3年国語の「食べ物のひみつを教えます」という単元でピッケのつくるプレゼンテーションを用い、北海道の交流校に静岡県の特産物を教えるという交流授業の実践を披露した。
全15時間かけて取り組んだという、同単元の構成はこうだ。導入部で児童は文章の組み立て方を学習。次にグループによる調べ学習へと移り、静岡県の特産物を1つ選んで、食材がどのように姿を変えてその特産物になるのかを本やインターネットで調べる。
その後、グループで調べた特産物について、ピッケのつくるプレゼンテーションを使ってプレゼン資料を作成、クラス全員に発表する(画像1)。発表の様子は撮影して動画ファイルにし、SDカードに保存して交流校と共有したという。
「大事なことが伝えやすい」操作性を評価
菊地教諭は、ピッケのつくるプレゼンテーションの操作性を評価する。「本質的なプレゼン資料の操作以外の要素が無く、『大事なことをいかに分かりやすく伝えるにはどうすれば良いか』に児童の考えを集中させることができた」(菊地教諭)
おわびと訂正(2014年6月2日)
掲載当初、菊地教諭の名前を一部「菊池教諭」としていましたが、正しくは「菊地教諭」です。おわびして訂正いたします。
小学3年生の多くは、クライアントPCの操作にそれほど長けているわけではない。こうした児童でも、ピッケのつくるプレゼンテーションの操作は負担なく進められたという。ピッケのつくるプレゼンテーションでは手描き入力ができるので、「ローマ字入力を習ったばかりの児童でも使いやすい」(菊地教諭)という利点もある。
菊地教諭はピッケのつくるプレゼンテーションについて、「子ども自身がプレゼンの本質をしっかり押さえて、発表内容の検討に時間をかけられる点が良い。シンプルな作りだからこそ、子どもが自ら発想し、作り上げる感覚を味わうことができる」と語る。
子どもの創造表現をITで活性化する「ピッケのプレゼンテーション」
教員は授業にプレゼンを盛り込む際、発表やスライドのテクニックを細かく指導するよりも、“考えたことをどのように伝えるか”という本質的な部分に重きを置いているはずだ。だが実際は、プレゼン資料の作成に多くの時間がかかってしまっているケースも少なくない。
プレゼン資料を作成するツール(プレゼンツール)の現状を見てみると、一般的には白紙のスライドにテキストや画像を埋め込んでいく形式の製品/サービスが多い。発表経験が少ない小学生や幼稚園児にとって、全く白紙のスライドから順序立てて資料を作成するのは簡単なことではない。プレゼン資料の構成や見た目ばかりに気が取られてしまって、肝心な内容がおろそかになってしまう恐れもある。
ピッケのつくるプレゼンテーションには、児童が発表内容を深める作業に注力できるようにするために、幾つかの工夫が施されている。教員が単元に合わせてオリジナルのテンプレートを作成できるのも、その1つだ(画像2)。さらに、子豚の「ピッケ」を初めとするキャラクター、「食べ物」「植物」といったカテゴリーで分けられたアイテムのイラストも600種類以上用意されているため、児童が素材作りに手間を掛ける必要がない。
“生みの親”は絵本作りツール
菊地教諭やそのクラスの児童が積極的に活用しているピッケのつくるプレゼンテーション。同製品には、開発元であるグッド・グリーフ代表取締役の朝倉民枝氏が大切にしてきた「子どもの創造表現のためのIT活用」という思想が生かされている。
朝倉氏が自らの思想を初めて製品として体現したのが、同社が2008年にクライアントPC版をリリースしたデジタル絵本作成ソフトウェア、「ピッケのつくるえほん」である。デジタルデバイスを使った「作る楽しさ」と、紙を使った「共有する喜び」を、子どもにバランス良く提供したい――。ピッケのつくるえほんは、作成した絵本を画面で見るだけでなく、実物の絵本として印刷できるようにすることで、こうしたニーズに応えた。
ピッケのつくるえほんには、A4サイズのコピー用紙に絵本の展開図を印刷する機能が搭載されている。印刷した展開図を決められた方法で切り、折ってステープラー(ホチキス)でとじれば、手のひらサイズの絵本が完成する(写真1、2)。作った作品を画面で見るだけでなく、実際に手に取れる形にできるのがミソだ。
“絵本”から“プレゼン”へ
ピッケのつくるえほんが発売された2008年ごろは、子どものIT製品活用に関する意識が高まったためか、朝倉氏のもとに「デジタルデバイスに関するワークショップを開催してほしい」という教育機関や保護者からの問い合わせが増えたという。朝倉氏は、民間の子ども向けワークショップ団体や特定非営利活動(NPO)法人を中心に、図書館や美術館のイベント、さらには小学校の夏休み特別教室などで、ピッケのつくるえほんを活用したワークショップを繰り返してきた。
朝倉氏はこうしたワークショップを通し、「子どもは絵本を作ることだけではなく、作った作品を発表することにも楽しみを見いだすことに気付いた」。幼稚園児や小学生が、自分が作った絵本を誇らしげに発表する場面を何度も目にしたと話す朝倉氏。この楽しさを教育現場に持ち込めないか――。こうした考えから生まれたのが、ピッケのつくるプレゼンテーションだったという。
「想像力と創造力は、どの子どもにも生来備わっている。ITはその芽を伸ばし、子どもの創造表現活動を支援するツールだ」。朝倉氏のこうした考え方は、ピッケシリーズ全てに生かされている。
“ピッケ1択”の児童も
朝倉氏の思いが詰まった、ピッケのつくるプレゼンテーション。幼稚園や小学校に積極的に使ってもらうことを考え抜いて生み出されたその機能や操作性は、菊地教諭だけではなく、同氏のクラスの児童にも好評のようだ。
同クラスの児童は、ピッケのつくるプレゼンテーションとは別の教育ソフトウェアでプレゼン資料を作成した経験もある。上述した実践の後にあった同様の授業で、菊地教諭はプレゼン資料の作成にどのツールを使うかを児童に委ねた。その結果、全員がピッケのつくるプレゼンテーションを選んだという。
「低年齢だからどんなツールを使っても同じ」というのは大きな誤解だし、「高校生や中学生にとって使いやすいツールは、小学生にとっても使いやすい」という考え方は常に正しいとは限らない。菊地教諭のクラスの児童は、利用する中でツールの違いに気付き、どのツールが自分の伝えたいことを表現しやすいかを理解したのだろう。
執筆者紹介
神谷加代(かみや かよ)
フリーランスライター/ブロガー。結婚を機にサンフランシスコに移住し、日本語の絵本を扱ったECサイトを運営。その後、10年の在米生活を経て帰国し、主婦ブロガーとして「家庭×教育IT」に関する話題をメインにした「主婦もゆく iPad一人歩記」を執筆。家庭や教育におけるITの在り方を主婦目線で描き、教育関係者をはじめとする多くの読者から支持を得ている。現在は教育ITの分野を中心にライター業、子ども向けプログラミング教室の講師として活動中。著書に『iPad教育活用 7つの秘訣』。
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