iPadとロイロノートを活用した授業を公開
iPad初心者先生、調理実習を変える――亀岡市立南つつじヶ丘小学校
京都府にある亀岡市立南つつじヶ丘小学校は、iPadとロイロノートを活用した授業を公開した。自ら“アナログ人間”だと公言する教員の授業は、意外な発見であふれていた。
京都駅からJR山陰本線(嵯峨野線)快速で20分程度の亀岡駅。そこからバスで約15分の場所にある亀岡市立南つつじヶ丘小学校では、iPadを中心としたITを授業で活用している。同校は先日、家庭科の調理実習計画の作成をテーマに、iPadとプレゼンテーションアプリ「ロイロノート」を活用したユニークな公開授業を開催した。その模様をリポートする。
調理実習をiPadで「疑似体験」
南つつじヶ丘小学校が公開したのは5年生の家庭科の授業で、テーマは「ごはんとみそしるをつくろう」。調理実習で考慮すべき課題は何か、それをどう解決するかを児童自身が考えることを目的に据えていた。
児童は既に、ご飯とみそ汁の調理経験がある。次回の授業で実施する調理実習では、その2種を同時に作るのだという。同時並行で作るとなれば、当然ながら役割分担や時間配分が重要になる。今回の授業では、iPadでその並行調理を「疑似体験」することで、課題や解決策を洗い出そうというわけである。
3人ごとに1台のiPadを活用
同校は段階的にiPadを導入し、現在は20台のiPadがある。今回の授業では、児童3人ごとに1台、合計12台のiPadを利用した。調理実習では6人ごとに班を作り、その中の3人をご飯調理の担当(ご飯担当)、もう3人をみそ汁調理の担当(みそ汁担当)として割り振った。ご飯担当3人に1台、みそ汁担当3人に1台のiPadを配布する形だ。
授業を担当したのは、2013年4月に同校へ赴任したばかりの若松 真理子教諭である。若松教諭は、まずご飯とみそ汁を同時並行で作るときに課題になりそうなことと、その解決策を児童に発表させ、出てきた課題と解決策を黒板にリストアップした(写真1)。この風景だけ見ればごく一般的な授業だが、異なるのは児童側から見て黒板の左に設置した電子黒板の存在と、そこに表示していた内容だ。
電子黒板を使って若松教諭が児童に見せているのは、ロイロノートの画面である。ロイロノートは、直感的な操作に配慮したユーザーインタフェース(UI)を備えるプレゼンテーション作成アプリ。iPadで撮影した写真や動画を取り込み、並べ替えや簡易的な編集作業をするだけで、比較的見栄えの良いプレゼンテーション資料を作成できるのが特徴だ(写真2)。今回の授業では、児童が過去にロイロノートで作成したプレゼン資料を基に、ご飯とみそ汁の調理工程をクラス全員で確認した。
iPadとロイロノートで調理工程をプレゼン資料に
ご飯とみそ汁の作り方について復習した後、いよいよiPadを使用。ご飯担当の3人、みそ汁担当の3人がそれぞれ1台のiPadを使い、児童が事前に準備していた写真や動画を組み合わせて、調理工程のプレゼン資料をロイロノートで作るというグループワークを始めた。
訂正履歴(2014年3月5日)
掲載当初、「若松教諭が事前に準備していた写真や動画」と記載しておりましたが、「児童が事前に準備していた写真や動画」の誤りでした。おわびして訂正いたします。本稿は訂正済みです。
児童は、手元に置いた紙の調理計画書の内容を基に、調理工程をプレゼン資料に落とし込んでいった(写真3)。この調理計画書は、児童があらかじめ作成していたものだ。児童がロイロノートを使い、いとも簡単に写真を並べ替えてプレゼン資料を作成していたことに、多くの見学者が驚いていた。
こうしてプレゼン資料が出来上がった後、若松教諭は児童に「スライドの表示時間を設定するように。実際には1分かかるところは、1秒に設定すること」と指示を出した。スライドショウを実行できるロイロノートの自動再生機能では、それぞれのスライドを何秒表示させるかを設定できる。例えば、ご飯を洗うのに5分かかる場合、スライドの表示時間を5秒に設定する、といった具合だ。こうした設定も、児童は難なくこなしていった。
スライドの表示時間で調理時間を把握
そして、非常に重要なのが次の指示だ。「ご飯担当とみそ汁担当の2台のiPadを並べて、せえので同時にスライドショウを開始してみて」
これが今回の授業の目的である「ご飯とみそ汁を同時並行で作ることの疑似体験」そのものなのだ。2つのiPadを並べて同時にスライドショウを再生すると、目まぐるしくスライドが入れ替わる場面は「調理が忙しいところ」だと分かる(写真4)。児童は、「同じスライドが長く表示されているところは待ち時間だ」と理解し、「ここは、ご飯担当は待つだけだから、みそ汁担当を手伝おう」と、班全体の役割分担を自然に議論していたのが印象的だった。
若松教諭はさらに、ご飯と味噌汁それぞれの調理時間全体の長さに着目するように指示した。炊きあがりまでの待ち時間を除けば、ご飯の調理時間はみそ汁より短い。そのことを紙の資料を使って示し、児童に意見を求めると、「みそ汁作りを先に始める」「ご飯の担当がみそ汁作りを手伝って時間を短くする」といった“対策”が自然と挙がった。授業が終わるころには、各班でおおむねの役割分担や、調理工程ごとの人員配置といった「計画」のイメージが出来上がっていたようだった。
今回の授業の影のテーマは、「児童に、ご飯調理とみそ汁調理の所要時間のずれに気付いてもらうこと」だったと、若松教諭は授業後に明かした。「事前に児童が作った紙の調理計画書でも、その違いに気付くことができるように配慮していた。さらにロイロノートとiPadを使って調理工程を確認することで、より一層イメージが明確化できたのではないかと考えている」(同氏)
“怖いデジタル”から一転、イメージを広げる武器に
iPadとロイロノートを活用する教育機関は増えつつあるものの、今回の授業は、現状では“最先端”の授業の1つだと言ってよいだろう。上記のようなITを生かした授業を実践する若松教諭は、よほどのIT好きと思いきや、「2014年になって初めて授業でIT製品を使った」という自称“アナログ人間”だという。「正直、最初はIT製品を使うのは怖かった。児童の方が知識があり、“自分を超えている”ような感覚があったから」だと若松教諭は明かす。
こうした中、なぜ若松教諭はIT製品の活用を始めたのか。実は同校は、「ICT活用による言語活動の充実を通して思考力・判断力・表現力を鍛える」という教育方針を掲げ、IT活用の取り組みを全校で進めている。iPadの活用はその一環だ。さらに同校は、この方針の推進に当たって幾つかの団体から助成を受けており、研究成果のアウトプットのためにも、各教員がITの活用を考える必要があったのだ。
こうした背景があり、怖さがありながらもIT活用を模索し始めた若松教諭。だが、いざIT製品を使い始めると、「“紙ではできないこと”ができるようになったり、イメージを大きく広げられるといったメリットに気付くことができた」と若松教諭は振り返る。
「家庭科以外の教科についてもIT製品が生かせる」と、若松教諭は考えている。「例えば算数なら、図形の問題で動画を1本見せるだけで理解が進むケースがある。電子黒板を併用すれば、今まで板書などで1時間かかっていた内容を1、2分で提示できる。教材研究の選択肢も広がる」。校務で忙しい教員にとっては、IT製品の活用で教材研究の時間を捻出しやすくなることも重要なメリットだといえるだろう。
一方、紙をはじめとするアナログツールのメリットとして若松教諭が挙げるのは「記録」だ。学習内容をクラスで振り返ったり、生徒1人ひとりでまとめるときは、iPadを使う授業であったとしても必ず「ノートにまとめる時間」を取り入れているそうだ。紙と鉛筆を使って学習内容を記録することで、記憶の定着を図ることができる、という考え方に基づく。
“実践2回目でも十分使える”ロイロノートの使い勝手を評価
児童のロイロノートの利用経験については、「5年生は今回が2回目」。ロイロノート自体は「2013年度に導入したばかりで、他教科や他学年でも数回使った程度」とのことだ。教員や児童にわずかな経験しかなくても、授業の中で十分に活用できるというのは注目に値する。
南つつじヶ丘小学校でロイロノートを初めて利用したのは、6年生理科の「水溶液の実験」だったという。実験で起こった化学反応を動画で残し、後で振り返ることができるようにするのが目的だ。若松教諭はロイロノートについて、「編集がとてもしやすく、振り返り学習に非常に便利」だと評価する。「画像や動画を簡単に結び付けることができ、全体を一覧で見渡せるのもよい。文字入力に不慣れな生徒でも手書き文字を写真や動画に重ね書きできることも、ロイロノートのメリットだ」。若松教諭は、ロイロノートについて特に不満点は挙げていない。
今後、同校がロイロノートの活用の幅を広げるに当たって肝となりそうなのが、対応OSの拡張だ。ロイロノートは現時点ではiOS版のみの提供であり、Windows版やAndroid版はない。実は同校ではWindowsタブレットも併用しているので、今後Windows版が販売されれば、より多くの生徒が同時に活用できる可能性もある。開発元であるLoiLoの対応に期待したいところだ。
今回の公開授業後に、若松教諭は「準備が非常に楽しかった」と語った。仮にIT製品の活用に慣れた教員であっても、今回の公開授業はかなりチャレンジングな内容だったといえる。IT製品に奥手な教員であっても、ほんの少し踏み出せば、IT製品を使って教員にとっても学習者にとっても楽しく有意義な授業ができる。そんな可能性を感じた公開授業だった。
連載「EdTechフロントランナー」第2回では、本稿で紹介したロイロノートや本事例について、開発元であるLoiLoの取締役、杉山 龍太郎氏に話を聞く予定です。
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