教頭自らアプリも開発
iPad miniを導入した広陵高等学校、「ITは生徒の進路も変える」
広島の広陵高等学校は、iPad miniを中心としたIT製品を活用し、教員と生徒それぞれにメリットをもたらそうとしている。同校教頭にIT製品の活用実態を聞いた。
野球の名門として知られる広島市の私立広陵高等学校(以下、広陵高校)は2013年4月、授業や校務に利用するIT環境を充実させた。米Appleのタブレット「iPad mini」や校務システム、学習アプリケーションを導入。教員の校務効率化や生徒の学習効果向上を図る。同校のIT製品の導入や活用の取り組みについて、教頭の中土 基(もとい)氏に話を聞いた。
IT製品の利用状況:ペーパーレス会議から学力向上まで用途は多彩
同校が導入/刷新したIT製品分野は、iPad miniなどの端末、学習用アプリケーション、ペーパーレス会議システム、校務システムの大きく4種に分けることができる。
端末については、教員用に74台、生徒用に45台の計119台のiPad miniを導入し、主に学習活動や会議で活用している。その他、同校は生徒用の端末として、パソコン室に45台のWindows端末、「ITラウンジ」という校内スペースに48台のiMacを配備。教員にはWindowsのノートPCを74台支給し、職員室には共用のWindows端末2台、iMac2台を設置した。無線LAN環境も整備し、iPad miniなどからの通信を可能にした。
学習用アプリケーションには、すららネットの「すらら」を採用。すららは、生徒の理解度に合わせて問題を提示するといった「アダプティブラーニング」の要素を備えた学習用アプリケーションだ。利用する生徒は、すららの月額利用料金として毎月1000円(税別)を自己負担する。すららは現在、1年生全員と2年生、3年生の一部が授業外学習を中心に利用している。
ペーパーレス会議システムにはリコーの「RICOH Smart Presenter」を導入した。RICOH Smart Presenterを使った会議では、参加する教員全てがiPad miniを持参し、資料をiPad miniで閲覧する。
校務システムには、シームスブレインズの「Siems」を導入し、出席管理などの幅広い校務で利用。加えて中土氏は、「FileMaker Pro」をはじめとする米FileMakerのデータベースアプリケーション構築ツールを導入し、生徒の成績や授業記録といった情報閲覧用アプリケーション(以下、FileMakerアプリケーション)を自ら開発している。FileMakerアプリケーションは、校長/教頭といった管理職や一部の教員が、生徒面談や授業などで利用しているという。
IT刷新の背景:3つの目的達成の手段として実施
同校がIT環境の刷新に踏み切ったのは、以下の3つの目的を達成するためだと、中土氏は説明する。
- 生徒情報の一元化を図り、よりきめ細かな指導を実現
- 生徒の個別学習を可能に
- 教職員会議のペーパーレス化
1番目の「生徒情報の一元化を図り、よりきめ細かな指導を実現」する手段が、SiemsやFileMakerアプリケーションだ。2番目の「生徒の個別学習を可能に」するのが、すららとiPad mini。3番目の「教職員会議のペーパーレス化」は、RICOH Smart PresenterとiPad miniが担う形だ。
iPad miniの選定理由:「FileMaker Goが使えること」を重視
教員用や学習者用のタブレットとしては、iPad miniの他にWindows 8.1タブレットやAndroidタブレットなど、さまざまな選択肢がある。こうした中、同校がiPad miniを選んだ理由とは何か。「本体の小型さや軽さも魅力的だった」と中土氏は語るが、最大の理由は、FileMaker Proの無料のiOS用クライアントソフトである「FileMaker Goが提供されていたから」だという。FileMaker Goは、FileMakerアプリケーションをiOS端末で利用するためのクライアントソフトだ。
中土氏は広陵高校へ赴任する以前、他の学校に所属していたときから、教育委員会などへ提出するための書類作成や生徒面談時の参考情報の閲覧といった用途のために、FileMaker製品群を使ってアプリケーションの開発を続けていた(画面)。豊富なアプリケーション資産を有効活用できることに加え、中土氏がFileMaker自体のメリットを評価していたことから、FileMaker Goが利用可能なiPad miniを選択した。
中土氏がFileMaker製品群を使い続けている大きな理由は、カスタマイズ性の高さだ。「パッケージソフトだと、少しのカスタマイズでも時間がかかるし、数十万円から数百万円ものコストが掛かることも珍しくない。FileMaker製品群であれば、即座かつ手軽にアプリケーションを変更できる」。すららについては現状、iOS端末は正式なサポート対象ではないが、近い将来に正式サポートするとの確約を提供元から得た上で採用したという。
FileMaker Goは、9.7インチのディスプレーを持つ「iPad Air」でも利用できる。ただし、iPad Airは「軽くて画面が大きいことはよいが、価格が高い」と判断して採用しなかった。
IT刷新の効果:効率化に一定の効果、「教えっぱなし」も防止
明確な目的を定めてIT環境を刷新した広陵高校。導入したIT製品は、具体的にどういった効果を上げているのか。定量的な効果は公開していないが、例えば教員については、「会議はiPad miniだけを持ち込むだけでよくなったり、校務システムで生徒の状況が逐一把握できるようになるなど、効率化に役立っている」と中土氏は語る。
すららについても、「教員用の管理画面で、どの生徒がどの部分で間違えたのか、どのくらいの時間利用したのかが把握できる」と、中土氏はその効果を評価する。加えて、すららを利用することは、生徒の理解度に合わせた学習を可能にするとともに、教員の意識の向上にも効果があると見ている。「教員は教えることだけでなく、本当に生徒は理解しているのかどうかをきちんと確認する必要がある。当然ながら、すららだけでよいというわけではない。ただし、教えただけで放置してしまうことを避けるのに役立つと考えている」
FileMaker製品群やFileMakerアプリケーションについては上述したように、現状では一部の教員の利用にとどまる。「自分でアプリケーションを作らないといけない、大変なものだと考える教員が少なくない」こともその一因だと中土氏は語る。ただし、FileMaker製品群に興味を示す教員も現れつつあり、「少しずつ利用を広げられればと考えている」という。
IT導入で実現したいこと:データの蓄積が「生徒の可能性の芽」を育む
「いろいろなことを勘だけで言っても説得力はない。データを示せば納得できるし、今まで見えなかった可能性が見えてくる」――。中土氏が教育機関におけるIT活用を進める原動力となっているのが、こうした意識だ。
中土氏は過去に所属したさまざまな学校で、自作のFileMakerアプリケーションで生徒情報を活用しながら生徒の面談を進めた。同氏のFileMakerアプリケーションには、現在の生徒の成績に加え、過去の生徒の進学実績をはじめとする生のデータが詰まっている。こうしたデータを確認しながら面談をすれば、「生徒が自分で可能性を制限してしまうことを避けることができる」と中土氏は強調する。
「たった1つの苦手科目を克服するだけで、志望大学に合格できる可能性が実は高かった」。こうしたことも過去の実績があれば比較的容易に示すことができる。「生徒に対して、データを基に、『数学が苦手なら、すららを使って頑張ってみよう』といったアドバイスも可能になる」。中土氏はこう強調し、広陵高校でも周囲の協力を得ながら、同様の取り組みを進めたい考えだ。
生徒の可能性を引き出す手段としてITを活用する。校務の効率化や学力向上だけでない、教育機関におけるITの使い道の1つだといえるだろう。
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