授業を担当して実感したIT活用校のリアル
iPadと学校用SNSが導く“生徒主導の学び”――奈良女子大学附属中等教育学校
奈良女子大学附属中等教育学校は、学校用SNSの導入で生徒の学びのスタイルを大きく変えようとしている。その詳細を、講師として実施した授業の様子と合わせてリポートする。
国立の6年制中等教育学校である奈良女子大学附属中等教育学校(奈良県奈良市)。文部科学省の理数系教育に関する研究開発事業「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」の指定校でもある同校は、米Appleのタブレット「iPad」を80台超導入し、全教室にWi-Fi環境を配備するなど、国公立学校の中でも比較的充実したIT環境を有する。さらなる取り組みとして、教育機関での導入がにわかに進む、学校用SNSの活用を2013年末ごろから模索し始めているという。
筆者は幸いなことに、同校の授業で講師をする機会を得た。その授業の様子と併せて、同校が学校用SNSをどう生かしているのかをリポートする。
さまざまな業種の社会人を招いて話を聞く任意参加型授業「Vocational Guidance(VG)」。奈良女子大学附属中等教育学校が総合的な学習の一部として実施するこのVGに、筆者は講師として招かれた。同校が2013年12月に開催したVGには、中学生、高等学校生合わせて40人超の受講者が集まり、全員がiPadや小型の「iPad mini」を手にしながら登壇する講師陣による授業を受けた。
VGの時間中、生徒には学校用SNSである「ednity」の利用を許可しており、生徒は感じた事や質問、意見などを都度ednityに投稿したり、直接発言したりしていた(画面1)。
筆者の授業では、iPadを使っている他校の教育事例を写真や動画で紹介した。日常の学校生活でiPadを活用しているだけあって、同校の生徒の反応は鋭い。事例の中で使われたアプリについて筆者が説明したところ、生徒はWebブラウザでそのアプリを検索。筆者がアプリ名を話してから数秒後には、そのアプリのダウンロードページへのURLがednityに投稿されていたのが印象的だった。
「チョークと黒板では絶対にできないこと」を目の当たりに
授業の中で、筆者はednityとWebベースのマインドマップツール「iroha Note Navi」(開発:アトリエいろは)を併用した演習を試みた。「2カ月後、海外留学生と英語でディスカッションをする必要があるとする。どういった準備をすべきか」という質問を提示し、生徒にはその答えをednityに投稿してもらった。そしてiroha Note Naviを使って投稿された答えをまとめ、“受講者全員の総意”となるマインドマップを作成した。
その後、筆者は構築したマインドマップをわざとバラバラにし、生徒の手元にあるiPadで組み直す作業をしてもらった。「理解したつもり」になっていないかどうかをあぶり出すのが目的だった。
マインドマップは、ある課題を解決するために必要な要素を体系的に網羅する形になっている。そのため、作成したマインドマップをバラバラにしても、論理的なつながりを意識すれば、元通りに復元することは不可能ではない。
復元は確かに不可能ではないものの、実際には論理的なつながりが破綻しない構成は複数存在し得る。そのため、論理的なつながりを考慮しただけで元のマインドマップに復元するのは難しい。実はこうした事実は織り込み済みで、筆者は最後に「物事の正解が1つとは限らない」ことを伝えようと考えていたのだ。
予想通り、マインドマップを完全に復元できない生徒が大半だった。だがこうした中、ちょっとした“事件”が起きた。ある生徒が自分のマインドマップをスクリーンショットに撮って「私の理想はこうだ」とednityに投稿したのだ(画面2)。まさに、筆者が伝えようとしていたことを、この生徒は先回りしてそれを全体に展開してしまったのである。この投稿と筆者の“種明かし”を聞いて、教室内も大いに湧いた。
普通の授業では、流れと異なる主張は発言のタイミングや時間を気にして飲み込んでしまうことが多い。しかしこの方法ならば、意見が一瞬でクラス全体に共有でき、その場で反応も分かる。この生徒の端末の使いこなしもさることながら、「チョークと黒板では絶対にできないこと」を目の当たりにした瞬間だった。
家庭での課題学習にも学習用SNSを生かす
VGの授業を主催した同校の国語科教諭 二田貴広氏は、VGを初めとする授業での活用以外にも、ednityの可能性をさまざまなシーンで検証している。その1つが、「家庭での課題学習」だ。
同校のiPadは学校所有のため、原則として生徒は自宅へ持ち帰ることができない。一方、Webサービスであるednityは、インターネット接続さえあればどこでも利用できる。つまり、学校のiPadを持ち帰らなくても、生徒の私物スマートフォンや自宅のクライアントPCなどからednityへアクセスすることは可能だ。こうしたことから、ednityを家庭での課題学習に活用しているという(写真1)。
ednityの活用例の1つが、高校2年生の国語における小説の精読と分析だ。村上春樹氏の短編小説『レキシントンの幽霊』は、主人公が“数年前(当時)”に体験した不思議な経験について、その当時と、そこから“数年後”である現在の自分の考えを入り交ぜて記載する文体が特徴だ。生徒は、小説の本文中から「当時の主人公」と「現在の主人公」の考えを抜粋したWordファイルを事前に作成して印刷。これを使い、自宅でじっくりと課題に取り組んでもらうという。
生徒はまず、課題に対する自身の回答をednityに投稿する。ただし、投稿先はクラス共通の投稿スペースとし、生徒が自宅に居ても他の生徒の考えや分析内容を見ることができる。このことで生徒は、自分と同じ考え方をしている生徒がどれだけいるかを確認できるだけでなく、他の生徒がまだ言及していない「新たな視点」を考えやすくなる。特定部分の解釈を巡ってクラスメイトと熱く議論する、といったことも可能だ。
生徒の考えを出力させ、クラスで共有してもらい、考えを比較したり議論したりする――。こうしたプロセス全てを教室内で実施しようとすると、何時間も掛かってしまう。ednityの導入により、こうしたプロセスの大部分が生徒の自宅作業で完結するため、学校の授業では精読や分析といった、より深い作業に時間を割くことができるようになったという。これは、学校の内外を問わず使える学校用SNSであるednityの効果だといえるだろう。
「反転授業」も中2で試行
動画教材などを利用して生徒が家庭で予習し、授業では予習内容を踏まえた応用問題を解いたりディスカッションをしたりする「反転授業」。同校はこの反転授業にも取り組んでおり、中学2年生の授業で実際に試行中だ。
国語の授業では、生徒に「物語と小説の違いは何か」という命題を考えさせるためにednityを活用している。生徒は授業の前に、家庭で『ごんぎつね(物語)』『おにたのぼうし(小説)』といった小学校向けの物語や小説を読み、自分の考えをednityに投稿する。授業では、ednityに投稿されたクラス全員の考えを読み、自分とクラスメイトの考えを踏まえた上で、物語と小説の違いについてednityに投稿して議論する(写真2)。
この授業における主導権は、完全に生徒側にあり、教員はファシリテーターとして生徒の議論の様子を見守る役割に徹する形だ。
SNSは“生徒主導”の学びを導く手段
二田教諭は、こうした国語科でのednityの活用は、「『文学とは何か』『小説とは何か』といった、国語科の本質的な問題に切り込む議論を“生徒主導”で進める有力な手法だ」と語る。二田教諭は今後、こうした実践事例を定量的・定性的に効果測定し、その結果を外部に発表していくという。今後の動向が非常に楽しみだ。
新連載の「EdTechフロントランナー」第1回では、本稿で紹介したednityについて掘り下げて紹介する予定です。
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