業務全体ではなく「工程」に着目
「Copilot」はなぜ放置される? “議事録要約止まり”を脱する処方箋
業務を丸ごとAIで置き換えようとして、失敗する企業が後を絶たない。大手建設企業の事例では、手順を細分化して「Microsoft 365 Copilot」を局所適用した。なぜこのアプローチが定着につながったのか。
生成AIのビジネス適用が進む中、多くの企業が直面しているのが「ライセンスを配布したものの、用途が議事録の要約やメール文面の作成にとどまる」という構造的な課題だ。特に定型的な書類の照合や目視確認が多いバックオフィス部門では、既存の手作業から抜け出せず、生成AIを活用した具体的な時間削減効果を示すことが難しい状況が続いている。
この制約を解消するため、ある大手建設企業の総務部は、生成AIに関するシステム開発やコンサルティングを手掛けるIrwin&coの支援を受け、業務手順の抜本的な見直しを実施した。新たなシステムを導入するのではなく、導入済みのAIアシスタント「Microsoft 365 Copilot」(以下、Copilot)を利用し、実業務への組み込みを図った。結果として、総務部門の122業務からCopilotの適用が有効な23業務を抽出。対象業務における年間約1842時間の作業工数のうち、約373時間(20.3%)の削減を実現した。
業務全体の仕組みではなく、特定の作業工程をどのようにCopilotに置き換えたのか。
工程レベルの分解と「実演」による現場定着
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Microsoft 365 Copilotの活用
今回の取り組みにおいて、建設企業がIrwin&coの伴走支援を選択した合理的な理由は「常駐型での業務分解と実演」にある。
AIアシスタントは業務全体を一括で自動化するツールではなく、特定の「工程」に対して機能する。しかし、現場担当者へのヒアリングや業務マニュアルの確認だけでは、「誰が、どの手順で、どの資料を用いて、何時間かけて処理しているのか」という実態を正確に把握することは難しい。
そこで支援チームは現場に常駐し、担当者の作業を直接観察することで実態に即した棚卸しをした。総務課が担当する全122業務の中から、発生頻度と所要時間のインパクトが大きい23業務を抽出。その業務の手順を1工程ずつ細分化し、Copilotによる代替が適した箇所のみを特定した。
一般的な生成AIの導入支援では、システムの整備やプロンプト(指示文)入力の研修を実施して完了するケースが多い。しかしこの手法では、担当者が自席に戻った際に、自身の固有の業務へどう適用すべきか分からず、利用が定着しないという運用上の課題が存在していた。
この課題に対し、本プロジェクトでは「実業務のデータを用いた実演」という手法を採る。支援担当者が現場でCopilotを操作し、自社の実データに対してどのような指示を出し、出力された結果をどう業務に反映させるのかを目の前で提示した。現場担当者自身が同じ操作を試して再現できる状態を確認してから次の業務へ進むことで、確実な定着を図っている。
社内規定の参照と判断理由の自動生成
技術的な仕組みとして特筆すべきは、押印請求のチェック業務におけるアプローチだ。
従来、この業務では担当者が申請された請求書と添付資料を目視で突き合わせ、代表者名や日付、住所の誤記がないかを確認していた。職務権限規定を参照しながら、稟議(りんぎ)が必要な案件かどうかを人間が判断しており、件数が多い日は1日当たり1時間規模の作業が発生し、年間600時間の負担となっていた。
新たな仕組みでは、CopilotがPDF形式の申請書類を読み取り、「代表者名」「年度・日付」「住所」「稟議の要否」の4項目を自動で判定する形へと移行させた。稟議の要否については、単なる結果だけでなく「職務権限規定の別表におけるどの項目に該当するか」という判断の根拠までを提示するよう指示を組み込んでいる。これによって、担当者の役割は「全件を目視確認する」ことから「Copilotが出力した判定結果と理由を確認する」ことに変化し、業務単体で年間155〜220時間(25.8〜36.7%)の工数削減につながった。
承認フローを変えない設計思想
既存の手法と今回の仕組みにおける大きな違いは、業務プロセスの改修を伴わない点にある。
デジタル化やシステム刷新を推進する際、既存の承認フロー自体を見直すアプローチが取られることが一般的だ。しかし、他部署を巻き込んだ手順の変更は合意形成のハードルが高く、現場の抵抗によってプロジェクトが停滞する原因になりやすい。
本事例では、申請から部署長承認、総務部社員の確認、総務課長の最終承認という既存のワークフローを一切変更していない。組織のガバナンスと責任の所在を維持したまま、総務部門内における「確認」という局所的な工程のみをAIアシスタントの処理に置き換えるという合理的な判断を下している。
新たなSaaS(Software as a Service)を追加契約するのではなく、既に利用しているMicrosoft 365で完結させた点も、データ移行や社内調整の工数を抑える要因となった。
今後の展望と横展開の可能性
「全社にライセンスを配布しただけでは利用率が上がらない」という課題は、対象となる業務範囲が定まっていないことに起因する。122業務の中でCopilotの適用が有効だったのは23業務であり、その中のさらに一部の工程だけであったという事実は、AIアシスタントが機能する範囲の狭さと、事前の工程分解の重要性を示している。
今回得られた「対象23業務で年間373時間を削減」という定量的な実績は、経営層への明確な報告指標になる。この成果を足掛かりとして、今後は人事や経理、法務といった定型業務が多い他のバックオフィス部門に対しても、同様の考え方で適用範囲を拡大できるようになる。
業務を工程レベルまで分解し、既存の承認フローを維持しながらAIアシスタントを局所的に組み込む本手法は、新規のシステム投資を抑制しつつ、企業が保有するソフトウェアライセンスの投資対効果を高めるための実践的な参考事例になるだろう。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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