比較なしのIT調達が招くリスク
「Microsoft一択」で本当にいいのか 知らぬ間にライセンス費用が膨らむ真相
Microsoft製品は事実上の標準として選ばれがちだ。しかし、他社ツールとの比較検証をしないまま導入や更新を繰り返すことで、IT予算の膨張を招いている可能性がある。なぜそのような現象が起きるのか。
行政機関や企業のIT調達において、OSやグループウェア、オフィスツールにおけるMicrosoft製品は事実上の標準として選ばれがちだ。しかし、既存製品からの移行にかかる費用や作業負荷への懸念から、「Google Workspace」など他社の類似製品と十分に比較検証しないまま契約更新が繰り返されるケースは少なくない。このような「Microsoft一択」の調達慣習は、ベンダーロックインをいっそう強固にし、結果としてIT予算を圧迫する大きな要因になっている。
英Computer Weeklyは、イングランドの主要37自治体を対象に情報公開請求(FOI)を通じた調査を実施した。2023年度(2023年4月~2024年3月)から2025年度(2025年4月~2026年3月)までの3年間の支出推移と、2020~2025年の調達履歴を分析した結果、調査対象の大半が代替システムとの比較検討をしておらず、Microsoft製品への支出が大きく膨張している実態が明らかになった。比較可能な20自治体のうち18団体で、2023年度から2025年度にかけてMicrosoft製品関連費用が増加し、中央値で17%増、最大で87%増を記録した自治体も存在する。
限られた予算内で業務効率化を進める上で、この“検証なしのMicrosoft依存”はどのようなリスクをはらむのか。英国自治体の事例から、適切なIT調達に向けた課題とアプローチを解説する。
なぜ「Microsoft一択」になるのか
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Microsoftからの乗り換えは現実的か
本調査は、イングランドの主要37自治体に対し、2020~2025年の調達履歴や直近3年間の支出推移などを情報公開制度によって収集した結果に基づく。その中で浮き彫りになったのは、システム選定時のベンチマーキング(機能・費用比較)が機能していないという実態だ。
2020~2025年の5年間でMicrosoft製品と代替ツールとの比較を実施した自治体はわずか1団体にとどまる。24自治体は比較自体を一切しておらず、5自治体は製品の販売代理店や調達ルートを比較したのみだった。
この背景には、英国政府の共同調達枠組みへの依存がある。37自治体中33団体が特定の購買システムを利用しており、そこでの競争は同一製品を扱う代理店間の入札にすり替わっている。結果として上位少数の代理店が全体の過半数を供給する状態となっており、ベンダー間の技術的・価格的な競争は実質的に機能していない。
検証なしのCopilot導入で膨らむ費用
既存システムへの依存は、新技術の導入時にも追加費用の増大という形で影響を及ぼしている。AIアシスタント「Microsoft Copilot」に関しても、37団体中31団体がすでに導入または試験運用を開始している。
費用を開示した20自治体は、合計で年間約119万ポンドをMicrosoft Copilotに支出しており、特定の自治体だけで約33.9万ポンドを計上する例も見られる。こうした新機能の追加は、既存ライセンスへの上乗せとして扱われることがほとんどで、導入前に厳格な費用対効果の検証を実施した自治体は1団体のみだった。
ハックニー区が弾き出した「最大5.4倍」の費用差
多数の自治体が比較検証をせずに調達を繰り返す中、ハックニー区は従来の手法とは異なる合理的なアプローチを採用した。同区は外部の専門家を起用し、既存のGoogle WorkspaceからMicrosoft製品に移行した場合の費用を厳密に試算している。
6001ユーザーを対象に、ライセンス構成別の費用変化を算出したシミュレーションモデルにおいて、Google Workspaceの更新費用は約96.8万ポンドだった。これに対してMicrosoft製品への移行は、基本構成の「Microsoft E3」ライセンスで約202万ポンド(2.1倍)、上位構成の「Microsoft E5」にMicrosoft Copilotを追加したライセンスでは約524万ポンド(5.4倍)に達すると算定された。移行に伴うシステム再構築や再教育に要する工数も加味されるため、多額の追加予算が必要になることが判明した。
この結果を受け、ハックニー区は透明性を確保した競争入札を実施し、Google Workspaceの更新を決定した。この事例は、単にどちらのツールが優れているかではなく、移行の手間と得られる価値のトレードオフを定量的に測定し、合理的な判断を下した点に重要な意義がある。
日本の調達担当者が見直すべき3つのポイント
英国の自治体で明らかになった調達の構造的課題は、日本の行政機関や民間企業にとっても決して無関係ではない。システムのクラウド化が進む中で、システム連携の硬直化や費用の高止まりを防ぐためには、組織的な調達プロセスの見直しが不可欠だ。
IT調達担当者が検討すべきポイントとして、以下の3点が挙げられる。
- 製品の定期的な比較評価
- 既存システムの更新時に、惰性で契約を継続するのではなく、代替ツールとの機能および総費用の比較を定期的に実施する体制を構築する。
- 調達枠組みの目的再確認
- 代理店間の価格競争だけではなく、要件定義の段階で複数の技術的アプローチを比較検討できる調達プロセスを設計する。
- 新技術導入時の費用対効果の明確化
- AIアシスタントなどの付加機能を採用する際、既存システムへの追加という安易な選択を避け、業務上の具体的な効果と追加費用を厳密に検証する。
ITインフラの選定は組織の競争力に直結する。客観的なデータに基づき、自社の業務要件に適合する仕組みを主体的に判断する姿勢が、これからの調達戦略には求められている。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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