iTeachersに聞く、IT活用「3つの秘訣」【第6回】
“使われないIT”を学校に生まない5つの視点――附属新潟小学校 片山敏郎教諭
20年以上の教員経験に加え、日本デジタル教科書学会の会長も務める、新潟大学教育学部附属新潟小学校 片山敏郎教諭。研究者と実践者の視点から、教育機関のIT活用の秘訣を語る。
新潟大学教育学部附属新潟小学校の片山敏郎教諭は、同校の4年生を受け持つ小学校教諭だ。教員歴20年以上のベテラン教員であると同時に、日本デジタル教科書学会の会長でもあるという、アカデミックな一面も持ち合わせる。
デジタル教科書学会は、デジタル教科書/教材に関する学術的な研究や授業実践、その効果、意義を発信することを目的に、2012年5月に設立された。教育実践者と研究者という、立場の異なるメンバーで構成されているのが特徴だ。
実は片山教諭は、同学会が発足する前から、自身が立ち上げ発起人になり「みんなのデジタル教科書教育研究会」という名称で活動を続けていた。同研究会ではソーシャルメディアの「Twitter」を利用し、全国各地で教育の情報化に取り組む教員らがつながって、新しい学校づくりやデジタル教科書/教材について議論を交わしていたという。
こうした経験から、「教育現場のさらなる変化には、学術的なデータが必要だ」と考えるようになったという片山教諭。大学の研究者や全国で同様の取り組みをしている教員らに呼び掛け、日本デジタル教科書学会を発足させたという。
片山教諭は、現在は赴任先の学校で米Appleのタブレット「iPad」を81台導入するなど、IT製品導入の旗振り役となっている。協同的・探究的な学習を支えるツールとしてタブレットを位置付け、実践を繰り返している。研究者と実践者、両方の視点で教育の情報化に取り組む片山教諭が、IT活用の秘訣を語る。
連載: iTeachersに聞く、IT活用「3つの秘訣」
秘訣1:他の教員に“生のIT活用”を示し、取り組みを広げる
教育の情報化を先導する担当教員の共通の課題といえば、「いかにIT活用の取り組みを広げていくか」ではないだろうか。ITが不得手、あるいは“デジタル嫌い”な教員をどう巻き込んでいくかに、頭を悩ませている教員は多いだろう。
片山教諭も同様の課題を抱えている1人だが、「単にITを使う教員が増えればよい、というレベルの考え方ではいけない」と話す。1人でもITを活用する教員が増えることで、「より多くの学習者がITのメリットや恩恵を受けることができるようにする、という視点が大切だ」(同教諭)という。
IT活用の取り組みを広げるに当たり、片山教諭が取っている具体策は、ITを活用している児童の生の姿を他の教員に見てもらうことだという。とはいえ、児童がIT製品を単に触っているだけでは、多くの教員の共感は得られない。他の教員が共感を示すポイントは、「IT活用の目的に授業の質向上を据えていることだ」と同教諭は語る。その上で、「ITの活用で児童の良い部分を引き出せているかどうかが重要になる」だと話す。
「1時間の授業の中で、ITを用いたことで児童がどのような『変容』(内面的な変化)を見せたのかを示すことが大切だ」と片山教諭は強調する。その変容を他の教員にも分かりやすく見せることができなければ、「『IT製品を使わなくても、他に良い授業方法はたくさんある』という意見が勝ってしまうだろう」というのが、同教諭の考えだ。こうした状況を放置すれば、いつまでもIT活用のメリットが認識されず、“自己満足”で終わってしまいかねない。
IT製品を使った授業で児童の変容が見られやすいのは、「思考」と「表現」に関する学習シーンだと片山教諭は説明する。児童が考えを深めたり、自分の考えたことをプレゼンテーションしたりするシーンでIT製品を用いると、児童のコミュニケーションが活性化され、主体性や思考力に変容が見られることが多いという。こうした変容は、デジタルの特性を生かした学習アプリケーションの存在なしで進めるのは極めて難しく、IT活用の意義も伝わりやすい。
片山教諭は、思考と表現の学習シーンで使えるアプリとして、マインドマップが描ける「SimpleMind+」と、教育用プレゼンテーションアプリの「ロイロノート」を挙げる。いずれも、さまざまな試行錯誤を経て片山教諭が選び抜いたものだ。具体的な成果の定量的評価はできていないものの、これらのアプリを使った学習には「手応えを感じている」と同教諭は話す。
特に、SimpleMind+で児童の思考を可視化できたメリットは大きいようだ。「『分類』『比較』『関係付け』『系列化』といった思考が、視覚的に簡単にできるようになったことで、より考えを深めることができる児童が増えた」と片山教諭は説明する。「このような児童の姿を他の教員に実際に見てもらいながら、IT活用の意義を感じ取ってもらいたい」(同教諭)
秘訣2: ITを生かすには環境整備が不可欠 人的支援を最優先に
IT製品を生かすためには、現場の教員がストレスなく使える環境整備も必要だ。授業で使用するたびに電子黒板を教室間で移動させるのは骨が折れるし、せっかくタブレットを導入しても、場所によってネットワーク接続が悪かったりするようでは十分に良さを生かせない。
教育現場でよく指摘されがちな“モノがあっても使われない状態”は、このように使用する以前の段階に問題があるケースも多い。環境整備を同時に進めていかなければ、せっかくのIT製品も埃をかぶってしまうだろう。
IT製品を使うために必要な環境整備として、片山教諭は次の5つのポイントを挙げる。
- 人(現場の取り組みを支える人的支援)
- 端末(故障や紛失に対する対応策)
- ネットワーク(ストレスなく接続できる環境)
- 教室(グループワークなどがしやすい環境)
- コンテンツ(良質なコンテンツの整備)
中でも重要かつ早急に取り組まねばならない課題として、片山教諭は「人」を挙げる。
教育現場におけるIT活用の取り組みは、ITに詳しいごく一部の教員が中心になって進める例が多い。活用範囲もそれほど広くならず、教員1人が頑張れば何とかなる、というケースも少なくない。片山教諭自身も、前任校では40台のiPadを1人でセットアップした経験があり、「これくらいなら自分1人が頑張ればできる範囲だった」と話す。
教育機関でのタブレット導入が加速している現在、学習者1人に1台、もしくはグループに1台といった形でタブレットの導入が進み、導入台数が何百台にもなることも珍しくなくなった。「何百台もあるデバイスの管理や授業のサポートを、ITに詳しい教員や担当教員の努力だけでカバーすることは難しい」と、片山教諭は警鐘を鳴らす。
組織としてどのような協力体制を築くのか。マンパワーが不足する際にどう対処するのか。こうしたことをIT製品導入の早期から想定しておかねば、「導入したIT製品を使い続けるだけの体力が現場から無くなってしまうだろう」と指摘する。
公立の教育機関においては、「ICT支援員」がIT活用支援の担い手として挙げられる。だが片山教諭は、「ICT支援員が常駐していないケースも多く、頼りたくても継続的な支援を受けるのは難しい」と話す。
自治体の協力体制や予算などの整備状況によって、教育機関が得られる人的支援は異なる。ITに詳しい教員や、取り組みに価値を感じている一部の教員が現場を先導し、彼らの良心的なコーディネートで取り組みが進められているケースが多いのが実情だ。
IT製品が無事に導入できたとしても、現場では授業でのIT活用などで継続的な人的支援が不可欠だ。こうした支援が受けられなければ、いずれ現場の教員の力だけではIT製品を使い切れなくなる。現場からの切実な声に対して適切な解決策が提供されるよう、さまざまな方面に働き掛けていくことも重要だといえる。
秘訣3:教員も学習者もリスクを恐れ過ぎず、使いながら学ぶ
「デジタルネイティブ」と一口に言っても、生まれた年代によってIT製品に対する感覚も接し方も異なる。1990年代、2000年代、2010年代など、その年代によって初めて手にするIT製品も違う。「子どもがよく使うゲーム専用機に通信機能が付加され、“端末がソーシャル化”したタイミングを境に、大きく2つの世代に分けることができる」と同教諭は説明する。「12年前の教え子と今の教え子とは、感覚がまるで違う」(同教諭)
端末に絡むトラブルといえば、以前は「ゲームばかりして勉強しない」「ゲームソフトを無くした」といった類いのものだった。だが今の学習者は、オンラインゲームやメール、チャットなど、友達同士が関わり合う用途でデジタルデバイスを使うことが多い。当然、トラブルも学習者同士の関わり合いの中から起こるケースが目立つ。こうしたトラブルの対応を不安視して、IT製品の活用に消極的になる教員もいるだろう。
片山教諭は、「学習者が引き起こす予測不可能なトラブルをIT製品導入のリスクだと感じてほしくない」と話す。確かに、現場では今までに無かったトラブルが生じる場合があるだろう。だが情報リテラシーは、「IT製品を実際に使い、小さなリスクや失敗を乗り越えていくことで身に付く」(片山氏)ものである。リスクを恐れるあまり、“ノーリスク”を貫こうとすれば、IT製品を使ってできることは限られる。
ガチガチにセキュリティ対策を施した端末を使わせるのも同様だ。学習者により良いIT活用経験をしてもらうためには、保護すべき部分は保護し、トラブルを乗り越えることにこそ学びの価値があることを、教員が理解しておくことが大切だといえる。
教員が今後考えるべきこととして片山教諭が挙げるのは、今後の学習指導要領だ。ゆくゆくは、児童生徒の目指すべき資質の中に、情報リテラシー能力に関わる内容を追加する方向で検討が始まっている。「これは大きな転換点になる」と片山教諭は指摘し、「学校や教員の役割、意識も変わらざるを得ないだろう」と語る。
ゲームだけではないITの可能性を伝える
「デジタルネイティブは、端末を通して友達とつながり、互いの経験や友達の話をきっかけに活用範囲を広げていく」と片山教諭は話す。こうした中、親や教員がIT製品の使い方やその可能性を正しく教えることができなければ、学習者はゲームや動画など、自分の好きな使い方しかしなくなる可能性が高い。
情報社会の今、学校はそのような学習者を社会に送り出していいのだろうか。学校は、IT製品を学びや自分の可能性を広げるツールとして使うことができるよう、学習者に教える役割を持たねばならないはずだ。「多くの教員がIT活用に取り組まないと、幅広い学習者にITの良さを伝えることができない」と、片山教諭は語る。
どんなことでも新しいことを始めるのは挑戦であり、多少のリスクを伴う。学習者が受ける新しい取り組みが実験であってはならず、「失敗した」では済まされない。それでも、片山教諭のように明確なビジョンを持って教育現場へのIT導入を進めるのであれば、学習者が将来に向けて経験豊かに成長できると望みたい。少なくとも、そのチャレンジを妨げる世の中であってはならないだろう。
iTeachers(アイティーチャーズ)
小学校、中学校、高等学校、大学、専門スクール、学習塾という、各教育機関でITを活用した革新的な取り組みをしている9人の先駆者が集まって結成した教育者チーム。「教育ICTを通じて『新しい学び』を提案する」をスローガンに、実践の中で培われた経験やノウハウを、全国のイベントやセミナー、メディアなどを通じて広く情報発信している。
執筆者紹介
神谷加代(かみや かよ)
フリーランスライター/ブロガー。結婚を機にサンフランシスコに移住し、日本語の絵本を扱ったECサイトを運営。その後、10年の在米生活を経て帰国し、主婦ブロガーとして「家庭×教育IT」に関する話題をメインにした「主婦もゆく iPad一人歩記」を執筆。家庭や教育におけるITの在り方を主婦目線で描き、教育関係者をはじめとする多くの読者から支持を得ている。現在は教育ITの分野を中心にライター業、子ども向けプログラミング教室の講師として活動中。著書に『iPad教育活用 7つの秘訣』。
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iTeachersに聞く、IT活用「3つの秘訣」
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