iTeachersに聞く、IT活用「3つの秘訣」【第1回】
「タブレットで動画撮影」が“学び心”を刺激する――大阪大学 岩居教授
ドイツ語講義にiPadを使った動画撮影を生かす大阪大学の岩居弘樹教授。ITを使って学生を主体的な学びへと導いてきた経験を基に、IT製品の導入や活用の秘訣を語る。
長年にわたり、動画撮影を用いたアクティブラーニング(学生の主体的かつ積極的な参加を取り入れた講義方法)の研究・実践に取り組んできたのが、大阪大学 全学教育推進機構の岩居弘樹教授だ。
担当するドイツ語講義において、学生に1人1台のiPadを持たせ、主体的な学び合いへと導く独特の指導を展開してきた岩居教授(参考:さよなら“静かな講義室”――iPadで実現した「会話が生まれる講義」とは?)。現在は同大大学院の「多言語演習」という講義でもその指導法を実践し、ITを使ったトルコ語、ベトナム語、インドネシア語の語学習得方法を研究している。
こうした今までの取り組みを通じて、岩居教授はIT製品を教育機関で有効活用するために必要な条件を見いだしてきた。その中でも、特に重要な3つの秘訣を岩居教授に紹介してもらう。
秘訣1:「教師が教える」のではなく、「学生が学ぶ」目線で考える
IT製品を教育現場で活用する際、岩居教授が最も大切にしていることは、IT製品を使って「学生にどう教えるか」ではなく、それを使って「学生がどのように学ぶことができるか」という視点だ。一斉授業の形で、教員が学生へ一方通行で“教える”のではなく、学生が主体的に“学ぶ”、まさにアクティブラーニングの場を作るためにIT製品を生かしている。
岩居教授の講義では、学生はiPadを使ってドイツ語の動画を作成する。グループワークによるこの課題は、発音練習からシナリオの作成、さらには動画の撮影や編集まで、全てにおいてiPadを使用する。
「タブレットのような操作が簡単なIT製品を学生に与えると、学生は自らどんどん使っていく」と岩居教授は話す。使っていく中で分からないことがあっても、すぐに教員に尋ねたりすることなく、自分で調べたり学生同士で一緒に考えたりして、お互いが自然にコミュニケーションを取りながら解決することが多いという。また、教員よりも学生の方が操作方法やアプリ、Webサービスなどについてよく知っていることも少なくない。
こうした事情を理解しないまま、教員が“教える”という立場で「デバイスを授業でどう使うか」「この機能を使って何ができるか」などと考えて指導してしまうと、学生は受け身になってしまい、結果的にIT活用がうまくいかなくなることが多いようだ。逆に、学生がある程度自由にデバイスを触ったり、教員の指示を待つことなく個人やグループのペースで課題を進められる環境を与えると、学生は自然にコミュニケーションを取りながら学んでいくという。
学生目線でIT製品の活用を考えていく際、重要なのは「教員の役割を変えることだ」と岩居教授は語る。学生が自ら学べるデバイスを持っている以上、教員が常に学生の上に立って教えるというスタイルでは、IT製品の活用の幅も広がらないという。
「教員は、学習者同士の会話を促したり、つまずいている学習者にアドバイスをしたりと、学習の場を活性化させるような“ファシリテーター役”になることが大切だ」と岩居教授は指摘する。その方が、学習者が主体的に学べるだけでなく、学習者自身がさまざまなデバイスの活用方法を見つけやすくなる。もちろん、学習者に自由にデバイスを触れさせる環境を作るときには、学習者との信頼関係を築き、本来の目的以外にデバイスを使うことがないようにする必要がある。
秘訣2:多機能ではなく、使い勝手の良さを優先する
教育現場で使うIT製品やサービスは、「使い勝手が良いものでないと長続きしない」と岩居教授は話す。例えばデバイスは、ユーザーインタフェースの使い勝手やキーボードの有無、周辺機器の充実度などのスペックが製品によって異なる。幼児の場合には単純なユーザーインタフェースが適するなど、一般的に学習者の発達段階によって必要なスペックが異なるという見方もあり、使う年齢を考慮して使い勝手の良さを見極める必要がある。
岩居教授は、タブレットのアプリを選ぶとき、なるべく機能がシンプルなものを選ぶようにしているという。多機能であることを重視してアプリを選んでしまうと、「機能を生かすための授業を考えてしまいがちになり、結果的に失敗しやすい」と説明する。
それよりも、教員が授業の中で「やりたいこと」を実現するためのアプリを探す方が、使い勝手の良いアプリに出会うことが多いと岩居教授は指摘する。「『まずは自分が触ってみる』という姿勢が大切だ。教員自身が『面白い』という感覚を持てないと、実践で失敗することが多い」
岩居教授の場合は、講義の中で「学生たちにもっとドイツ語を声に出してもらいたい」と考え、iPadの用途を広げたり、使うアプリの種類を増やしたりしていったという。動画教習サイト「YouTube」のアノテーション機能(動画にテキストを付記できる機能)を使うようになったのも、「学生に、自分が話したドイツ語を振り返って確認してもらいたい」と考えが基にあったからだ。授業でやりたいことや課題を見つけ、その解決策としてIT製品やサービスを見いだしていくと、有効活用しやすいようである。
「教員は普段から『授業でこんなことができたらいいな』という発想を持つことが大切だ」と、岩居教授はアドバイスする。デバイスありき、機能ありきで活用方法を探るのではなく、あくまでも課題が先にあることが重要、ということだ。
逆に、IT製品やサービスを導入したからといって、「毎回それらを使って授業をする必要はなく、デバイスを触らないで終わる授業があってもよい」と岩居教授は語る。この考え方は、一見するとIT製品の活用を進める動きと逆行するようにも思える。岩居教授がこうした考えを持つ理由は、「IT製品を導入すると『使うこと自体の価値』ばかりを追いかけてしまいやすい」という懸念があるからだ。
生の授業で起こっていることを見落さないためにも、ときには、あえてIT製品を“使わない”という発想も大切だ。結果として、それがIT製品やサービスと長くうまく付き合っていく秘訣になる。教員がこれまで培ってきた経験や勘、スキルなども大事にしながら、IT製品の活用方法を探るのが望ましいといえる。
秘訣3:自分の理解したことを表現する「デジタル作品づくり」を取り入れる
上述した通り、講義でグループワークによる動画作成を取り入れている岩居教授。IT製品を教育現場で生かすなら、「学習者がデジタル作品を作成する活動を取り入れることを検討すべきだ」と話す。
デジタルに限らず、何らかの作品を作る過程で、学習者が学ぶことは多い。その上で、ペイントソフトやデジタルカメラといったITツールを使ってイラストや動画などのデジタル作品を作るメリットは、試行錯誤が何度もできることにある。ITツールとデジタル作品が持つこの特性は、授業で大いに生かせる部分だ。
授業に初めてデジタル作品作りを取り入れるのであれば、まず何をすべきか。岩居教授は、誰もが簡単に扱える「動画を撮ること」から始めるとよいと説明する。最近はタブレットやスマートフォンといったスマートデバイスでも動画撮影機能があるので、動画撮影のハードルはそれほど高くはないはずだ。
動画撮影を盛り込んだ効果的な取り組みの例として岩居教授が実践するのが、自分の言動を撮影した動画を自ら見る「リフレクションムービー」である。学生同士がその日の講義で学んだことをグループ内でディスカッションし、学んだ内容を1分の動画にまとめる、といった具合だ。学生にとって、自分自身で理解していることを客観視するのに非常に有効だという。
動画ではなく、デジタル紙芝居やデジタル絵本を作成したり、学習者がアプリなどを使ってドイツ語に関する問題を作って共有したりするのでも構わない。重要なのは、利用できるITツールをうまく使い、学習者がさまざまなデジタル作品づくりを通して理解したことを表現する学習シーンを作ることだ。
「デジタル作品を作る過程で生まれるコミュニケーションを大切にしたい」と岩居教授は話す。岩居教授の講義で実施するグループワークでは、学生同士が一緒に調べたり、考えたり、デジタル作品を作り合ったりしたりと幾つもの試行錯誤を繰り返すことで、コミュニケーションが活性化する。学生同士がさまざまな知識や経験を持ち寄ってコラボレーションすることで、新しい発見や気付きを生み出すきっかけになるのだという。これは、オンライン教育などでは味わうことが難しい、教室でしか実現できない学びの形だ。
岩居教授が理想とするのは、「1人に1.5台のデバイスがある環境」だという。個人で作業をするためのデバイスと、グループ内で一緒に作業をするための大画面の共有デバイスがあれば理想的、ということだ。学生がよりアクティブに学べる環境を作るために試行錯誤を続ける岩居教授。その実践経験から生まれた上記3つの秘訣は、他の教育機関にとっても大いに参考になるはずだ。
iTeachers(アイティーチャーズ)
小学校、中学校、高等学校、大学、専門スクール、学習塾という、各教育機関でITを活用した革新的な取り組みをしている9人の先駆者が集まって結成した教育者チーム。「教育ICTを通じて『新しい学び』を提案する」をスローガンに、実践の中で培われた経験やノウハウを、全国のイベントやセミナー、メディアなどを通じて広く情報発信している。
執筆者紹介
神谷加代(かみや かよ)
フリーランスライター/ブロガー。結婚を機にサンフランシスコに移住し、日本語の絵本を扱ったECサイトを運営。その後、10年の在米生活を経て帰国し、主婦ブロガーとして「家庭×教育IT」に関する話題をメインにした「主婦もゆく iPad一人歩記」を執筆。家庭や教育におけるITの在り方を主婦目線で描き、教育関係者をはじめとする多くの読者から支持を得ている。現在は教育ITの分野を中心にライター業、子ども向けプログラミング教室の講師として活動中。著書に『iPad教育活用 7つの秘訣』。
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iTeachersに聞く、IT活用「3つの秘訣」
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