「iTeachers カンファレンス」リポート
大阪大学がiPadで語学学習、「発音の個別指導」を講義で実現
iPadをドイツ語講義に生かすのが、大阪大学の岩居弘樹教授だ。音声認識アプリなどの活用で、講義内で発音学習や個別指導を実現しているという。岩居氏の講演内容をまとめた。
教育現場でのIT活用を通じて、新しい学びの形を提案する――。こうした志の下に2013年4月に結成した教育者チームが「iTeachers」だ。iTeachersは2013年8月、教育関係者向けイベント「iTeachers カンファレンス 2013 Summer」を開催。タブレットを中心としたITを教育活動に生かす先進事例を数多く披露した。
イベント冒頭では、大阪大学 全学教育推進機構 教授の岩居弘樹氏が登壇。同学のドイツ語学習に米Appleの「iPad」を活用する取り組みを説明した。同氏は、一斉講義では難しいといわれる発音学習や講義中の個別指導をiPadで実現している。
2009年以降、iPhoneやiPod touchなどをドイツ語講義に導入し、実践研究を進めてきた岩居氏。iPadもこうした実践研究の一環で導入した。
iPad活用の現状:動画作成でドイツ語会話を体得
岩居氏がiPadを活用しているのは、同学工学部/基礎工学部の1年生を対象にした前期開講のドイツ語講義「地域言語文化演習(ドイツ語)」だ。同講義は、文法学習ではなく、正しい発音の体得に焦点を当てている。講義の定員は45人程度で、学生は2、3人のグループになり、各グループでiPadを共有して利用している。
講義の大まかな流れはこうだ。まず、学生はドイツ語の基本的な表現を学んで会話のシナリオを作成。その内容を基に会話をする様子をiPadで撮影し、動画を作成する。作成した動画は、講義時間内に動画共有サイト「YouTube」へアップロードし、講義参加者全員で共有する。動画には、吹き出しなどを挿入できるYouTubeの「アノテーション機能」を利用して、会話内容をドイツ語と日本語で動画に付記する(写真1)。
学生は、作成した動画を見て、自分が話したドイツ語の内容や間違えた箇所、話し方などを確認する。こうした作業を繰り返すことで、ドイツ語での日常会話と正しい発音を体得していく。
他の学生たちの動画も見ることができるので、学生の間によりよい内容にしようという競争意識が芽生えるようにもなったという。「『他のグループが多彩な表現を会話に盛り込んでいるのに、自分たちのグループは基本的な表現しか使用していない』と感じたグループが、次の講義で挽回する例も多い」
利用しているiPadアプリ:発音練習などに生かす
岩居氏の講義では、ドイツ語の発音練習や会話のシナリオ作成、動画作成にiPadアプリを生かしている。各アプリは、学生グループにiPadを渡す前に事前にインストールしている。
German Word Wizard:単語の発音を学習
発音練習に利用するアプリの1つが、音声合成アプリ「Word Wizard」のドイツ語版「German Word Wizard」だ(写真2)。German Word Wizardは、もともとは子ども向けに開発された単語のスペル学習用アプリ。ユーザーが並べた文字列を基に、指定した言語で発音する機能を持つ。例えば、「A」「p」「f」「e」「l」と並べると、「アプフェル」(ドイツ語でリンゴの意)と発音する、といった具合だ。学生は、発音が分からない単語があった際、German Word Wizardを利用して調べる。
同種のアプリは他にもあるが、「単語単位ではなく、文章を全て入力してからでないと発音しないケースが多かった」。German Word Wizardは、文字を挿入したり並び替えるたびに自動で発音するので、発音チェックがしやすい点を評価したという。
Dragon Dictation:音声認識で発音の正しさを確認
単語の正しい発音をGerman Word Wizardで身に付けた上で、文を正しく発音できているかどうかを確かめるために利用するのが、音声認識アプリの「Dragon Dictation」だ。Dragon Dictationは、話し言葉を音声認識エンジンで自動認識し、事前設定した言語の文章に変換する機能を持つ。学生は、自分が意図した発言内容と、Dragon Dictationが変換した文章が一致するまで発音練習を続ける。
Dragon Dictationを使って学生が発音を確認している間、岩居氏は講義室内を動き回り、正しく発音できていない学生に、口の動かし方などの発音方法を都度アドバイスする。iPadとDragon Dictationの活用で、「発音練習や学生への個別指導など、学生数が多い講義では難しかったことが可能になった」。
imiwa?、ロイロノート:会話、動画作成に活用
会話内容の作成には「imiwa?」という日本語辞書アプリを利用している(写真3)。imiwa?は、ユーザーが日本語の単語を入力すると、その単語を含む日本語の例文と、その各国語訳を合わせて表示するアプリだ。学生は、imiwa?で調べた例文を利用し、場合によっては単語を一部変更しながら会話を完成させていく。「学生が自分で一から会話内容を作るのは難しいが、ある程度表現の型があると作成しやすくなる」
動画作成には、教育用プレゼンテーション素材作成アプリ「ロイロノート」を利用している。ロイロノートは、動画やWebサイト、テキストなどをカードとして扱い、カードを組み合わせることで動画などのプレゼンテーション素材を作成できるアプリだ。学生は、ロイロノートを利用して撮影した動画を自由に編集する。
iPad/アプリ導入のメリット:会話増が文法学習にも好影響
iPadとアプリの活用で、「学生がドイツ語を口に出す機会が大幅に増えたことが大きなメリット」だと岩居氏は語る。「言語は、そもそも口に出さないと学習できない」
「アプリを利用して発音を体にたたきこむことで、文法学習がしやすくなった」と感じる学生も多いと岩居氏は語る。ドイツ語の初学者にとってハードルになりやすい、主語の種類による動詞の変化についても、「動詞の変化を文字ではなく耳で覚えているので、間違いに気付きやすくなった学生も少なくない」という。
課題は、「Ohr」(耳)と「Uhr」(時計)など、発音が近い単語同士(ミニマルペア)の発音の違いを練習しにくいことだと岩居氏は語る。「現状の音声認識アプリは、文の前後関係で認識を補っているようで、単語を単独で認識させるのが難しいのが原因だと考えている」
iPad導入に込めた思い:「学習が自然に生まれる」講義スタイルを実現
「教師は生徒の学習を見守る“おばあちゃん”になればいい」――。岩居氏が目指すのは、教育科学者のスガタ・ミトラ氏が唱えるこうした講義スタイルだ。
「教育のプロセスを生徒の自己管理に任せれば、学習は自然に生まれる。教師は、おぜん立てをしたら後ろに下がって、学習が生まれる様子を感心しながら見ていればいい」。ミトラ氏のこうした考え方を「まねたいと思った」と岩居氏は語る。
音声認識機能を持つDragon Dictationのようなアプリの活用で、講義中に発音を自習できるようにしたことは、こうした考えを具現化した一例だといえる。実際、Dragon Dictationの認識結果を踏まえて、自ら発音を修正して正しい発音を習得する学生も多いという(写真4)。「教師が一方的に教えるのではなく、学生の『自分自身で学びたい』という意欲を助けるのに、iPadやアプリは大いに役立つ」
iPadの活用は、あくまでミトラ氏のような講義スタイルを実現する手段の1つという位置付けだ。「全てをiPadへ置き換えるつもりはないし、紙の教科書などアナログな手段を否定するつもりもない」と岩居氏は強調する。「教科書の“プラスα”の部分を、iPadで実現できるのではないかと考えている」
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