なかなかブレイクしない原因は……
音声認識のキラーアプリはなぜ生まれないのか
音声認識技術が大幅に改良され、セキュリティと認証の問題への対策が講じられるには、まだ数年はかかるだろう。
音声認識技術は盛んに宣伝されているが、これまでのところ、触れ込み通りの威力を発揮していない。音声認識技術が本当に役立つものになるには、自然言語を解釈する能力の向上が必要だ。それが実現すれば、音声が多くのアプリケーションに統合され、われわれの情報アクセスのあり方は大きく変わるだろう。
先日、わたしは西海岸から飛行機で帰るとき、フライト状況を確認しようと思って航空会社の「音声認識対応」コールセンターに電話した。そして分かったのは、その「音声認識対応」応答システムのプロセスが、プッシュホンのボタンを押して発信するDTMF(dual-tone, multi-frequency)信号による応答システムと何ら変わらないということだった。電話をかけて最初にしなければならなかったのは、自分のフリクエントフライヤー番号を「口頭で伝える」こと。次のステップは「フライト情報」と言うか、数字の1を押すことだった。続いて、数字の2を押す代わりに「出発」と言うよう求められた。こうしたプロセスが延々と続いて、やっと目的の情報が手に入った。うんざりするほど時間がかかってしまった。
このシステムは、キーを操作しても、音声でアクセスしても、まったく同じ情報ツリーをたどるようになっていた。そのプロセスの所要時間は、どちらの場合もほぼ同じというわけだ。理想を言えば、所定の番号に電話して「X市からの123便の出発情報」と言うと、システムがそれを解析して情報を返すようになっていてほしかった。音声アクセスが本当に便利になるには、ユーザーが要求を出したときに、生身の相手と話す場合と同様な体験ができるレベルまで進化を遂げなければならないと、わたしは強く考えている。
現在、音声認識対応デバイスが数多く販売されている。多くのボイスメールシステム、ほとんどの携帯電話、コールセンターは、音声認識に対応している。しかし、音声認識対応デバイスが出回っているにもかかわらず、音声認識が実際に利用されている割合は、市場全体の10%に満たない。わたしは多くの人からそれはなぜかと質問されるが、その答えは、現在の音声認識技術が仕事のプロセスを変えたり、ほかの技術の使い勝手を高めたりしていないことにあると思う。現在の音声認識技術は、既に実現されていることを音声でできるようにしているだけなのだ。
しかしわたしは、音声認識には大きな可能性があると思う。モバイルコンピューティングへの活用が特に有望だ。現在、モバイルコンピューティングは、かなり高価な「スマートフォン」で電子メールや予定表へのアクセス、音声通話を行うといった形で利用されるにとどまっている。スマートフォンは人気を呼んでいるが、まだ電話市場全体の10%程度を占めるにすぎない。では、そうした現状から、モバイルコンピューティング市場はどのように展開していくのか。その鍵を握るのが音声認識だ。
音声認識はどのような役割を果たすのか。例えば、空港にフライトがキャンセルになった人がいるとしよう。出発時間がずれ込んで到着が遅れることを、訪問先に伝えなければならない。そのための実際的な1つの方法、おそらく最も手っ取り早い方法は、携帯電話をかけることだ。もう1つの一般的な選択肢は、ノートPCを開き、空港のWi-Fiに接続し(通常、何らかの認証手続きを伴う)、VPNクライアントを起動し、適切なアプリケーションで電話番号を調べ、電話をするというものだ。このプロセスにはたっぷり10~15分はかかる。しかも、それはすべてが順調にいった場合だ。プロセスのどこかがうまくいかないと、面倒な手間がかかることになる。しかし、CRMシステムが音声認識に対応していて、ユーザーが電話をかけて「Cosmo Kramer and Vandalay Industriesの電話番号」と言うだけで、自動的にその番号に電話がかかるとしたら、どうだろう。何分も(運が悪ければ何時間も)かかっていたことが、ものの数秒でできてしまう。プロセスに含まれる人的操作の時間がすべて省かれているからだ。
こうしたアクセス方法は、どんな電話のユーザーも利用できるというメリットがある。電話は(当然のことながら)必ず音声をサポートしているからだ。このメリットのおかげでモバイルコンピューティングの敷居が下がり、500ドルのスマートフォンを使わなくても、無料で入手した端末で携帯電話の基本サービスプランでモバイルコンピューティングを活用できる。このシナリオについて多くのベンダーに話したところ、彼らも皆、音声認識は社内情報へのアクセスに使われるだけでなく、さまざまなプロセスをリモートで開始するためにも利用されるようになる、という点で意見が一致しているようだ。例えば、「システムに問題が発生した場合に、システムが管理者に自動的に電話し、管理者がリモートコンソールを利用する代わりに、実行すべき作業をシステムに『口頭で指示』して復旧プロセスを開始する」といったことが可能になる。私がコンタクトしている数社の企業は、人的操作による時間のロスが大きいプロセスを削減するために、音声認識のこうした利用の検討やトライアルを行っている。
要約すると、音声認識はアイデアとして優れているが、現在の実装形態では真価を発揮していない。音声認識を利用したプロセスは多くの場合、煩雑で、適切さを欠き、多大な時間を要する。わたしは、音声認識を活用することで、多くの企業がプロセスを効率化でき、われわれはより多くの場所で、より多くの情報を利用できるようになると思う。しかし、そのためには音声認識技術が大幅に改良され、セキュリティと認証の問題への対策が講じられなければならない。それは数年がかりの作業だろう。
では、あなたが音声認識システムの導入を考えている場合、今の時点で何をすべきか。お勧めしたいのは、手動の作業が多く、必要以上に時間がかかりがちなビジネスプロセスを探すことだ。手直しが必要と考えられるプロセスが見つかったら、技術的な条件が整った段階で、音声認識とモビリティを組み合わせて、その改善に活用できるだろう。
本稿筆者のゼウス・カーラバラ氏は、調査会社Yankee Groupの副社長。
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