教育IT開設記念 iTeachers座談会【前編】
タブレット授業のプロが徹底討論、教育ITの今後はこうなる
2014年、教育ITを取り巻く状況はどう動くのか。教育関係者が注目すべきこととは。教育現場へのIT活用を実践する教育者チーム「iTeachers」の座談会から明らかにする。
活発化する教育現場のIT活用。2014年には、教育現場のIT活用にどういった動きがあるのか。教育機関がIT活用を推進していく上で、注目すべきこととは何か。これらを明らかにすべく、教育現場へのIT活用を実践する教育者チーム「iTeachers」の3者による座談会を開催した。本稿は、その様子をリポートする。
メンバー
参加者(50音順)
岩居弘樹氏 大阪大学 全学教育推進機構 教授
金子 暁氏 広尾学園 中学校・高等学校 教務開発部 統括部長
小池幸司氏 俊英館 マーケティング部 部長
モデレーター
編集部
―― 2013年は、教育機関でのタブレット活用が非常に注目を集めました。2014年、こうした端末関連の動きはどうなるのでしょうか。
小池氏 2014年は、自治体レベルで大きな動きが相次ぎます。2014年4月から県立高校でタブレットを導入する佐賀県に加え、東京都荒川区も区立小中学校へのタブレット導入を控えます。大阪市も2015年の小中学校へのタブレット導入へ向けて動きを本格化させるはず。大都市から地方都市まで、それぞれの取り組みがうまくいくかどうかによって、教育現場でのIT活用の流れが変わっていくのではないかと考えています。
―― これまではIT活用といっても、実証実験段階にとどまる教育機関が少なくありませんでした。2014年はIT活用を実証実験段階から本格導入へとシフトする教育機関も増えると考えられます。こうした教育機関が意識すべきことは何でしょうか。
小池氏 活用の成否を分ける鍵となるのが、私物端末の利用(BYOD)ではないかと考えています。BYODの方向に向かわないと、教育機関や自治体が端末購入や管理の負担に耐えられず、失敗する可能性が高まるのではないかと思います。
岩居氏 私の講義は現在、講義中に大学のiPadを学生に貸与する形で進めています。でも、本当はiPadを自宅へ持って帰って、講義の復習をしたり、他の用途で使うといったことを可能にしてあげたい。
―― そういった目的があれば、BYODの採用が自然な流れとなるのでしょうか。
岩居氏 BYODにも当然ながら課題があります。ただし、学生が1日中肌身離さずにタブレットを使って勉強ができるのであれば、学校支給よりもBYODの方がよいと思います。
端末の選択肢を増やすことがBYOD成功の鍵
岩居氏 BYODに加えて、学習者に端末を選ばせてあげられるような環境が必要なのではないでしょうか。「うちの学校はWindows端末です」「うちはiPadです」などと端末を指定するのは、BYODでは厳しくなるのではないかと考えています。ある機種に統一して全く反対がなければいいですが、他の端末を使いたい人もいる。
小池氏 高校生より上、大学生以上になると、端末の種類を限定するのは厳しいのではないかと思います。
岩居氏 大きな問題となるのは、現状ではOSや端末によって使えるアプリケーションが異なることです。この状況は、ベンダーも真剣に捉えていただきたい。
―― 特にOSや端末への依存度が強いネイティブアプリの場合、iPadで使えるアプリのWindows版がなかったり、その逆もあります。
岩居氏 コンテンツの開発は比較的簡単だと思うし、既存のコンテンツを流用すればある程度カバーできます。でも、アプリはそうはいかない。例えば私の講義の場合、プレゼンテーション作成アプリ「ロイロノート」のAndroid版がないと、想定通りの授業ができません(岩居氏の授業は「さよなら“静かな講義室”――iPadで実現した『会話が生まれる講義』とは?」を参照)。同じように、無料で使える音声認識アプリ「Dragon Dictation」がWindowsやAndroidでも使えないと授業が成り立たない。
―― 端末やアプリももちろん重要ですが、もう1つの重要な要素として無線LANアクセスポイントやイーサネットといったインフラがあります。2014年は、端末、アプリ、インフラの中で、特にどの分野の整備が進むと考えられるでしょうか。
岩居氏 現状で一番優先度が高いのはインフラでしょうか。インフラがないと、端末を入れても十分に活用できないですし。少なくとも、私物端末で使えるインフラは整備しておきたいですね。
金子氏 オーストラリアで聞いた話なのですが、同国の学校にIT予算が潤沢に付与されたとき、学校の対応は二手に分かれたそうです。無線LANなどのインフラを整備した学校と、端末など見た目が良い機器に投資した学校です。結果として、ITの定着率が高かったのは、インフラに投資した学校だったと聞いています。
―― 学校や自治体の中には、インフラは整備されているものの、セキュリティポリシーでタブレットからの無線LAN接続が制限されている、といったところもあるそうです。
岩居氏 考え方を変えることも必要かもしれません。個人情報の保護やセキュリティ確保は、確かに考慮する必要があります。ただ、過剰な考えが取り組みの邪魔となることもある、ということを分かってもらいたいですね。
金子氏 IT活用の推進で有名な佐賀県武雄市は、それほど大きな規模の市ではありません。それでも、タブレットの活用をはじめ、ITを生かして時代を捉えようと、さまざまな取り組みをしている。こうした自治体が増えれば、「あそこの自治体がやっているのだから、うちもうかうかしてはいられないな」といった意識が広がると期待しています。
「校務のIT化」は進むか?
―― 学校のIT活用といえば、授業だけでなく校務のIT化も重要です。とはいえ、授業へのIT活用と比べて、校務のIT化はあまり話題に上らないのが現状です。2014年になっても、この状況は変わらないのでしょうか。
岩居氏 うちは校務へのIT導入は比較的進んでいますが、公立学校をはじめ、まだ進んでいないところも多いようです。校務のIT化はどんどんしていくべきだと思うんですけどね。それによって、業務量がかなり減ると思います。ただし、使いにくいシステムを作っても効果はありません。
小池氏 校務をITで効率化して、浮いた時間を授業に回していくべきだと考えています。教員が校務に注力し過ぎてもしょうがないですから(笑)。教員にとっての本業であり、本来注力すべきことは授業のはずです。
ITによる校務効率化が進まない原因
―― そうした認識が広がっているのであれば、ITによる校務の効率化がもっと進んでいてもよさそうです。それでもなかなか進まないのは、何が原因なのでしょうか。
岩居氏 うちもそうですが、印鑑ベースの承認フローが根強く残っているのも原因の1つかもしれません。たとえITを導入していても、さまざまな決裁で物理的な印鑑がないとワークフローが回らないという教育機関は少なくありません。
金子氏 学校や経営者の考えによっては、あえて電子決裁ではなく紙ベースのワークフローを選択するところもあります。当校でも、グループウェアにある電子決裁の仕組みを使っていたのですが、経営者が変わって稟議書が必要になった業務もあります。
小池氏 紙ベースがよいか、システム化した方がよいかは、業務の種類にもよります。当校は、入出金関連の承認申請は電子決裁ですが、勤怠管理はあえて紙にしている。タイムカードすら使っていません。タイムカードだと打刻をし忘れた場合の再申請に手間が掛かったりしますが、紙だと柔軟に書けるのが利点です。
―― 場合によっては、紙の方がシステムよりも効率的になる。“かゆいところに手が届く”ような柔軟性が、校務システムにはまだ足りない、ということなのかもしれません。
XPサポート切れが校務システム入れ替えの契機に
小池氏 当校もそうなのですが、自治体によっては、2014年4月のWindows XPサポート終了に伴うOS切り替えと共に、校務システムを見直す動きもあるようです。OSはWindows 8にするか、Windows 7にするか、といった選択肢になると思います。
―― OSの入れ替えを機に、校務用の端末までiPadなどのタブレットにするという動きはあるのでしょうか?
小池氏 校務をタブレットでやろうとは思わないです(笑)。やろうと思えばできなくはないですが……。
岩居氏 そもそも授業と校務では、端末の役割が違います。
小池氏 授業では、作成したデータをオンラインサービスなどの外部へ出したいので、なるべく端末内にデータを入れずにシンプルにしたい。一方、校務ではなるべくデータを一元管理したいから、全部のデータを端末へ入れておきたい、という意識が働きます。
パソコン室の端末が全てWindows XP端末なのであれば、クライアントPCを廃止して、iPadなどのタブレットへ置き換えるという選択肢はあるでしょうね。パソコン室の端末がクライアントPCである必要性はないので。問題なく学べるのであれば、タブレットでも十分に活躍の場があるのではないか、と考えています。
2014年に、教育ITで注目すべきポイントは?
―― 以上、教育ITに関する2014年の動向についてざっと議論いただきました。今までの議論の他に、2014年に教育機関が注目すべき、もしくは意識すべきことはありますか?
小池氏 今注目しているのは「デジタルペン」です。2013年に、iPadと連動するデジタルペン「Livescribe 3 smartpen」が登場しました。授業の中でも取り入れたいと思っています(参考:iPad授業のプロが選ぶ、学校で使える“神ツール”8選)。
小学生や中学生が、問題の解答をiPadの画面の上に書くのは、ちょっと違うなと思っています。学校ではペーパーテストが主流なので、塾でもペーパーテストの練習をさせなければいけない。その上で、学び方を少し変えていこうと考えたときに、ペンで書いたものがデジタル化される手段があることはすごく意味があるのです。
塾の講義の中で、紙に書かれた生徒の回答を皆で共有しようと思ったら、現状では回答をカメラにとってプロジェクターに投影するしかありません。それが瞬時にデータとして共有できるようになるだけでも随分違う。生徒の答えが、「パーソナルなもの」から「見えるもの」になるというのがいいのです。
金子氏 2013年までは、話題になるのはIT機器の導入に関することであり、「どのタブレットを入れるのか」「何台入れるのか」といったことが話題になりました。でも2014年からは、もうそろそろ導入だけでなく、本当の意味でITを活用できるのかどうか、といったことに視点が移らないとおかしいだろうと考えています。
定着するのは、岩居先生の講義のように自然で無理がないITの活用です。無理がない方が定着しやすいし、結果として成果も上がるのだと思います。
目的がきちっとしていることも重要です。目的なしにITを導入してしまったりすれば、恐らくパソコン室や言語学習用のLL教室と同じような運命をたどって、やがて使われずに消えてしまうのではないでしょうか。その分かれ道が、2014年には見えてくるはずです。ただ単にITを導入しているだけのところは、その姿勢が問われることになるでしょう。
岩居氏 インプットばかりでなく、アウトプットに注目が集まればいいなと考えています。「MOOC(※1)」にしても「反転授業(※2)」にしても、基本的にインプットの方向ばかり考えているんですよ。一生懸命これまで考えてきたのは、何を学習者に与えるか、つまりどういったコンテンツを届けるか、といったことが中心となっていました。
※1 大規模公開オンライン講座。講義の公開に加えて履修証明も発行する教育サービス。
※2 動画教材などを利用して生徒が家庭で予習し、授業では予習内容を踏まえた応用問題を解いたりディスカッションをしたりする授業形態。
2014年は、学習者が学んだことを引き出して提示するツールとして、ITの活用が進んでいったらいいなと思います。いくら知識を詰め込んでも、それがアウトプットされない限りは定着しない。間違えようが何をしようが、とにかくアウトプットをすることで、何かが見えてくるはずです。
アウトプットというのは、具体例を挙げるとすれば動画の作成です。学習者にアウトプットをさせることで意識は変わっていくし、知識も定着していく。IT導入による効果を計る指標は数字だけではありません。計れるものしか点数が付けられないわけだから、計れないものは動画などの手段で評価すればいいのです。
次回は、反転授業やMOOC、デジタル教科書といった教育IT分野のトレンドについて、その光と影を明らかにする。
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