教育機関タブレット活用座談会【前編】
教育機関3者が明かす、タブレットの授業利用で直面した課題とは?
タブレットを授業で利用する際、どういった課題があるのだろうか。タブレットの授業利用に先駆的に取り組む教育機関3者の話から明らかにする。
iPadなどのタブレットを授業に生かす教育機関が増えつつある。とはいえ、活用の歴史は浅く、どう活用すべきか、必要な製品をどう選定すべきかなどについて、確立したアプローチや基準があるわけではない。
タブレットの授業利用で見えてきた課題とは何か。授業に役立つタブレットの条件とは。こうした疑問を解き明かすべく、タブレットなどのIT活用を実践する先駆的な教育機関の担当者3者を招き、座談会を開催した。その様子を紹介する。前編では、特にタブレット授業利用の課題を探っていく。
座談会に参加したのは、広尾学園 中学校・高等学校(広尾学園) 教務開発部統括部長の金子 暁氏、学習塾運営の俊英館 マーケティング部 部長の小池幸司氏、千葉県立袖ケ浦高等学校(袖ケ浦高校)の永野 直氏の3人だ。各教育機関の取り組みは、以下に紹介する関連記事にもまとめているので、参考にしていただきたい。
メンバー
参加者(50音順)
金子 暁氏 広尾学園 中学校・高等学校(広尾学園) 教務開発部 統括部長
小池幸司氏 俊英館 マーケティング部 部長
永野 直氏 千葉県立袖ケ浦高等学校 情報コミュニケーション科主任
モデレーター
編集部
―― タブレットを活用する教育機関が増えつつありますが、教育機関によって、導入や活用の方法には違いがあるようです。まずは、皆さんのタブレット導入と活用の現状をお聞かせいただけますか。
小池氏(以下、敬称略) 生徒用ではなく、指導者用デジタル端末としてタブレットを導入し、主に講師が利用しています。2011年から初代iPad、iPad 2、iPad miniと購入し続け、保有台数は合計で108台となりました。教室ごとに平均1、2台のiPadを配備し、特定のコースで利用しています。
講師がiPadをプロジェクターへ接続し、その内容を表示して生徒に見せるというのが、基本的な利用スタイルです。教材や写真などのコンテンツをホワイトボードに投影して授業をしており、電子黒板的な使い方といえるかもしれません。
金子氏(以下、敬称略) 当校も同じく2011年からiPadの利用を始めており、生徒全員がiPadを活用しています。当初は学校負担で購入していましたが、その後私物に切り替えました経緯があります。2011年度、高校課程に「医進・サイエンスコース」を新設したときにiPad150台を購入し、そのうち38台を医進・サイエンスコースの生徒に貸与しました。
iPadを導入する前にも、インターナショナルクラスでは、ネイティブの教員の提案で、生徒に1人1台ずつ、私物のMacbookを用意してもらっていました。2011年に始まった医進・サイエンスコースでも私物端末の利用を検討し、学校で購入したiPadを貸与して使わせてみたら「結構使えるな」という感触を得て。現在は、活用の幅を広げるため、中学1年生全員に、入学時にiPadを購入してもらっています。
永野氏(以下、敬称略) 当校も同じく2011年からiPadの利用を始めています。同年に開設した「情報コミュニケーション科」の生徒全員が、個人負担で購入したiPadを授業で使っています。情報コミュニケーション科の1クラスの生徒は約40人で、2013年で、ちょうど3学年そろい、合計121台のiPadを利用していることになります。教職員にもiPadを持っている人がいますが、それも自費購入です。
―― 私立学校である広尾学園はともかく、公立学校の袖ケ浦高校の場合、入学試験があるとはいえ、私物端末の購入義務化は難しかったのではないでしょうか?
永野 その点が、まさにスタート前のネックでしたね。入試に受かって入学した生徒が、「iPadは欲しくない、買わない」と言ったら即退学、というわけにはいかないので(笑)。情報コミュニケーション科自体、今までにない学科でしたし、端末の購入義務化も今までになかったことなので、中学校に、どれだけきちんと理解してもらった上で受験してもらうかがすごく難しかったです。
対策としては、袖ケ浦氏や市原市など、今まで学校に通っている中学区を全て管理職と一緒に回って、説明を繰り返すなどしました(詳細な経緯は「公立高校が『生徒入学時のiPad購入』を義務化できた理由」を参照)。最初の年は大変でしたが、3年目にもなると、近隣の中学校では「あそこに入ったらiPad買わないといけないらしいよ」という話が広まっているようで。現在は、特別に説明しなくても知っている人が多くなっている印象です。
―― 広尾学園の場合、医進・サイエンスコースの3年生が使うiPadは、学校支給でしたね。2013年は卒業の年になるわけですが、彼ら彼女らが使うiPadはどうされるのですか?
金子 彼ら彼女らはものすごい貢献をしてくれたので、卒業時にプレゼントをしようと考えています。初代iPadなので、今戻されても困るな、という思いもなくはないのですが(笑)。彼ら彼女らがタブレット活用の取り組みを引っ張ってくれたので、今があると考えています。
活用して分かった、タブレット授業利用の課題
―― 実際にタブレット活用を進めていくと、活用しなければ分からないさまざまな課題が顕在化してくることかと思います。タブレットの授業利用を進めていく中で、どういった課題に直面しましたか?
小池 まず、タブレットの重さですね。当社は講師が授業で常にタブレットを持ち歩くので、重いとやはり大変です。プロジェクターへ接続して使うのが主な用途であれば、iPad miniなど、画面は小さくても比較的軽量なタブレットでよいかな、と考えています。
プロジェクターへの接続方法も大きな課題です。タブレットとプロジェクターを有線ケーブルで接続すると、抜けやすいし邪魔だし、何より講師が動きにくい。こうした状況を踏まえ、無線でプロジェクターとタブレットを接続することで、講師は自由に動けるようになり、かなり楽になりました。
私物タブレットの故障にどう対処するか
永野 原始的な話ですが、端末を落としたりして壊してしまうことも問題です。「画面が割れたら使わない」というわけにはいかないので、修理してもらわないといけないのが気の毒だと思っています。
iPadは頑丈なタブレットだとは思いますが、角から落としたりすると、やはり壊れてしまいます。画面にひびが入ったまま使っていると、やっぱり危ない。見た目の話だけではなくて、安全性も考慮し、壊れたら修理をしてもらわないといけない。
当校の場合、修理期間中には、用意している予備機を貸し出します。万一のために、学校の予算で7台ぐらいの予備機を用意しています。これまで初代iPad、iPad 2と買い足してきました。
―― 故障を防ぐために、何か有効な対策はあるのでしょうか?
永野 Apple製品のサポートサービスである「AppleCare」を契約させるとしても、それなりの額が必要になるので、全員に加入を義務化するのは難しいと考えています。
現実的な対策として進めているのが、iPadにカバーを付けてもらうことです。これだけで、破損をかなり防ぐことができます。Apple純正品の「Smart Cover」ではなく、端末全体を覆うようなサードパーティー製のカバーを付けている生徒が多いです。
2013年からは、生徒全員にカバーを購入してもらうことにし、入学式で「ぜひ端末全体を覆うカバーを購入してください」と伝えています。その結果、2013年はiPadが壊れたという報告は1件もありません。カバーは、特にメーカーや製品を指定しているわけではなく、生徒は家電量販店などで思い思いのカバーを購入しています。
安全性と自由度のバランスをどう取るか
―― 私物端末の場合、どこまで端末を管理すべきかも課題となりそうです。
金子 管理面の課題は、やはりあります。一部のクラスだけにタブレットを利用させるのであれば、ある程度コントロールできますが、全クラスに利用させるとなると、途端に難しくなる。もし、タブレットを悪用してトラブルが発生したときには、皆が大きな影響を受けることになるからです。
私物端末でありながら、学校がいったん預かって機能制限を掛けた上で生徒に戻しているのは、こうした懸念が基になっています(詳細は「私物iPadで学力を伸ばした中高一貫校、『タブレットは新たな文具』」を参照)。私物端末をここまで厳密に管理することは、生徒は口に出しては言わないですが、一般社会から見たら「何それ?」と言われそうなことです。でも、一度トラブルが起きたら学校だけの問題ではなくなるという意識があり、まずは厳しく進めました。
実際には、どんなに機能を制限しても、知識がある生徒はやろうとすればできてしまう。厳しい規制を掛ける運用をずっと続けることは無理だろうと考えています。現状は厳密な制限を掛けても仕方がないが、時期を見て、徐々に自由度を高める方向性に改めることを検討しています。
新しいことを頻繁にするにはMDMが必要に
小池 当校の場合、モバイルデバイス管理(MDM)製品などを利用した端末管理をそもそもしていないんです。教室が50箇所以上あり、各教室が離れているので、一度端末を設定したら、そのまま。何か手を入れようと思うと、MDM製品がないので気軽にはできません。
現状、当社のタブレットの使い方は極めてシンプルで、特にMDM製品が必要になるような使い方をしていないのでよいのですが、今後何か新しいことをしようとしたときには、課題になるはずです。
iPadの場合、端末自体を使うのは簡単なのですが、設定などの管理をしようとすると、とたんに難しくなる。例えば、iTunesの利用には少し知識が必要になるので、基本的には使わせないようにしています。OSのアップデート自体は禁止しているわけではないので、アップデートしようとすればできますが、強制ではありません。
―― 端末以外の課題もあるのでしょうか。
永野 千葉県のセキュリティポリシー上、ネットワークに私物端末を接続できないという課題がありました。また私物端末でなくても、「ウイルス対策ソフトが入っていること」などが接続条件となると、そもそもウイルス対策ソフトが存在しないiPadの場合は接続できない(笑)。
そもそも公立学校だと、無線LAN接続自体が禁止されているところが多いです。千葉県だけでなく、他の都道府県の話を聞いても、無線LANを使えないという公立学校が多数派です。当校の場合は、情報コミュニケーション科を新設する際に、自治体の許可を得て無線LANを導入した経緯があります。この取り組みの影響か、千葉県は2013年から無線LANを広く利用していく方針に変え始めています。
―― ということは、現在タブレットを導入している公立学校は、基本的には無線LANが使えないところが多い、ということでしょうか?
永野 そうですね。もしくは、実証実験として特別に許可をもらうとか、家庭用の無線LANアクセスポイントを一時的に教室に置いて実践するといった具合でしょうか。常設の無線LANアクセスポイントを県費や校費で整備しているところは、現状ではほとんどないと思います。
―― タブレット導入が実証実験段階にとどまる学校がまだ多いのは、こうしたインフラ面の制約もあるのかもしれないですね。とはいえ、いつまでも実証実験を続けるわけにはいかないですよね。
小池 実証研究は早めに終わらせないと(笑)。
次回以降は、授業利用のタブレットに求められる条件、セキュリティ対策の考え方などに関する議論を紹介する。
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