佐賀県が取り組む教育IT化の実態【前編】
佐賀県立高校の「Windowsタブレット5万円自腹購入」はどう決まったのか
佐賀県は、なぜ県立高等学校の生徒用端末としてWindowsタブレットを選定したのか。端末を配布せず、生徒の自己負担とした理由は。佐賀県教育庁の福田孝義氏の話をまとめた。
佐賀県立の高等学校が、2014年度から生徒の自己負担額5万円でWindowsタブレットを導入する――。2013年9月3日に佐賀県教育委員会が決定したこの事実は、インターネットを中心に議論を巻き起こした。佐賀県は、どういった意図でWindowsタブレットを選定し、生徒の私物端末利用(BYOD)を採用したのか。2013年10月に東京ビッグサイトで開催された「ITpro EXPO 2013」で、佐賀県教育庁 教育情報化推進室 室長の福田孝義氏が登壇。端末選定の背景やBYOD採用の経緯について説明した。その内容をまとめた。
佐賀県は2011年度に、県立の中学校と特別支援学校への学習支援端末の配備を開始し、2012年度にはそれぞれ全校に広げた。同年度には県立高校への端末導入を進めるべく、県立高校5校で実証研究を進め、2013年度には全公立高校への導入を済ませる計画だった。だが「機種選定が難航し、期間内に終了せず」、導入時期を延長。最終的に、2014年度から全県立高校での端末導入をスタートさせることにした。
特別支援学校については、小学部、中学部ともに端末導入を済ませている。高等部については、2013年度から順次導入しているという。
端末選定のポイント:3つの視点で評価
「教育に失敗は許されない」という考えの下で、教材として利用する端末の選定に力を注いだという佐賀県。同県は、県立学校の全ての教室に無線LAN環境を配備済みだ。こうした環境の中で、「どういった端末を持たせれば、生徒の教育にとって最も望ましいかという視点で端末を選定した」という。
佐賀県が県立高校の端末選定で評価軸としたのは、以下の3項目だ。
- 操作性:生徒にとっても、教員にとっても使いやすいかどうか
- 価格:端末の導入価格に加え、佐賀県教育委員会がサポートするのに掛かる費用はどの程度か
- 教材確保性:教材が十分にそろっているかどうか(教材がなければ教育分野では使えないと判断)
評価の結果、まず選択肢として残ったのが、iPadとWindows端末。2011年、2012年の段階で、教材が確保できたのがiPadとWindows端末のみだったからだ。Android端末は「教材が十分に確保できなかったので、対象外とした」。
iPadとWindows端末の2種類から最終的に端末を選定するため、それぞれ520台ずつ生徒たちに持たせて実証研究をした。その結果、操作性、価格、教材確保性の3項目を総合的に判断し、Windows端末を選定したという。
“社会とのつながり”がWindows選定を後押し
この3項目の他にも、Windows端末を選定した背景には、企業の標準端末としてWindows端末が多く利用されていることが少なからず影響している。
佐賀県立の特別支援学校では、児童や生徒の障害の度合いに応じて、Windows端末、iPad、Android端末の3種類を使い分けている。比較的障害の程度が軽い生徒には、「社会で働くことを考慮して、Windows端末を利用させている」という。県立高校でWindows端末を選定したのも同じ考えが根底にある。「私たちは、生徒を社会に送り出すまで責任を持たないといけないという思いがある」
Windows端末を選定したが、具体的な端末の種類は検討中だ。佐賀県は、実証研究中の県立高校2校で、キーボードがないタブレット型の端末(Bluetoothキーボードを利用)と、着脱式のキーボード付き端末の2種類を導入し、どちらがより望ましいかを検証中だという。いずれにしても、「タブレットとしても、ノートPCとしても利用できる端末にする」考えだ。
BYOD選定の理由:「生徒負担5万円」は未来永劫続くシステムの解
上述の通り佐賀県は、県立高校生には個人負担でタブレットを購入してもらうことにした。その背景にあるのは、「未来永劫続くシステムを作りたい」という思いだ。
県立高校の生徒は現状、制服や教科書、かばん、筆箱、鉛筆などの学校生活で必要なものは、基本的に全て個人で購入している。佐賀県は「端末を配布することも検討した」というが、仮に県立高校の全生徒に配布した場合、「例えば1年だったら可能だと思うが、未来永劫続けていこうとすると、佐賀県の教育予算がパンクする」。国内でも教育現場へのIT活用の先進県とされる佐賀県で端末を配布するとなると、他の自治体も追従せざるを得なくなる可能性も否定できない。
タブレットだけを配布することの是非もある。「タブレットを配布するとなると、『じゃあなぜ制服は配らないのか』『なぜ教科書を購入する必要があるのか』といった議論になりかねない」。そこで佐賀県は、生徒の自己負担によるタブレット導入を決断。「過重負担になる場合は、佐賀県教育委員会で補助する」という考えの下で生徒負担額を検討。「世間一般で考えたときに、大体の価格感として適当だと思われる想定金額が5万円だった」
補助が入るとはいえ、5万円という金額は決して安価ではなく、生徒や保護者に負担を強いることになるのは確かだ。そのため佐賀県は、奨学金制度を拡充したり、貸付金を提供するといった対処をする考えだ。「例えば県立高校の生徒は、修学旅行の旅費11万円を確保するために、1カ月に平均5000円程度を積み立てている。タブレットの場合、月額1500円~2000円程度の負担で購入できる形にする」
セキュリティ対策:端末を使わせることが生徒のセキュリティ意識を高める
インターネットへのアクセス機能を持つタブレットを生徒に持たせることで、「『いわゆる“学校裏サイト”や、いかがわしいWebサイトへアクセスしてしまうのではないか』という懸念も出てきた」。福田氏は、佐賀県警察のサイバー犯罪対策担当者とも話をしたという。その際に担当者から言われたのは、「学校では『スマートデバイスを持たせない』と言っていても、実際には生徒は持っているのが実態ではないか」という言葉だった。
その担当者から、「学校でスマートデバイスについて教えてほしい。その中で生徒にモラルを身に付けさせたり、危険性を十分に認識させたらよいのでは」というアドバイスをもらったという福田氏。こうしたアドバイスなどを基に、佐賀県では現在、「『今の時代に必要なことを教えよう』という方針の下、あえて生徒1人ひとりに端末を持たせることに踏み切った」という。「もちろんセキュリティ確保のための対策は十分に取るが、高校生であれば、実際に使う中で対処法を身に付けてほしいと考えている」
MDMで端末制御、程度は協議を経て学校ごとに決定
端末の取り扱いについては、「生徒の自己所有となるので、さまざまなトラブルが想定される」と福田氏は認める。学校からも「端末に制限を掛けてほしい」という声が挙がっているという。「制限を掛けるソフトは導入しようと考えている」と福田氏は説明。具体的には、モバイルデバイス管理(MDM)製品を導入する方向で選定作業を進めているという。
MDM製品を利用すれば、端末の機能をガチガチに制限することもできる。ただし佐賀県は、全ての学校で制御レベルをそろえるのではなく、学校によって制御レベルを変えられるようにする考えだ。「教育委員会、学校、保護者/PTAの3者で現在協議を進めており、3者で制御レベルを決めていく」
タブレット導入の背景:“生徒目線”で授業を変える
佐賀県は、タブレットに加えて電子黒板の導入も進めている。電子黒板を使えば授業は確かに変わるが、これは「教員目線での変化でしかない」と福田氏は強調する。授業を変えるのであれば、生徒目線で教育を考えることも必要になる。「生徒目線で授業を変えようとした場合、どうしても電子黒板だけでなく、生徒1人ひとりに学習支援端末が必要になる」
生徒1人ひとりが端末を持つことで、「自分のペースで調べ物や学習をしたり、例えば自分の理解度に合ったスピードで英文を聞いたりできる」。英語が得意な生徒はネイティブに近いスピード、不得手な生徒はゆっくりとしたスピードで英文を聞く、といった具合だ。
佐賀県は、電子黒板を単独で利用するのではなく、タブレットと電子黒板を組み合わせた授業を展開する考えだ。具体的には、生徒全員分のタブレットの画面を電子黒板に表示したり、面白い答案を表示して議論したりする、といった使い方を想定している。「電子黒板とタブレットの併用で、授業の質は上がると考えている」
後編では、佐賀県が整備を進める教育クラウドや、教員研修についての福田氏の話を紹介する。
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