「Office 365の無料ライセンス終了」に教育現場が困惑 乗り切る策は?授業に支障が出る恐れも

Microsoftが教育機関向けの「Office 365 A1 Plus」の無償提供を終了し、教育機関に影響が及んだ。教育機関はどのような決断を迫られたのか。

2024年08月16日 08時00分 公開
[Cliff SaranTechTarget]

 Microsoftは2024年8月1日(現地時間)、サブスクリプション型オフィススイート「Office 365」の教育機関向けライセンス「Office 365 A1 Plus」の無償提供を終了した。この変更によって、教育現場で混乱が生じた。教育機関はどのような決断を迫られたのか。

「無料ライセンス終了」で教育現場が困惑 乗り切る策は?

 スコットランドの教育省は、同地域の教職員および学習者向けに、オフィスツールやコラボレーションツールを提供するWebサービス「Glow」を運営している。2024年8月1日以降、教職員や学習者はGlowのアカウントを使用してオフィススイート「Microsoft Office」のデスクトップアプリケーションをダウンロードできなくなった。

 Glowによると、Glowアカウントを通じて提供される「Microsoft 365」資格情報を使用して、Microsoft Officeのデスクトップアプリケーションをアクティベート(有効化)することも不可能になる。具体的には、文書作成ツール「Microsoft Word」、表計算ツール「Microsoft Excel」、プレゼンテーションツール「Microsoft PowerPoint」などが対象となる。

 提供終了の背景にあるのが、Office 365 A1 Plusの無償提供の終了だ。Microsoftが同ライセンスの提供を始めた2015年当初の目的は、IT担当者のプロビジョニング(サービスを利用可能な状態にすること)の負担を軽減することによって、教育機関にクラウドサービスの利用を促すことだった。一方で「教育機関からすると契約が複雑になり、意図しないライセンス違反が問題になる場合があった」と同社は指摘する。

 Microsoftは教育機関向けに、Microsoft 365の有償プラン「Microsoft 365 A3」「Microsoft 365 A5」を提供している。「これらのライセンスは教育機関の要件を満たすため、過渡的なプログラムは不要になった」というのが同社の見立てだ。

 Office 365 A1 Plusは2024年8月1日に期限切れになる。そのため、有償プランを導入せずに無料でMicrosoft 365を使おうとする教育機関は、無料のオンライン版しか選択肢がなくなる。

 スコットランドの日刊紙「The Herald」はこの騒動を報じた。その記事に対する短文投稿サイト「X」(旧「Twitter」)の反応を見ると、一部の教職員は記事を通じて初めてこの変更を把握し、幾つかの科目で支障が出ることを懸念している。あるXユーザーは「同僚の中には、オンライン版のMicrosoft 365が扱いづらいことに不満を抱くものもいる。より多機能なプランを使用しないと学習課題をこなせない科目もある」と投稿した。影響を受ける科目は、コンピュータサイエンスや数学などだ。

 Microsoftのライセンス体系変更は、スコットランドだけではなく英国全土の教育機関に影響を及ぼす恐れがある。

 英国の一部地域は、既にMicrosoftと有償契約を結んでいるため、この問題による影響を軽減できる可能性がある。ウェールズ政府が2019年にMicrosoftと結んだ4年間120万ポンドの契約は、「Microsoft Office 365 ProPlus」のデスクトップアプリケーション、ウェールズ語のインタフェースと校正ツール、追加のセキュリティ機能を利用できる権限を含む。

 英国の教育、研究分野のデジタル化を支援する非営利組織Jiscは2024年2月、継続教育機関(義務教育を終えた人を対象にする教育機関)と高等教育機関向けのライセンス契約「Enrollment for Education Solutions」(EES)をMicrosoftと締結した。

 こうしたオンライン版のMicrosoft 365を利用できない教育機関は、新年度が始まる2024年9月までに有償のMicrosoft 365 A3やMicrosoft 365 A5を購入する必要がある。

 教育分野のインターネットコミュニティー「EduGeek」には、「250人分のMicrosoft 365 A3ライセンスを年間2500ポンド以上で購入する必要があった。仕方ないことだ」という投稿があった。

 ただし初期費用を抑えられる「Open Value Subscription」(OVS)の3年契約、もしくはESSに基づくボリュームライセンス(大規模契約向けライセンス)契約をMicrosoftと締結している教育機関は、Microsoft Officeの完全版を無料で利用できる可能性がある。

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