「VMwareライセンス」は何が変わった? 教育現場を悩ませる“コスト増”の原因教育機関に広がる「VMware買収」の影響【後編】

BroadcomのVMware買収の影響が教育機関に及んでいる。ベルギーのルーベンカトリック大学も影響を受けた機関の一つだ。どのような変更があり、教育現場をどう苦しませているのか。

2024年05月30日 05時00分 公開
[Cliff SaranTechTarget]

 半導体ベンダーBroadcomが仮想化技術ベンダーVMwareを買収し、VMware製品のライセンス体系を変更したことで、一部の教育機関に影響が広がっている。ベルギーのルーベンカトリック大学(Katholieke Universiteit Leuven)も影響を受けた機関の一つだ。同大学のIT部門のメンバーであるヘルマン・ムーンズ氏によると、同大学はVMware製品のヘビーユーザーであり、年間20万ユーロを支払っている。

 BroadcomはVMware製品のライセンスの体系をどのように変え、教育機関にどのような影響を及ぼしているのか。

「VMwareライセンス」の変更内容とは?

 BroadcomはVMware製品のライセンス料金を、CPUの個数によって決定する「ソケット単位」から、CPU内のコア数に基づいて決定する「コア単位」に変更した。「この変更により、これまで大規模なマルチコアサーバを導入していた組織はコストが増大する可能性がある」と、ムーンズ氏は述べる。

 学校や病院向けのシステムを開発するKidwellのデレク・ロスキー氏(シニアエンジニア)は、「VMwareの新しいライセンス体系では、1つのCPU当たり16コアを最小単位にしている」と指摘する。ロスキー氏は「8コアのCPUを2つ搭載したサーバを使用している場合、32コア分(最小単位の16コア×CPU2つ分)のライセンスを購入しなければならない」と注意を促す。

 ロスキー氏によると、VMwareはサーバ仮想化ソフトウェア群「VMware vSphere」のうち、中規模システム向けの「VMware vSphere Standard」と、大規模システム向けの「VMware vSphere Foundation」はコア単位で販売している。一方、小規模システム向けの「VMware vSphere Essentials Plus」については、取り扱っているのは96コア分のライセンスのみだ。同氏は「16コアのCPUが1つしかない小規模システムでVMware vSphere Essentials Plusを使用する場合でも、96コア分のライセンスを購入する必要がある」と述べる。

 ムーンズ氏は「eラーニング用システムや教職員の管理システムの構築にはVMware製品を使用しており、SAPのERP(統合業務)システムもVMware製品で構築した仮想マシン内で稼働している」と話す。ルーベンカトリック大学のWebサイトの運営にもVMware製品を活用している他、VMware製品で構築した仮想デスクトップインフラ(VDI)を運用している。

 さまざまな組織がVMware製品の実質的な値上げに直面している中、ルーベンカトリック大学は幸いにも2023年末にVMware製品のライセンスを更新できた。「導入する製品のうち大部分の見積もりを取り、2023年末には発注できた。これにより、3年分の教育機関向けの割引プログラムが適用されることになった」とムーンズ氏は振り返る。

 「われわれはVMwareのVDI製品に関する一部の契約を更新できなかった」とムーンズ氏は言う。2024年2月に、BroadcomはVMwareのエンドユーザーコンピューティング(EUC)事業を、投資会社KKRに売却すると発表した。このEUC事業は「VMware Horizon」をはじめとするVDI製品を取り扱うものだ。売却に先立ち、BroadcomはEUC事業の将来について明確な方針を示していなかった。そのためVDI製品に関するライセンスの更新条件が分かりづらくなり、特にVMwareのVDI製品のライセンスと、サーバ仮想化製品のライセンスをまとめて契約していた組織にとっては、ライセンス交渉が複雑になった。

VMware製品のパッケージ化に募る不安と不満

 Broadcomは、提供するVMware製品のラインアップに変更を加え、「VMware vSphere Enterprise Plus」の販売を停止し、他の製品とともにパッケージに組み込んだ。仮想化ソフトウェアを使用する上では、単体で購入するよりもパッケージを導入する方が料金が高くなる。「パッケージに含まれる製品を全て使用するならば問題はないが、仮想化ソフトウェアのみを必要とする場合、割高になる」とムーンズ氏は指摘する。

 こうした製品ラインアップ変更の主な問題は実施方法にあると、ムーンズ氏は考える。同氏は「問題はライセンスモデルの変更自体ではなく、他の製品への移行のために十分な時間を与えていないことだ」と苦言を呈する。特に大学が利用しているSAPのERPシステムなど、VMware製品で構築した仮想環境でのみ動作が保証されている製品は、代替のハイパーバイザーに切り替えることはできなかった。

 今後の選択肢としては、VMware vSphere Standardへのダウングレードが挙げられる。VMware vSphere Standardは組織で運用するために必要な一部の機能が不足しているものの、ルーベンカトリック大学のようにすでにVMware製品のユーザーであれば、操作を学び直す必要がない。代替のハイパーバイザーを導入する場合は、導入、運用方法を学び直す必要が生じる。

 ムーンズ氏はMicrosoftの「Hyper-V」や、OS「Linux」をベースにした「KVM」(Kernel-based Virtual Machine)など、代替のハイパーバイザーも検討している。

 欧州のクラウド業界団体CISPE(Cloud Infrastructure Services Providers in Europe)は、2024年3月にBroadcomに対して行動を起こした。欧州各地の規制当局に対し、仮想化ソフトウェアのライセンス条件を一方的に取り消したBroadcomの行動を精査するように要請したのだ。

 CISPEの報告によると、VMwareの新しいライセンス規定に従えば、最低でも3年間で数千万ユーロを支払うことになる。ライセンス費用が最大12倍になる可能性もあるとCISPEは指摘する。

 BroadcomのCEOであるホック・タン氏は2024年3月、VMware買収後の計画を説明し、ハイブリッドクラウド構築用の製品群「VMware Cloud Foundation」を訴求した。それによると、Broadcomはソフトウェアのポートフォリオや市場参入のアプローチ、組織構造全体を見直し、ソフトウェアの販売方法と販売先を変更した。「永久ライセンスの販売から、サブスクリプションサービスへのビジネスモデルの移行を完了した」とタン氏は述べる。

 一方、クラウドサービスプロバイダーCivoのCEOであるマーク・ブースト氏は、VMwareのライセンス体系の変更について批判的だ。「人々はBroadcomによるVMwareの方針変更に不満を抱いている」とブースト氏は指摘する。不満の対象は、ライセンス料金が以前よりも高価になり、サブスクリプション契約が必要で、製品がパッケージ化されるという動きだ。「この動きはハイパースケーラー(大規模データセンターを運営する事業者)を強化する傍ら、クラウドサービスの市場競争に悪影響を与え、クラウド業界全体のイノベーションを阻害する懸念がある」(同氏)

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