NVIDIAが2025年3月に開催した年次イベントでは、同社CEOジェンスン・フアン氏や、量子コンピューティング企業の幹部が量子コンピュータの未来を語った。量子コンピューティングの今後に関する現実的な見方とは。
GPU(グラフィックス処理装置)ベンダーNVIDIAが2025年3月に開催した年次イベント「GPU Technology Conference 2025」(GTC 2025)では、量子コンピューティングの未来に関する議論もあった。パネルディスカッション「Quantum Computing:Where We Are and Where We’re Headed」にNVIDIAのCEO(最高経営責任者)ジェンスン・フアン氏と、量子コンピューティング技術や量子コンピュータを開発する企業の幹部が登壇した。
フアン氏や登壇した量子コンピューティング企業の幹部は、量子コンピューティングが今後どう発展するとみているのか。パネルディスカッションで語られた見解をまとめた。
登壇したパネリストたちは、量子コンピュータから最初に恩恵を受ける分野として、化学、生化学、材料科学といった科学分野を挙げた。
QuEra Computingの共同創設者であるミハイル・ルーキン氏は、「近い将来に開発される量子コンピュータが、科学技術を飛躍的に進歩させ、全く未知の分野が開拓される可能性もある」と語った。
Quantinuumのプレジデント兼CEOを務めるラジーブ・ハズラ氏は、冷媒の開発や水素の製造、ペプチド(アミノ酸が結合した化合物)の合成などに量子コンピュータを活用している企業が存在するとした上で、「量子コンピュータなら、他の方法では入手できないようなデータを使用してAI(人工知能)のトレーニングをすることも可能だ」と語った。例えば、薬剤がどのように人体に作用するのか、その分子構造を解析したデータが考えられるという。
D-Wave QuantumのCEO、アラン・バラッツ氏は、「従来のコンピュータでは解決できなかった難しい問題を解決できる可能性があり、将来的には創薬、地球規模の気象予測、物性研究などに役立つだろう」と語った。
量子コンピュータの実用化には一つの課題がある。パネリストたちの意見は、100万量子ビット(量子ビットは量子コンピュータが扱う情報の最小単位)を搭載できる量子プロセッサが必要という点で一致した。現在の量子プロセッサにはまだ数百個程度の量子ビットしか搭載できない。パネリストたちは、量子コンピューティングの現在の進歩のスピードを考えると、100万量子ビットへの到達を2030年と予想する。
Quantum Circuitsのチーフサイエンティスト兼共同創設者のロバート・シェルコプフ氏は「量子コンピュータの現在の開発状況を従来のコンピュータで例えると、まだ真空管を使っていた時代のような段階だ」と語る。
フアン氏は「量子コンピューティングはまだ開発の初期段階に過ぎないので、過大な期待は禁物だ」と述べ、自身の経験と重ねた。「設立当初、NVIDIAのGPUに対する人々の期待はそれほど高くなかった。当時、GPUの主な用途はゲームのレンダリング(画像や映像の処理)だったが、ユーザーは物足りない点があってもNVIDIAのGPUを受け入れた」
GPUがゲーム用として市場に受け入れられたことを足がかりにして、NVIDIAは事業規模を拡大し、技術を向上させ、今に至る。「同じように、量子コンピュータに対しても機会を与える必要がある」とフアン氏は語る。
同氏は「フライホイール効果」を引き合いに出す。フライホイール(はずみ車)を回転させるには大きなエネルギーが必要だが、いったん回り出すと慣性で回転する。同じように、新興技術を軌道に乗せるには、研究開発のための巨額の資金投入が必要になるが、それによって技術が向上し、優れた製品が生まれる。その結果として発生した売り上げから、さらなる研究開発費の投入という好循環につながるのだ。
フアン氏は加えて、「GPUがCPUの置き換えではなく、CPUと協力して役割を果たすのと同じように、量子コンピュータは従来のコンピュータの置き換えではなく、追加されるものだ」と語った。PasqalのCEO、ロイック・ヘンリエ氏もこれに同意する。「量子コンピュータという用語は、従来のコンピュータと入れ替わるものという誤解を招くことがあるが、そうではなく、CPUやGPUを搭載した従来のコンピュータと併用して特殊なタスクを処理するためのものだ」
PsiQuantumの共同創設者兼CSO(最高科学責任者)であるピート・シャドボルト氏は、また別の見方をしている。「小型で性能の低い量子コンピュータを、超高性能の従来型コンピュータに追加しても、性能が向上すると考える理由はない」
(翻訳・編集協力:編集プロダクション雨輝)
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