Microsoftは、量子コンピューティングの大きな進展を達成したと主張しており、将来的には医薬品開発、環境問題の解決、建設・製造業向けの新素材開発に貢献する可能性があるという。何を達成したのか。
Microsoftは2025年2月19日(現地時間)、8量子ビット(量子ビットは量子コンピュータが扱う情報の最小単位)を搭載した量子プロセッサ「Majorana 1」を発表した。Majorana 1に使用されたアーキテクチャは、将来的に100万量子ビットまで拡張可能なスケーラビリティ(拡張性)を重視しているという。
一般的な量子プロセッサは50~数百の量子ビットを搭載している。ただし例外として、IBMが2023年に発表した、1121量子ビットを搭載するプロセッサ「IBM Condor」もある。Majorana 1は現時点では8量子ビットしか搭載していないが、Microsoftは将来的に100万量子ビットへ到達できると主張する。
Microsoftの技術フェローであるチェタン・ナヤク氏は、「100万量子ビットの量子コンピュータは単なる技術的マイルストーンではなく、世界の最も困難な問題を解決するための入り口となる」と述べる。
Microsoftのスケーラブルな量子プロセッサ開発の鍵は、インジウムヒ素とアルミニウムを原子レベルで設計、製造する技術にある。この材料は磁場を利用して「マヨラナ粒子」(粒子と反粒子が同一の中性フェルミ粒子)と呼ばれる新たな量子粒子を生成する。マヨラナ粒子は「トポロジカル量子ビット」となり、データを安定的に保持するための重要な特性が埋め込まれている。
現在の量子コンピューティングでは、量子ビットの不安定性が大きな課題となっており、エラー訂正に膨大なリソースを費やす必要がある。その結果、信頼性の高い量子ビットの数が限られ、大規模な計算には不向きだった。Microsoftは、この課題をMajorana 1の「トポロジカルコア」アーキテクチャによって解決できると主張している。
量子エラー訂正をめぐっては、Googleの量子コンピューティング研究部門のQuantum AIが2024年12月に、105量子ビットを搭載する量子プロセッサ「Willow」を発表。スケーラブル(量子ビットの数を増やすほどエラー率が指数関数的に減少する特性)な量子エラー訂正技術を紹介した。
Googleは、Willowの量子エラー訂正技術に関する技術論文を科学誌『Nature』誌に発表。Microsoftも『Nature』誌にMajorana 1のトポロジカル量子ビットに関する論文を発表した。
「量子コンピューティングは次世代の重要技術と見なされているが、決定的な技術が確立されていないため、多くの実験が行われている」と、ITコンサルティング企業J.Gold Associatesのプリンシパルアナリストであるジャック・ゴールド氏は指摘する。
実用的な量子コンピュータの商用化にはまだ数年かかると考えられているが、NVIDIAの最高経営責任者(CEO)であるジェンスン・フアン氏が2025年1月に述べた「実用化にはあと20年かかる」との予測よりは早まる可能性がある。「5~10年以内に実用的な量子コンピュータが登場するだろう。既に小規模なものは幾つか存在するが、まだ非常に限定的な性能しか持たない」。ゴールド氏はそう述べる。
現在の量子コンピュータは主に研究機関や特定の用途を持つ組織に販売されている。代表的な量子コンピュータメーカーには、カナダのD-Wave Systemsがある。
量子コンピューティングが一般に普及するためには、アプリケーション開発のためのプログラミング言語など、周辺技術の進化が必要不可欠だ。さらに現在の量子コンピュータは、動作するためにほぼ絶対零度の極低温環境を必要とする。これは高コストであり、商用化の大きな障壁の一つとなっている。
「研究プロジェクトと、実際にコスト効率の良いシステムを構築し、エンドユーザーが利用可能な状態にすることは全く別の課題だ」(ゴールド氏)
Microsoftと量子コンピュータ企業PsiQuantumは、米国防高等研究計画局(DARPA)のプログラムに選ばれ、2033年までに産業用途に適した量子コンピュータを設計するプロジェクトに参加することになった。
Microsoftは独自に量子ハードウェアを開発しており、英Quantinuumや米Atom Computingと提携し、共同で量子コンピュータの開発を進めている。
(翻訳・編集協力:編集プロダクション雨輝)
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