“SSDオンリー”の台頭で現実味を帯びる「HDDが本当になくなる日」なぜHDDの生産は激減するのか?

企業向けHDDの終焉(しゅうえん)が迫っているという見方が、現実味を帯びてきたとあるオールフラッシュストレージベンダーPure Storageはみている。その根拠は何か。

2025年04月01日 07時30分 公開
[Antony AdsheadTechTarget]

 ストレージベンダーPure Storageは、企業向けHDDの終焉(しゅうえん)が迫っているという同社の予測が、現実味を帯びてきたと考えている。

 2024年12月に、Pure Storageはあるハイパースケーラー(大規模データセンターを運営する事業者)が同社のフラッシュストレージモジュール「DirectFlash Module」(DFM)を、ストレージインフラのコンポーネントとして採用することで合意したと発表。サプライチェーンパートナーとの連携強化も進み、Pure StorageはNAND型フラッシュメモリベンダーであるMicron Technologyやキオクシアとの協力体制の強化を相次いで発表している。

 Pure Storageのようなオールフラッシュストレージベンダーの取り組みが功を奏し、ハイパースケーラーがフラッシュストレージをより多く採用するようになれば、HDDの出荷は大きく落ち込む可能性がある。もしそうなれば、HDDはいよいよ消滅に向かう可能性があるのだろうか。

「HDDが本当になくなる日」が現実味を帯びる

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 Pure Storageは、Micronとの協業拡大を2025年1月に発表。Pure Storageは、MicronのQLC(クアッドレベルセル)方式のNAND型フラッシュメモリ第9世代「Micron G9 QLC NAND」を、DFMに大量に搭載する計画だ。QLCとは1つのメモリセル(記憶素子)に4bitを格納する記録方式であり、SSDの容量増大に寄与する技術の一つだ。

 それに先立ち、Pure Storageはキオクシアの提携を2024年12月に発表している。キオクシアのQLCのNAND型フラッシュメモリを搭載したストレージ製品をハイパースケールデータセンターのニーズに合わせて構築し、提供するというものだ。

ハイパースケーラーへの販売は「HDDの終わり」の引き金か

 DFMは、他のストレージが提供している通常のSSDとは異なる。Pure Storageのストレージアレイに搭載することを前提に設計されており、ドライブを単体で購入することはできない。

 Pure Storageは、DFMの設計と製造を管理しており、コントローラーシステムの設計と構築も実施している、データ管理機能をドライブやストレージアレイのシステム全体に分散させることができる。これによってキャッシュの使用とデータ配置が効率化される。その結果、QLCのNAND型フラッシュメモリの寿命がある程度延びることがあるという。

 DFMにおけるデータ管理機能の分散は、電力消費の低減、より高速なI/O(データの入出力)、省スペースによるNAND型フラッシュメモリの搭載量増加にもつながる。膨大な容量のストレージを使用するハイパースケーラーにとって、DFMのこれらのメリットは大きい。

 Pure Storageの課題は、サプライチェーンの規模拡大だ。Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft、Google、Meta Platformsは、世界で生産されるサーバの相当量を購入している。そうしたハイパースケーラーは多くの場合、ホワイトボックス(ノーブランド)ハードウェアを購入し、自社でカスタマイズしている。その市場はこれまで、企業向けストレージベンダーに対して実質的に閉ざされていた。そうしたベンダーの製品は、ハイパースケーラーそれぞれの固有の要件に合わせて作られていないからだ。

 Pure Storageがどのハイパースケーラーとの取引を獲得したのかは正式には明らかになっていない。だが同社はハイパースケーラー独自のストレージと連携するコンポーネントとしてDFMを販売する戦略を取っており、それが功を奏してこれまで閉ざされていた市場に入り込んでいると考えられる。

SSDの容量がHDDの10倍に

 これまで大規模データセンターを運営するハイパースケーラーは、ストレージサービスを提供するためにHDDを好んで採用してきた。その主な理由は、HDDが安いことだ。

 だがそうした価格の違いがある半面、HDDはデータ読み書きの速度がSSDよりも遅い。AI(人工知能)技術の台頭に伴い、さまざまなデータにアクセスする必要性が生じ、使用頻度の低いデータにより高速にアクセスする必要が出てきた。そこでハイパースケーラーはSSDに目を向け始めた。

 だが従来のSSDの容量は、ハイパースケーラーが採算を取れる規模に満たなかった。ところがPure Storageは、Micronとキオクシアの最新世代のQLCフラッシュメモリを採用し、容量150T(テラ)Bのフラッシュストレージモジュール「DirectFlash Module」(DFM)を作れるようになった。DFMとはSSDに相当するハードウェアだが、Pure Storageのストレージアレイに搭載することを前提に設計されているため、一般的なHDDのドライブとは異なるものだ。

 そのDFMの容量は、300TBに達する見込みとなっている。一般的なHDDの最大容量は30TBほどまで増大しているが、DFMの容量はその約10台分に相当する規模まで拡大することになる。

HDDの終わりの始まり?

 Pure Storageがハイパースケーラーに大容量DFMを供給する取引は、「HDDの終わり」の始まりとなるのだろうか。

 Pure Storageの最高技術責任者ロブ・リー氏は、2025年1月にプラハで開かれた記者会見で、Pure Storageの製品がハイパースケーラーに採用されることは「画期的なことだ」と語った。その上で、ハイパースケーラーがフラッシュストレージに重点を移すとなれば、HDD市場の崩壊につながる可能性があるとの見方を示した。

 「われわれは単にストレージアレイを供給するわけではない。われわれはハイパースケーラーとの共同エンジニアリングにより、彼らのカスタムシステムにDFMを統合するのだ」。リー氏はそう説明。さらに同氏は「彼らはDFMのようなものを自前で構築する準備もできていたが、『自前で構築するまでもなく、PureStorageのフラッシュモジュールを統合すればいい』と考えた」と語る。

 リー氏によると、ハイパースケーラーがこうした動きに出た背景には、データの増大とAI(人工知能)関連のニーズがある。特に、比較的使用頻度が低い大規模なデータストアにアクセスする必要が出てきたことが大きい。そうした中で従来はHDDが担っていた役割をフラッシュストレージが担うようになれば、HDDの需要が激減し、HDDの生産が成り立たなくなる可能性がある同氏は指摘する。

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