量子コンピュータの本格的な実用化にはまだ至っていないが、世界中の企業が量子コンピューティングへの投資を進めている。現時点で量子コンピュータの開発はどこまで進んでいて、企業はこれから量子コンピュータに何を期待できるのか。
IBMは2023年12月、「IBM Condor」(以下、Condor)と「IBM Heron」(以下、Heron)という2種類の量子プロセッサ(QPU)を発表した。Condorは1121量子ビットで、IBMが開発した量子プロセッサの中で最大の量子ビット数となる。Heronは133量子ビットの小規模な量子プロセッサだが、他の量子プロセッサと連携可能だ。量子ビットは量子コンピュータが扱う情報の最小単位を指す。
これらIBMによる発表は、量子コンピュータの分野において最先端を走る技術の一つに位置付けることができるが、世界中ではこれ以外にも研究開発が広範に進められている。量子コンピュータの開発はどのような状況にあり、企業は今後の量子コンピュータに何を期待できるのか。
さまざまな量子コンピュータが開発段階にある。IBMによる次世代量子コンピュータの基盤システム「Quantum System Two」はHeronを搭載し、ニューヨーク州ヨークタウンハイツのIBMの研究所で稼働している。
「航空機メーカーのBoeingや自動車メーカーのBayerische Motoren Werke(BMW)、金融機関のGoldman Sachsをはじめ、世界的な企業300社近くが、量子コンピュータ戦略に投資している」。調査会社Gartnerのアナリストであるチラグ・デカテ氏はそう話す。そうした企業は、2024年の時点では量子コンピュータを実導入しているのではなく、量子技術の導入によって自社が得られる効果を見極めている最中だ。
ニューヨーク市立大学の理論物理学教授ミチオ・カク氏は米国のCBSのテレビ番組「60 Minutes」で、IBMやGoogle、Microsoft、電子制御機器メーカーのHoneywellといった大手企業の他、中国などの各国が、実用的かつ効率的な量子コンピュータを開発するための競争に加わっていると説明した。「この競争を勝ち抜く国や企業が、世界経済をリードするだろう」と強調した。
現状の量子コンピュータの実機は一般的に、ベンダーの研究施設や学術機関に存在する。非営利の医療機関Cleveland Clinicは2023年初め、がん研究のためにIBMの量子コンピュータを敷地内に設置した。
量子コンピュータは、現段階では「生成AI」(ジェネレーティブAI)を実行するコンピュータとしては適していない。ただし生成AIを、量子コンピューティング用アプリケーションのソースコード作成に活用することはできる。
ユーザー企業の業務プロセスを改善するために量子コンピュータの開発を進める企業は、量子コンピュータのハードウェア部分に加えて、量子コンピュータで実行する業務アプリケーションの開発方法も研究している。デカテ氏は次のように話す。「ベンダーが競争力を高めるためには、量子コンピューティングがより幅広い用途で利用できるようになったときに備えて、アプリケーションの開発に取り組んでおくことが不可欠だ」
量子コンピュータは、創薬や航空機設計など、機械学習を利用する分野で特に役立つ可能性がある。しかし量子コンピュータが、古典コンピュータとも呼ばれる従来のコンピュータを完全に置き換える可能性はほぼない。デカテ氏は、長期的に見ると量子コンピュータと古典コンピュータが、互いに補完し合う形で機能する可能性が高いと指摘する。「メール確認やスプレッドシートの編集に量子コンピュータを使うことはないだろう。しかし古典コンピューティングでは扱えない問題を、量子コンピュータが解決できる可能性がある」(デカテ氏)
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