脱VPNを実現する「SDP」と「SASE」とは? VPNとの違いは脱VPNは必要なのか【中編】

VPN(仮想プライベートネットワーク)は重要な技術だが、現在では企業にとって必ずしも安全なツールとは限らない。VPN以外のリモートアクセス技術の特徴とは。

2025年01月29日 07時15分 公開
[Isla SibandaTechTarget]

 VPN(仮想プライベートネットワーク)は企業が安全にネットワークを利用するための技術として重要な役割を果たしてきた。しかしネットワークが複雑化し、脅威が増している現状では、必ずしも企業にとって適切なツールではない。

 VPNからの移行先の技術として「SDP」(ソフトウェア定義境界)と「SASE」(セキュアアクセスサービスエッジ)がある。それぞれの特徴を説明する。

SDPとは何か

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 SDPは、セキュアなリモート接続を実現する技術だ。エンドユーザーやデバイスを信頼できないものとして扱う「ゼロトラストセキュリティ」の考え方に基づいており、アクセスする場所に関係なく、権限のないエンドユーザーからネットワークにあるリソースを見えなくする。ファイアウォールなど、ネットワークの内と外の境界を定義して防御するセキュリティ技術とは根本的に異なる。

 SDPは、エンドユーザーと特定のリソースの間に、状況に応じて動的にセキュアな暗号化接続を確立する。ゼロトラストモデルに基づくネットワークセキュリティ技術だ。SDPはエンドユーザーのID、デバイス、状況を検証してアクセスしてよいか否かを判断する。

 エンドユーザーやデバイスにアクセスを許可する場合でも、SDPはアクセスできるリソースを限定する。エンドユーザーはアクセス権限のないリソースの存在さえ感知できない。これにより、企業全体の攻撃対象領域を大幅に削減し、ネットワーク内でのサイバー攻撃の横展開リスクを抑えることができる。

 SDPはオンプレミスインフラとクラウドサービスが混在するハイブリッドなIT環境を保護しやすい他、テレワークやBYOD(私物端末の業務利用)の保護にも役立つ。多要素認証(MFA)やその他のID検証ツールと連携させることで、セキュリティをさらに強化できる点もSDPの特徴だ。

SASEとは何か

 SASEは、セキュリティとネットワークを統合したクラウドベースのアーキテクチャだ。クラウドサービスを通じてセキュリティ機能とネットワーク機能を1つにまとめて提供するため、セキュリティとネットワークが分離している従来の構成から脱却することができる。

 SASEの主なセキュリティ機能は次の通りだ。

  • FwaaS(Firewall as a Service)
  • SWG(Secure Web Gateway)
  • CASB(Cloud Access Security Broker)
  • ZTNA(Zero Trust Network Access)

 これらの機能は連携して動作し、従来のオンプレミス型のセキュリティツールに頼ることなく、どの場所からもエンドユーザーが必要なリソースにセキュアにアクセスできるようにする。

 SASEの強みは拡張性だ。クラウドサービスとオンプレミスインフラを併用する「ハイブリッドクラウド」や複数の異なるクラウドサービスを併用する「マルチクラウド」、テレワークなどさまざまなIT環境で活用できる。クラウドサービスとして提供されるため、さまざまなセキュリティ機器を設置する必要がなく、コストを削減し、管理を簡素化できる可能性がある。

 SASEはネットワークのパフォーマンスも向上させる。例えば、従業員がオフィスなどからアプリケーションを利用する際にデータセンターのネットワークスイッチを経由してトラフィック(ネットワークを流れるデータ)をルーティングする場合、レイテンシ(遅延)が発生する。SASEではエンドユーザーが、企業が自社で保有するデータセンターではなく、ベンダーが提供する最も近いPoP(Point of Presence:接続拠点)を経由して通信する。これにより、データ転送を高速化でき、UXの向上が期待できる。

 セキュリティ企業Tufin Software TechnologiesのフィールドCTO(最高技術責任者)エレズ・タドモル氏は「SASEはレイテンシを大幅に削減し、世界中のテレワーカーの生産性を向上させる可能性がある」と述べている。

 まとめると、SASEはレイテンシを最小限に抑えることでパフォーマンスを向上させる。従来型のVPNがデータセンターを経由してネットワークを利用する代わりに、SASEはベンダーのPoPを経由することで遅延を削減できる可能性がある。

最も適切なツールは

 リモートアクセスの技術およびツールとしてVPNとSDP、SASEを紹介した。どのツールが適しているかは、企業の状況やニーズによる。

 VPNはリモート接続をそれほど必要としない小規模組織や、デジタルフットプリント(オンライン活動の履歴)を残したくない個人にとっては良い選択肢だ。VPNは導入や運用が容易なため、小規模かつそれほど複雑でないネットワークを保護したい場合に適している。

 AI(人工知能)などさまざまなアプリケーションやデータを活用している大企業にとってVPNは不適切な可能性がある。セキュリティリスクが複雑化しており、従来型の境界ベースのセキュリティ技術であるVPNは、AI(人工知能)技術の普及により出現した高度なサイバー攻撃に対処するには不十分だ。企業が利用するAI駆動のアプリケーションは大抵の場合、機密データを扱っており、AIを標的としたマルウェアやサイバー攻撃が生まれている。

 SDPは、ゼロトラストセキュリティに基づいている。ゼロトラストセキュリティはAIアプリケーションとその機密データを保護するために不可欠な考え方だ。SASEは、セキュリティ機能とネットワーク機能を単一のクラウドサービスに統合する。複数の拠点を持ち、クラウドサービスの活用を重視する大企業に適したアーキテクチャだ。


 次回は、どのような場合にVPNからSDPやSASEに移行するのが適切なのかを考察する。

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