NTTが世界初「455Tbps」の伝送システムを構築 IOWN、6G時代のインフラに従来の50倍以上の速度を実現

NTTは風雨などによって影響を受けやすい屋外でも、安定して既存の光伝送システムの50倍以上の伝送容量を実現した。どのような技術が使われているのか。

2025年01月30日 07時00分 公開
[Joe O’HalloranTechTarget]

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 NTTは2024年11月、風雨などによって信号の波及環境の変化を受けやすい屋外において、信号を455Tbpsで安定して伝送することに世界で初めて成功したと発表した。この伝送容量は、同社がこれまでに開発している8Tbpsの伝送システムの50倍以上となる。

 NTTが掲げる光ベースの技術によるネットワーク構想「IOWN」(Innovative Optical and Wireless Network)や「6G」(第6世代移動通信)のインフラにもなる可能性があるというこの伝送システムには、どのような技術が使われているのか。

「455Tbps」を実現した伝送システムとは

 実験では、NTT横須賀R&Dセンタ敷地内に全長4.86キロメートルの12結合コアファイバケーブル(注1)を敷設(ふせつ)した。ケーブルの大部分はとう道(通信用地下ケーブルを収容する地下トンネル)に敷設したが、200メートルほどは地上の電柱間に配線しており、風雨などの外部要因で信号の波及環境が変動しやすい状況を再現した。

※注1:一つの光ファイバーケーブルの中に12個のコアを配置して結合した光ファイバー。

 さらに、実験用に光増幅器(光信号を増幅するデバイス)や光ファイバーをループ状に接続することで、53.5キロメートルの実験環境を構成した。同環境において、455Tbpsを実現した。同様の手法で伝送距離を1017キロメートルまで伸ばした場合でも、389Tbpsを達成した。NTTによれば、1017キロメートルは東名阪(東京、名古屋、大阪)区間を光ファイバーによって基幹ネットワークを構築するために必要な距離だ。

 今回の成果に結び付いた要因の一つが、MIMO(Multiple Input Multiple Output)だ。MIMOは送受信機の間で、同一の周波数を利用して複数の異なるデータを並列して通信する技術だ。主に無線通信の分野で複数のアンテナを利用することで実現することを指すが、今回は光ファイバーでも光の偏波(光の波の振れ方向)などを調整し利用することで、MIMOを実現した。MIMOによって伝送容量の拡大を達成したことに加えて、NTTの技術により光信号を効率的に補正することで伝送時の安定性を高めた。

 NTTによれば、今回の実験で使用した12結合コアファイバケーブルは、直径が一般的な光ファイバーと同等であり、商用ケーブルとの接続も容易であるため、量産化に適している。

 今回の実験結果は、NTTが掲げるIOWNの主要技術の進化につながる可能性がある。

 IOWNは「SFを現実の科学に変える」ことを使命とし、光速技術によって日常生活や仕事、および社会全体を改善する方法を研究している。IOWNは端末を含むネットワークや情報処理基盤の構想であり、光を中心とした技術を活用した高速大容量通信や、膨大な計算リソースを提供することを目指している。

 IOWNの技術的な基盤の一つに、フォトニクス(光学)ベースの技術を用いた「オールフォトニックスネットワーク」(APN)がある。APNでは、2019年にIOWNを構想した時点のネットワークと比べて以下の3つの目標を掲げている。

  • 消費電力効率:100倍
  • 伝送容量:125倍
  • エンドツーエンド遅延:200分の1

 NTTによれば、データ利用量は指数関数的に増加しているため、APNの目標達成が不可欠だ。同社は今回の実験で、外的要因で光ファイバーの信号波及環境が変化しやすい屋外環境においても従来の伝送システムの50倍を超える伝送容量を実現した、と述べている。これにより、将来の陸上光伝送システムの基盤技術になる可能性がある。

 NTTは今後、関連技術分野と連携しながらこの技術の研究開発をさらに進め実用化を目指す。これにより、IOWNおよび、「5G」(第5世代移動通信)が進化した「Beyond 5G」や6G時代の光伝送基盤の実現に貢献するとしている。

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