容量増大などの技術進化が進むSSDは、いずれHDDを完全に置き換えるのか。HDDが将来的に不要になる可能性はあるのか。現時点におけるHDDの優位性は何か。東芝の開発者に聞いた。
SSDなどフラッシュメモリの技術を利用したストレージ(以下、フラッシュストレージ)は容量増大などの技術進化が続き、容量単価は低下している。「“回転ディスク”を利用したHDDは不要だ」という意見も出ている中で、SSDがHDDを完全に置き換えるのはどこまで現実的なのか。
東芝のストレージ担当事業開発上級マネジャーのライナ・カイゼ氏は、HDDをSSDで完全に置き換えることは不可能だと述べる。HDDの未来は保証されている理由は何なのか。カイゼ氏に聞いた。
カイゼ氏は、「HDDをSSDで置き換えることは、高性能が求められる限られたアプリケーションを除けば、コストがかかり過ぎて不可能だ」と述べる。同氏はHDDの未来をどうみているのか。
―― SSDはHDDに取って代わるのか。
カイゼ氏 そうはならないだろう。テープと同じだ。かつてテープは他のストレージ技術に取って代わられると言われたが、テープは今も存在している。HDDは現在も今後も、オンラインデータを最も安く保存する方法であり続ける。全ては容量当たりのコストに尽きる。データは飛躍的に増え続けている。
われわれは大容量で低価格なストレージを必要としている。SSDなどのフラッシュストレージと比べるとHDDの容量単価は安い。
確かにSSDの方がHDDよりデータの読み書きが速い。しかしほとんどの場合、特に大規模なストレージシステムでは、必要な速度はHDDで実現できる。大規模なストレージシステムをSSDだけで実装した場合、コストはあまりに高額になる。
従って、われわれは人類が生成する膨大な量のデータを保存するために、この先何年もの間、間違いなくHDDを必要とする。
―― HDDの未来を保証するものは何か。
カイゼ氏 先ほども言った通り、主に容量当たりのコストだ。
他にも理由はある。昨年の分析データを見ると、われわれはおよそ1ZB(ゼタバイト)、つまり1000EB(エクサバイト)のHDD容量を製造、販売、設置、補充したのに対し、SSD容量はわずか260EBだった。
企業やクラウドサービスベンダーのデータセンターに導入される全ストレージのうち、データ全体の約70~80%はHDDに保存される。何か奇跡が起きてSSDの容量当たりのコストがHDDに追い付いても、HDDに保存されている約70~80%のデータをSSDに入れ替えるだけの容量がない状況が長く続き、移行はうまくいかないだろう。
HDDは数十から数百TB、最大で数PBといった大規模ストレージシステムで使われている。CPUの近くなど、データへの高速なアクセスが求められる場所では、転送プロトコル「NVMe」(Non-Volatile Memory Express)を採用したSSDなどが採用されている。
企業がSSDの転送速度や読み書き速度を生かして収益を増やせるのであれば、SSDは合理的な選択だ。だが、そのような用途は現状、ローカルストレージや小規模ストレージシステムに限られる。大規模ストレージシステムの場合、SSDのみで構成するオールフラッシュストレージではコストが高くなり過ぎる。大規模ストレージシステムはHDDの使用を前提としている。
確かにHDDの読み書きはSSDよりも遅い。HDDはランダムな細かいデータの読み書きが苦手だ。IOPS(1秒間に処理できる入出力数)などのパフォーマンスの面ではSSDに劣る。だが、多数のHDDを組み合わせてかなりの容量を実現できるという利点がある。
例えば、2PBものストレージシステムに保存されるのはクレジットカード番号や個別の請求書データなどのような、一つ一つが小さくシステムがランダムにアクセスする可能性が高いデータではない。大規模ストレージシステムに保存されるデータはAI(人工知能)技術に利用するためのデータや、システムのバックアップデータなどだ。システムやソフトウェアがこれらのデータにアクセスする際は先頭から最後まで読み込む。こうした、シーケンシャル(連続的)な処理においてHDDは十分な速度を発揮できる。
われわれの研究によると、60台のHDDで構成する1P~2PBのストレージシステムは100Gbpsのネットワークと組み合わせてもストレージ側がボトルネックにならず、十分にネットワーク容量を活用できる。1P~2PBのストレージシステムをHDDからSSDに置き換えることは可能だが、より多くの予算が必要になる。5~7倍のコストをかけても、大抵の場合はネットワーク側がボトルネックとなり、得るものはない。
このような理由から、大規模ストレージシステムには当分の間、HDDが必要だ。
次回はHDDがあとどれくらいの期間、SSDに対抗できるのかを説明する。
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