さまざまなアプリケーションのインフラとしてクラウドサービスを選択する企業が増えている。一方で、クラウドサービスを選択してからオンプレミスに戻る企業も少なくない。その理由とは。
コンピューティングやストレージ、ネットワークなどのインフラに関して、クラウドシフトがもはや止めることができないトレンドであることは明らかだ。実際にクラウドサービス市場は成長を続けている。
だが、動きはオンプレミスシステムからクラウドサービスへの一方通行ではない。クラウドサービスからオンプレミスインフラへの移行が進み、コンピューティングやストレージの機能を再び自社所有のインフラで運用している企業は珍しくない。なぜ企業はオンプレミスインフラに回帰するのか。
「オンプレミス回帰」とは、アプリケーションを動かすインフラをクラウドサービスからオンプレミスに戻すことだ。ここで言うオンプレミスには、企業が所有するデータセンターに加えて、コロケーション(データセンターの場所貸しサービス)など、何らかの形の共有設備も含まれる。
オンプレミス回帰の例として、ストレージとサーバ をオンプレミスに戻すケースが一般的だ。ストレージとサーバを同じインフラ内で運用して連携させることで、パフォーマンスを改善できる可能性がある。
既存のアプリケーションやOSに変更を加えずにクラウドサービスに移す「リフト&シフト」を実施した後に、オンプレミスインフラで構築した仮想基盤にそれを戻すケースもある。
データとストレージのみをオンプレミスに戻す企業もある。データ主権(データの制御と管理に関する権利)、セキュリティ、規制に関する課題に対処するためだ。
企業がクラウドサービスからアプリケーションをオンプレミスに戻す主な理由の一つは、期待していたコスト削減を実現できなかったことだ。
クラウド移行の専門家でコンサルティング企業PA Consulting Groupのラーフル・グプタ氏は、次のように分析する。「コストに関する懸念が主な要因だ。パブリッククラウドのコストは規模が大きくなると予想外に高くつくことがある」
最高情報責任者(CIO)がより安定したITインフラを求めているケースもある。次々と新機能が追加されることは一般的にクラウドサービスの利点とされているが、それは必ずしも企業のメリットにはならない。データ保護やセキュリティ、コンプライアンス(法令順守)に関して、オンプレミスインフラの方が要件を満たしやすいケースがある。
クラウドサービス市場では近年、AI(人工知能)技術を中心とした需要増大とエネルギーコストの上昇による価格上昇圧力が発生している。コンサルティング企業/国際会計事務所KPMGの英国法人でクラウド担当責任者を務めるエイドリアン・ブラッドリー氏は次のように分析する。「インフレとAIによる価格上昇圧力の結果、クラウドサービスとオンプレミスインフラの経済性のバランスが変化している。クラウドサービスから適切な価値を得られるかどうかを検証することは合理的だ」
内製化した方が技術やアーキテクチャを最適化でき、投資効果が高まるとCIOが判断するケースもある。
オンプレミス回帰の要因にはコストだけでなく、コンプライアンスと規制に関する問題もある。こうしたケースでは、企業はデータの所在地やパフォーマンスに関する具体的な保証を求めている。医療や金融のような規制の厳しい業界では、データをオンプレミスに置くことを顧客から求められるケースもある。
クラウドサービスでは実際にどの程度の処理性能を出せるかを事前に確認しにくいケースがある。クラウドサービスであっても設計やストレージの見直しで、処理性能を改善できる可能性がある。しかし、PA Consultingのグプタ氏は「アプリケーションによってはオンプレミスの方がより高い処理性能や低いレイテンシ(遅延)を実現できることがある」と話す。特に研究開発や生産ラインなど、センサーや計測機器に依存しているシステムはストレージとデータの発生場所を近づけることで、処理性能の向上が期待できるという。
次回はオンプレミス回帰の落とし穴を解説する。
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