多摩市立愛和小学校 公開授業リポート
目指せ“全学年プログラミング学習” 公立小学校が示すIT活用授業の未来像
タブレット活用だけでなく、プログラミング学習や学習管理システム(LMS)、そしてゲームまでも教育に生かす多摩市立愛和小学校。同校の公開授業から、その実態と狙いを探る。
公立小学校でありながら、米Appleのタブレット「iPad」を1人1台環境で活用する、東京都の多摩市立愛和小学校。2013年度にタブレット導入を実施し、現在140台のiPadが稼働している。
「3Dプリンタやプログラミングも導入した公立小学校、その授業の中身とは?」でも紹介した通り、愛和小学校のIT活用は、いわゆる自治体主導のタブレット導入とは大きく異なる。松田 孝校長の斬新なアイデアと強いリーダーシップの下、企業や民間団体、他の教育機関などと広くつながり、多くの取り組みを実現させているのが特徴だ。2014年度は教育機関のIT製品導入を支援するパナソニック教育財団の特別研究指定校にも選出され、取り組みの幅は広がるばかりである。
愛和小学校は、全校児童140人全員がiPadを日々の授業で活用している。朝、登校した児童らはiPadが保管されている教室に行って自分の名前が書かれた端末を取り、1日の授業が終わった後に返却する。ドリル学習、プレゼンテーション、写真、動画など、授業や学校生活のさまざまな場面でiPadを使う様は、まるで文房具を活用しているかのようだ。
そんな愛和小学校がさらなる挑戦として取り組むのが、iPadの1人1台環境を生かした「学習管理システム(LMS)の活用」と「プログラミング教育」の2つだ。2014年11月、同校はこの2つをキーワードにした公開授業を開催した。公教育の現場で新たな取り組みに挑んだ同校の公開授業の様子を紹介しよう。併せて、同校が利用するiPadアプリケーションとWebサービスをまとめた一覧表も提供する。
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全学年でプログラミング教育を実践
公立小学校ではまだ必修化されていないプログラミング授業。だが「総合的な学習の時間(総合学習)」を用いて、プログラミング授業に取り組む小学校が徐々に現れ始めている。佐賀県武雄市がディー・エヌ・エー(DeNA)や東洋大学と協力してプログラミング教育の実証実験をスタートするなど、自治体がプログラミング教育を検討するケースも出てきた。今後は、公立小学校におけるプログラミング教育の議論や取り組みがさらに増えると予想できる。
愛和小学校でも既に、6年生の総合学習で定期的にプログラミング学習を実践している。さらに今回の公開授業に合わせる形で、それ以外の学年でもプログラミング学習を試みたという。「1年生から6年生まで全学年を通してプログラミング授業を実施し、その様子を公開することで、幅広い教育関係者にプログラミング教育について考えるきっかけやヒントを提供したい」と松田校長は語る。
今回公開したプログラミング学習の内容は、学年によって異なる。それぞれについて詳しく見ていこう。
1年生:指で描いた絵が画面の中で動く「Viscuit」を活用
1年生は、ビジュアルプログラミング環境の「Viscuit(ビスケット)」を用いて、「描いた絵を動かそう」をテーマに取り組んだ(写真1)。この授業は、Viscuitを使ったプログラミングスクール「ビスケット塾」を横浜市で運営する特定非営利活動(NPO)法人、デジタルポケット(横浜市港北区)の小林桂子氏が協力した。
Viscuitは「プログラミングを体験すれば、誰でもコンピュータの本質が理解できる」をコンセプトに、NTTコミュニケーション科学基礎研究所の原田康徳氏が2003年に開発したビジュアルプログラミング環境だ。幼児などマウスやキーボード操作が未熟な子どもでも、自分の手で絵を描き、その絵を動かすことでプログラミングができる仕組みを持つ(写真2)。
論理的思考力の育成を目的に据えてプログラミング教育に取り組む教育機関は多い。愛和小学校ではそれに加え、低学年の児童がコンピュータを“創造のツール”として認識したり、体験するのにViscuitを役立てようとしている。授業では、児童は自分の描いた絵が画面で動く姿を見て、コンピュータやデジタル表現の楽しさを体験していた。
実はViscuitは「Adobe Flash」で開発されており、Flashの再生機能を持たないiOSでは利用できない(今後iOS版を提供予定)。そこで愛和小学校では、中間サーバでWebページを処理するなどの工夫でFlash再生を可能にしたWebブラウザ「Puffin Web Browser」を児童のiPadにダウンロードして、iPadでViscuitが利用できるようにしている。
2年生/3年生:「ScratchJr」を使った作品づくりに挑戦
5~7歳の幼児を対象としたビジュアルプログラミング環境「ScratchJr(スクラッチジュニア)」を用いてプログラミング学習に挑戦したのは2年生と3年生。2年生は「ものがたりをつくろう」、3年生は「自分のアイデアを形にしよう」をテーマに、小学生/中学生向けプログラミング教室「TENTO」の講師によるサポートを受けながらプログラミング学習に取り組んだ。ScratchJrは、米Massachusetts Institute of Technology(マサチューセッツ工科大学)の研究機関であるMIT Media Lab(MITメディアラボ)を中心とする研究グループが開発したプログラミング環境だ。
3年生の授業で取り組んだのは、キャラクターが障害物を避けながら進むコース作りだ(写真3)。児童はScratchJrが備える升目画面を使い、途中に障害物を置いたり、当たってもよい対象物を配置するなど工夫を凝らしてコースを作成。その上で、キャラクターを上下左右に動かす制御ブロックを並べて、キャラクターがスタートからゴールまで進めるように動作をプログラミングした。児童はコース作りを終えると、児童同士でiPadの画面を見せ合い、互いの作った作品を披露し合っていた。
5年生/6年生:「レゴ」のロボットを目的地まで動かそう!
5、6年生は、レゴジャパンの教育部門であるレゴ エデュケーションのプログラミングロボット教材「教育版レゴマインドストームEV3」を使ったプログラミング学習に挑戦した(写真4)。「レゴブロック」を使って障害物があるコースを作り、車型ロボットを目的地まで動かすことを目標とした。
児童は複数人でチームとなって協力し、実際にロボットを走らせて確認しながらプログラムミングを進めた(写真5)。途中で障害物にぶつかったり、コーナーを正しく曲がらないなど想定通りに動かないときには、スタート地点から障害物やコーナーまでの距離を測定し直すなどしてプログラムにミスがないかどうかを確認(写真6)。目的地に着いたときは大きな歓声が上がるなど、児童らは生き生きと学習に取り組んだ。
Webブラウザベースの「LMS」を授業で活用
プログラミング学習以外にも、興味深い取り組みが幾つかあった。5年生を除いた1年生から6年生までで実施したのが、Webブラウザから使用可能な学習支援サービス「School Takt(旧: Real-time LMS)」を使った授業だ。1年生の学級活動、2/4年生の算数、3年生の道徳、6年生の国語といった授業で同サービスを活用していた。
4年生の算数では、長方形と正方形を組み合わせた「複合図形」の面積を求める問題で活用していた。児童は、教員がSchool Taktを使って共有した問題をiPadで確認し、画面に手書きで解答を書き込んだ(写真7)。問題には「わかった」「わからない」ボタンが備わっており、児童はこれらのボタンを使って教員へ理解度を伝えていた。
教室の前にある電子黒板には、School Taktの機能を使って児童の解答の様子をリアルタイムに一斉表示し、1人ひとりの解答状況が一目で分かるようにしていた(写真8)。教員は解答状況を見ながら、解答が進んでいない児童を見つけて言葉を掛けていた。
「Minecraft」を使った授業も披露
試験的な取り組みとして4年生の授業で披露したのは、スウェーデンのMojang(米Microsoftが2014年11月に買収)が開発したゲーム「Minecraft」の活用だ(写真9)。Minecraftは、「ワールド」という仮想世界にブロックを組み立てるような感覚で建造物や街を作ったり、1つのワールドに複数人がアクセスして協働作業をしたりしてプレイする。国内では活用事例が少ないものの、創造力の育成を目的としてMinecraftを授業に活用する教育機関が海外を中心に増えつつある。
当日の授業では、ワールド構築の作業を正しく、かつ素早く進めるための方法を考えることに焦点を当てた。児童は2人一組となり、効率的なワールド構築の方法やその手順を考えた上で、実際の作業を進めていった。最後はSchool Taktを用いて、工夫した点についてクラス全員で意見を交換した。
愛和小学校は今後、教育向けゲーム開発会社であるフィンランドのTeacherGamingが開発した教育版Minecraftの「MinecraftEdu」を活用したり、プログラミング言語「Python」を使ったワールド構築作業を試行したりするなど、取り組みを広げる考えだ。
学校は「新しい時代と技術を教えてくれるところ」を目指すべき
「学校はいつの間にか、最も時代遅れなところになってしまった。こうした環境で学んだ子どもが、果たして社会に出て必要な人材となり得るのか」――。松田校長はこう問いかける。同校が積極的なIT活用を進める背景には、こうした問題意識があるのだ。
さまざまなIT活用の取り組みを通して、学校を「新しい時代と技術を教えてくれるところ」に変えることを目指す愛和小学校。今後もその努力と挑戦は続く。
執筆者紹介
神谷加代(かみや かよ)
フリーランスライター/ブロガー。結婚を機にサンフランシスコに移住し、日本語の絵本を扱ったECサイトを運営。その後、10年の在米生活を経て帰国し、主婦ブロガーとして「家庭×教育IT」に関する話題をメインにした「主婦もゆく iPad一人歩記」を執筆。家庭や教育におけるITの在り方を主婦目線で描き、教育関係者をはじめとする多くの読者から支持を得ている。現在は教育ITの分野を中心にライター業、子ども向けプログラミング教室の講師として活動中。著書に『iPad教育活用 7つの秘訣』。
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