元校長お勧めのIT製品一覧も紹介
普通の公立小学校が“iPad活用先進校”になれた訳――古河市立古河第五小学校
古河市立古河第五小学校は、現在では1人1台のタブレット活用を進める“IT先進校”の1つだが、一足飛びにこうした環境が実現できたわけではない。同校の元校長である平井 聡一郎氏に活用の実態を聞いた。
公立の小中学校・高等学校における教育のIT化は、各自治体の方針がそれぞれの学校に大きな影響を与える。一方、自治体の動きとは別に、校長が積極的に行動し取り組みを広げているケースがある。「3Dプリンタやプログラミングも導入した公立小学校、その授業の中身とは?」で紹介した多摩市立愛和小学校(東京都)の松田 孝校長はその代表例である。
積極的な協力が得られる企業や人脈を校長自ら開拓して連携を図りながらIT化を進める――。茨城県にある古河市立古河第五小学校の元校長・平井 聡一郎氏も、校長時代にこうした取り組みを進めた1人だ。2012年に古河第五小学校に赴任した後、学校改革の目玉としてITを導入。米Appleのタブレット「iPad」をはじめ多くのIT製品を現場で活用し、国立教育政策研究所 教育課程研究センターの教育課程研究指定校として、論理的思考力の育成に関してIT機器の利活用を進めてきた。
現在は、古河市教育部指導課課長という肩書を持つ平井氏。古河第五小学校における2012年から2014年までの2年の取り組みを振り返りながら、校長という視点からみた教育ITについて語ってもらった。併せて、古河第五小学校が導入したIT製品の一覧表を、平井氏の解説付きで提供する。
一覧表を無料ダウンロード(TechTargetジャパン会員限定)
ITを「真面目な教員、受け身な児童」を変える原動力に
平井氏は、校長として赴任した際に受けた古河第五小学校の印象を「教員は真面目で、児童は落ち着いて授業を受けているものの、どこか受け身で活気がないと感じた」と話す。この雰囲気を変えるためにはどうすればいいかと考えた結果、その答えの1つが教育のIT化推進であったという。
実は、IT化を推進する直接の要因となったのは、2014年4月の「Windows XP」サポート切れに伴い、コンピュータ室の機器を早急に入れ替える必要に迫られたことだ。それを機に「何のためにIT機器を利活用するのか」を問い直し、教育のIT化を推進することで、「教師主導」から「児童主導」の授業へと転換し、児童の主体性を伸ばそうと考えた。
ただし、従来の体制のままでは使用できるIT機器や用途に制約があった。そこで平井氏は、教育課程研究センターの教育課程研究指定校に名乗りをあげ、企業など外部のサポートを受けやすくした。IT以外にも、校庭にある花壇や植林などの環境整備、学校行事の見直し、学校の公式Webサイトも変更するなど、随所で改革を進めた(画面)。こうした誰にでも分かる外的な変化を進めることで、「教員や保護者などに“学校が変わる”ことを感じさせたかった」と平井氏は語る。その後のIT活用の取り組みが比較的スムーズに進められた背景には、初期段階のこうした変化によって教員の意識転換が図られたことが要因だといえよう。
古河第五小のIT導入「3つのステップ」
教職員のITスキルは、教員によって大きな差がある。こうした状況を踏まえて平井氏は、「いきなりタブレットを導入するのは難しいと考え、ITに不得手な教員でも扱えるような簡単なレベルから開始した」という。
平井氏が古河第五小学校で進めたIT導入の取り組みは、大きく3段階に分けられる。
- 第1段階:ディスプレー、書画カメラ、デジタル教科書導入
- 第2段階:1学級分40台のiPad導入
- 第3段階:1人1台のiPad導入
以下、各段階について詳しく説明しよう。
第1段階:ディスプレーと書画カメラでIT機器利用を“日常”に
古河第五小学校では、IT機器を全く使ったことがない教員もいた。そのため、まずは普通教室と特別教室にディスプレーを1台ずつ設置し、併せて机上の本や資料をデジタル化する書画カメラを導入して、IT機器の日常的な活用を促進した(写真1、2)。平井氏自ら「授業の中で児童が自分のノートを写し、発表する場面を作ってほしい」と教員に話し、児童が主体的に表現できる場の仕掛け作りを促したという。
平井氏は、ディスプレーと書画カメラの活用だけでは「本格的なITの導入とはいえない」と謙遜しつつ、「この段階を踏まえたことで、IT機器を触ったことがない教員でもITのメリットを感じることができた」と話す。その後、企業の協力を得て、国語科を除く全教科の教員が利用する指導者用デジタル教科書を全学年に配備。板書の時間を短縮することで、授業時間内における児童の思考・表現の時間を確保した。平井氏は「学習者が主体的になることを教員が最初に実感できたことは、授業改善の意欲につながった」と話す。
第2段階:40台のタブレット導入 活用の課題も洗い出し
第2段階の取り組みは、1クラス分に相当する40台のタブレット導入である。古河第五小学校では予算の関係上、iPad10台と、より安価な「iPad mini」を30台導入して40台を確保した(写真3)。クラス全員分のタブレットがそろうと、児童が1人1台ずつ使うケースが多いかと思いきや、実際には「児童同士による表現活動をしやすくするため、1班に1台、2人で1台のiPadを共有するケースが多かった」(平井氏)という。
1台の端末を複数の児童が共有して使用するようになったこの段階から、「児童1人ひとりのデータをどう保管するかが課題となった」と平井氏は話す。古河第五小学校では、オンラインでデータを保管できる米Googleのオフィススイート「Google Apps for Education」を導入して対応を図った。
その他、LoiLo(横浜市中区)の教育機関向けプレゼンテーションアプリ「ロイロノート」やMetaMoJi(東京都港区)の手書きノートアプリ「Note Anytime(現MetaMoJi Note)」も導入(写真4)。無線LANアクセスポイントやセットトップボックスの「Apple TV」も整備した。
第3段階:1人1台のiPad導入 IT活用に手応え
第1段階と第2段階の取り組みでちょうど1年が過ぎ、2年目に入ってからは全校児童を対象に1人1台のiPad導入を実施した。1人1台環境では、画像や文字、音声といったデータを利用して、思考過程や学んだ結果を表現する学習活動を多く取り入れた(写真5)。
児童が家庭へiPadを持ち帰れるようにしたのも大きな取り組みの1つだ。放課後に商店街の取材をしたり、家庭の栽培記録をiPadのカメラで撮影したりするなど、校外での学習用途も広げていった。「1年目は“下地作り”だったが、2年目に入ってからはITを使った学習の手応えを感じ始めた」と、平井氏は当時を振り返る。
平井氏は、同校在任中にさまざまなIT機器を検証・活用してきた。平井氏が同校で扱った製品の一部である25製品を同氏の所感やアドバイスとともに「古河市立古河第五小学校が導入したIT製品一覧」にまとめた。
一覧表を無料ダウンロード(TechTargetジャパン会員限定)
ITが不得手なベテラン女性教員をあえて主役に
平井氏の実践で特筆すべき点は、当時、校内で授業力を最も評価されていた50代のベテラン女性教員を取り組みの中心に据えたことだった。IT機器といえば、若手男性教員の得意分野というイメージが根強いが、同氏はあえてITが不得手なベテラン女性教員に白羽の矢を立てた。
「授業力があるベテラン教員は、IT機器に限らず教具の使い方が全般的にうまい」と平井氏は話す。こうした教員は、授業において学習の狙いを達成するために、どの場面で教具を使うのが望ましいかを判断するスキルを持っており、授業へ効果的に組み込むことができるからだ。
教員の勤続年数や年齢などは、IT機器活用の巧拙には直接的な関係はない。だが「IT機器を使った授業では、今まで以上に教員の“授業力”が求められる」というのが、平井氏の考えだ。ITに強い若手教員の“IT活用教育への思い”を頼りにするよりも、授業力の高いベテラン教員にリーダーシップを発揮してもらい、“授業力向上”に重きを置いて進めていく方が大切だと考えた。
ベテラン女性教員のIT機器の使い方を見て、若手教員も学ぶ。教員全員が、児童の思考力・判断力・表現力を育てるためにIT機器を利活用するという共通目標を与えたことが、現場の共感や推進につながったといえる。
「IT活用の目的を発信し続けること」こそ校長の役割
平井氏は、古河第五小学校での取り組みを「校長主導だからこそ、今後の方向性を示しながら素早い意思決定で進めることができた」と自己評価する。一方で同氏は、多くの公立の教育機関が教育のIT化を進めていくためには、「学校や教員の力だけでは難しく、企業との連携が必要だ」と語る。そのためには、「教員が新しいことを試す時間を確保したり、学校が持っている内向きの姿勢を変えていく必要がある」と同氏は指摘。企業からのアプローチを待つだけでなく、教員が学校の外へ出ていく機会が、教員の姿勢を変えるきっかけになるという。
一方、現場での一番の課題は「インフラの整備と教員の育成だ」と平井氏は話す。インフラについては無線LAN環境を挙げ、「いくら整備したいと思っても、校長主導では進められない部分だ」と明かす。インフラ整備には行政が関与するためだ。そのため古河第五小学校では、限られた有線LANポートに無線LANアクセスポイントを幾つもつないで使用しているが、接続が安定しているとはいえないという(写真6)。「無線LAN接続が安定すれば、学習活動が多様になる。一番コストを掛けてほしいのはインフラの部分だ」と同氏は主張する。
教員の育成については、「IT活用の“種まき”ができる教員を増やす必要がある」と平井氏は語る。特に校長や教頭などトップ層にいる教員に対して、ITを使った教育についてトータルな視点で教えることができる人材が必要だという。平井氏は2014年度から務める古河市教育部指導課課長として、こうした活動にも尽力する。古河第五小学校での取り組みを市全体の学校に展開するために、同校内に教員研修の場を設け、ワークショップなどを通して教員が学べる機会を生み出す。
校長という立場を生かし、IT活用をスピーディーに進めることができた平井氏。だがトップダウンでの取り組みは、どこかで歯車が狂えば現場の教員の反発を招いたかもしれない。そこをうまく進めた平井氏の手腕は、IT導入の目的を児童主導の授業へ転換すること、教員の授業力向上だと位置付け、そのメッセージを発信し続けたことにこそある。何のためのIT導入なのか、この問答を繰り返すことが校長の役割だといえる。
執筆者紹介
神谷加代(かみや かよ)
フリーランスライター/ブロガー。結婚を機にサンフランシスコに移住し、日本語の絵本を扱ったECサイトを運営。その後、10年の在米生活を経て帰国し、主婦ブロガーとして「家庭×教育IT」に関する話題をメインにした「主婦もゆく iPad一人歩記」を執筆。家庭や教育におけるITの在り方を主婦目線で描き、教育関係者をはじめとする多くの読者から支持を得ている。現在は教育ITの分野を中心にライター業、子ども向けプログラミング教室の講師として活動中。著書に『iPad教育活用 7つの秘訣』。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社MatrixFlow] 「物流リソース最適化」ガイド:人員・配車・傭車を出庫依頼の確定前に決めきる -
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
3
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
4
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
5
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
6
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
7
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
8
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
9
「結局使わなくなる」Microsoft 365 Copilotを半年で定着 キリンの3施策
-
10
「中堅・中小企業のネットワーク・セキュリティ運用実態」に関するアンケート
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー