攻撃者のこれまでの手口とは
iPhoneのパスワード自動入力「iCloud キーチェーン」が安全とは言い切れない理由
iPhoneやMacのパスワード管理「iCloud キーチェーン」の過去のバージョンには脆弱性が存在した。攻撃者はどのようにデータを盗み取ることが可能だったのか。
Appleは、macOS 8.6においてキーチェーンパスワード管理システムを導入した。その後にリリースされた各macOSにも組み込まれているが、キーチェーンは、パスワードやネットワーク共有、メモ、証明書、クレジットカードの詳細な内容、その他さまざまな機密データを集約的に保管する機能を提供する。
使い勝手の良いアプリケーションの需要に加えて、クラウドアプリケーションやパスワードマネジャーの人気が高まる中、Appleは、従来のキーチェーンシステムから一歩踏み込んでiCloud キーチェーンを導入した。このクラウドサービスによってmacOSとiOS間で全てのキーチェーンデータを常に同期できる。ユーザー目線では、iCloud キーチェーンは素晴らしいサービスだが、機密データの移動および保管と関連したセキュリティリスクがあるのは言うまでもない。
公開された脆弱(ぜいじゃく)性
同期するデータのデバイス間での転送はエンドツーエンドの暗号化によって保護されている。Appleは、この暗号化にOff-the-Record(OTR)プロトコルを利用している。OTRでは、AES 128-bit対称キーアルゴリズムとDiffie-Hellmanキー鍵交換、そしてSHA-1を組み合わせてハッシュ化している。デバイスに固有のキーを追加的なセキュリティレイヤーとして利用するため、ユーザーの機密データにはそれなりのセキュリティが確保される。
しかし、2017年3月に、Longterm Securityのセキュリティ研究者が、OTRの実装に欠陥を発見した。簡単に言うと、暗号化それ自体を破るのが無理な場合、転送データは欠陥のある別の方法を経由してやりとりせざるを得なくなる。この脆弱性がCVE-2017-2448と記録されており、Black Hat USA 2017のプレゼンテーションで取り上げられた。
エクスプロイト攻撃
iCloud キーチェーンのセキュリティの中核は、署名同期サークルである。このサークルは、相互接続された信頼できるデバイスから構成され、それら全てのデバイスが同一のiCloudアカウントを利用する。
これらサークル内の信頼できるデバイス間での通信には、各デバイスにひもづけられた同期IDキーと、ユーザーのiCloudパスワードから生成されるキーを組み合わせてセキュリティを確保する。新しいデバイスをこのサークルに追加する場合、既存のデバイスが署名確認プロセスを通して新しいデバイスを承認する必要がある。
研究者は、個別に生成されたパケットを介して署名確認エラーに対しエクスプロイト攻撃する方法を発見した。この方法はOTRセッションを確立してしまい、対象ユーザーがiCloudパスワードを所有している場合、パスワードやクレジットカード情報などの同期されているユーザー機密情報にアクセスできるようになる。
秘密情報の漏えい防止
2017年3月27日に、AppleはiOS 10.3のアップデートをリリースした。このアップデートは「確認プロセスの改善」によって、上記のCVE-2017-2448に対処した。つまり、iCloud キーチェーンの脆弱性が修復されたということだ。しかし、類似の攻撃ベクターが依然として存在する。
モビリティーや、クラウドストレージの利用や管理は、個人と企業をつなぐ上で重要な位置を占めるようになってきた。そこで、これらの技術に対する全体的なセキュリティポリシーが必要となり、このセキュリティポリシーを用いると、今後、脆弱性が新たに生まれることがあっても類似の攻撃を防ぐことが可能になる。
従業員のモバイルデバイス上に会社のデータの保存を許可している全ての企業は、 モバイルデバイス管理(MDM)を実施することをお勧めする。デバイスにサインアップし、イントラネットや電子メールなどのアプリケーションを介して企業のデータを利用するためには、従業員がMDMエージェントを介してセキュリティ管理を組織に任せる必要があるようにするとよい。
つまり、例えば、会社のいかなるデータをデバイスに移動することを許可する場合でも、その前にセキュリティ管理担当者がパスワードポリシーの適用や暗号化を必ず実施するということだ。また、これは、パッチのレベルが監視および管理されることも意味する。iCloud キーチェーンのOTR脆弱性が修復されたiOS 10.3のアップデートの場合、このパッチをデバイスの技術要件として設定できるが、場合によっては従業員が自分のデバイスをできる限り早くアップデートする必要があることを単に通知されるだけの可能性もある。
「VMware AirWatch」または「Cisco Meraki」などのMDM機能もしばしば、組み込みもしくはサードパーティー製のホストベースのマルウェア保護や侵入防止システム(IPS)を提供する。IPSエージェントはデバイスに対する怪しい挙動または中間者攻撃を検知し、報告できる。適切に監視されていれば、ゼロデイ段階の初期からこのサービスが脆弱性やエクスプロイトを検出し、防止できるだろう。
2要素認証をiCloudで利用していれば、CVE-2017-2448のエクスプロイト攻撃が成功しても、その影響を大幅に抑えられただろう。この攻撃者はOTRセッションやiCloudパスワードにアクセスできていたのかもしれないが、認証要件の最後の部分、つまり、アウトオブバンド方式でアカウント所有者に送られる一時認証コードにアクセスできなければ意味がない。
AppleのiCloudやiOSに重要度の高い脆弱性があることは比較的まれである。とはいえ、存在することもある。最新のモビリティー技術を利用するリスクをよく理解した上で、企業や個人のデータに対する多くのリスクを防ぐために強固なセキュリティ管理を用意することをお勧めする。
データが個人の写真やクレジットカードの情報から構成されていても、会社のパスワードの集まりから構成されていても、根本的なセキュリティ原則は同じだ。パッチ管理や暗号化、パスワードポリシー、2要素認証などのセキュリティ管理を用いれば、ほとんどのデータの安全を確保できる。また、このようなセキュリティ管理を常に実施することが重要だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
SNS認証や多要素認証も数分で実装、IDaaS基盤でデジタルビジネスはどう変わる? -
製品レビュー
「電子帳簿保存法対応」実践術:タイムスタンプ付与などの要件の手軽な実現方法 -
事例
「大企業のデジタル化」成功事例集【コクヨ、九州電力、ヨネックスなど21社】 -
製品資料
“顧客管理の課題”を簡単に解決する方法とは? -
製品資料
契約管理の“あるある課題”をノーコード開発で解決するためのポイント
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
Microsoft製品でここまで自動化できる 情シスがやめられる手作業10選
-
2
Oracle巨大ITプロジェクトはなぜつまずいたのか 8年で導入1割、追加で170億ドル
-
3
「技術屋」で終わらないために 情シスが今取るべき認定資格5選
-
4
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
5
「即戦力」は幻想? 中途の3割が消えるAI時代のエンジニア生存戦略
-
6
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
-
7
ISMSの“コンサル丸投げ”が招く数千万円の無駄 NTTドコモビジネスの脱出劇
-
8
Synologyがエンタープライズ向けユニファイドストレージを投入 その実力は
-
9
サーバ刷新は「様子見」33.2% Dell調査が映すBroadcomショックの余波
-
10
IBM iのブラックボックス化を打破 資産継承と進化を実現する「IBM Bob」の実力
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AIエージェントで多様な日常業務を効率化するための入門ガイド
-
2
AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
-
3
JR西日本ITソリューションズが「監視業務の属人化」を解消した方法とは?
-
4
5回聞くだけじゃ足りない? トヨタ式「なぜなぜ分析」の正しい実践方法
-
5
「脱Excel」か「Excel快適化」か? 現場にやさしい業務改善の進め方
-
6
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
7
「結局、一部の人しか使わない」 AI活用が業務に定着しない根本的な理由
-
8
AIエージェントで成果は出る? 調査結果に見る費用対効果の実態
-
9
PostgreSQLの「機能」「性能」「運用」「拡張性」に関する悩みの解消法
-
10
ゼロトラストにおける「IDaaSの課題」と補完すべき重要機能とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー