メーカーに命を預けられるか
自動運転車がハッキングされ暴走? 起こり得る最悪のシナリオと対策
コネクテッドカーもIoTデバイスの一種である以上、セキュリティの脅威と無縁ではいられない。自動車メーカー各社はどのようにして自社のネットワークを安全に運用できるのか、慎重な判断が必要だ。
筆者は時々、既に未来が来ているのではないかという錯覚にとらわれることがある。父親が乗っていた1970年型「Ford Escort」はマニュアル車で、エアコンは備えていなかった。後部座席にはシートベルトも付いていなかった。当時は後部座席でシートベルトをする人などいなかったからだ。だがどういうわけか、シートベルトを付けずに白く輝くFordの新車を乗り回すのは危険だという不安が父の頭をよぎることはなかったようだ。45年後に「Tesla」のような技術を搭載した電気自動車が登場し、自動車業界の次の大きな変革が自動運転車になろうとは、当時、誰が予想しただろうか。
自動車産業の未来に向けて進行中の革命は大きな可能性を秘めている一方で、深刻な脅威もはらんでいる。その脅威は個人のレベルにとどまらず、全世界規模で各国に影響を及ぼす可能性がある。こう書くと大げさだという批判もあるだろうが、以下の説明を読んでいただきたい。現在開発が進んでいるインテリジェント型コネクテッドカーは基本的にモバイルIoTデバイスであり、ディーラーから顧客の手に渡った後も長い間、自動車メーカーの社内ネットワークに組み込まれたままなのだ。
言い換えれば、車のセキュリティを確保し、車載ソフトウェアにパッチが適用され、人命を危険にさらす恐れのある攻撃をハッカーに仕掛けられないようにするには、メーカーの技術に依存せざるを得ないということだ。この懸念を具体的に示したのがチャーリー・ミラーとクリス・バラセックという2人の研究者だ。両氏は2015年、「Jeep Cherokee」のエンターテインメントシステム「Uconnect」をハッキングし、車の走行中にトランスミッションとブレーキを制御不能にするのに成功した。両氏はさらに、車がバックしているときに遠隔操作でハンドルの制御を奪うという恐ろしいハッキングが可能であることも示し、この“スマートカー”で見つかった深刻な脆弱(ぜいじゃく)性を自動車業界に知らしめた。このハッキングはテスト環境で行われたものだが、もしその車が実際の路上で走行中であった場合は、こうしたハッキングは人命にかかわる深刻な結果をもたらしたかもしれない。
この例は、自動運転車に固有の深刻なリスクの一面にすぎないと考えるべきだろう。運転の操作とスキルが全て自動化されるために、危険なハッキングの可能性が大幅に高まるのだ。もしドライバーが居眠りしたら、どうなるのだろうか。気が付かないうちに重大な事故や悲劇が起きていたということにもなりかねない。その場合、ドライバーが注意義務を怠った責任を問われるのだろうか。こうした悲惨な状況を招いた責任は、受動的なドライバー側にあるのだろうか、それとも自動車メーカー側にあるのだろうか。
スマートカーの脆弱性を見つけたチャーリー・ミラー氏は、自動運転車のセキュリティ侵害の可能性について調査した。「自動運転車は、何かおかしくなれば重大な結果につながる技術の中で最も恐ろしいものだ」という同氏の結論を、われわれは真剣に受け止めるべきだろう。自動運転車はコンピュータの制御下にあるため、ハッキングを受ける可能性が高く、大規模なテロ攻撃のような事態を招きかねない。
自動車技術の変革に伴う多数のセキュリティ問題に対し、自動車メーカー各社はどのようにして自社のネットワークを安全に運用できるのだろうか。絶えず進化する脅威から自動車を守るには、継続的かつ積極的な取り組みが不可欠だ。自動車ネットワークのセキュリティ問題に対処する手段の1つが、公開鍵インフラ(PKI)による認証だ。IoT(モノのインターネット)におけるPKIの役割は、システムやデバイス、アプリケーション、ユーザーがセンシティブなデータを安全に扱うのに必要な証明書を利用して強力な認証機能を提供することだ。適切なセキュリティ対策を備えたコネクテッドカーが開発されなければ、組み立てラインから出た自動車は、攻撃者にとって格好の餌食となるだろう。
自動車の発明以来最大の技術革新となるコネクテッド型自動運転車が、ついに現実になってきた。だが、自動運転車が情報だけでなく人々の生命をも脅かす深刻なセキュリティリスクをもたらすことを考えれば、父親の古いFordの後部座席に戻りたい気持ちになる。当時は後部座席にシートベルトが付いていなかったが、少なくともドライバーを信頼していた。
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