生鮮食品eコマースのIT戦略(後編)
料理人向けeコマースの八面六臂が考える「ビジネスをばくちにさせないIT活用」とは(2/2 ページ)
GPSで配送トラックを追跡、走行履歴解析でルート改善
続いて、物流の問題について整理してみよう。生鮮食品は、仕入れから納品までをスピーディーにする必要がある。生鮮食品は冷蔵状態での輸送を必要とするものが多く、業務用では物量も大型化しやすい。この要素を踏まえると、輸送を一般的な宅配便業者に委託するのは容易ではない。
松田氏は「八面六臂のビジネスにおいて、物流を他社に委託することはリスクになる」と考えている。輸送を他社に任せると、遅配や紛失といったトラブルが起きた場合に自社だけで問題を解決するのが難しくなるからだ。さらに近年、宅配便業者が相次いで値上げを発表していることは、あらゆるeコマース事業者にとって無視できない問題となっている。
だからこそ八面六臂は、1都3県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)の配送ネットワークを自社リソースでまかなっている。配送に関わるシステム開発だけではなく、トラックやドライバーの手配といった物理的な要素も含めて自社で運営しているのだ。松田氏は「物販にとって物流は命綱です。だから当社は配送網を自社で運営しています」と強調する。
八面六臂の配送管理システムでは、車両に搭載したGPS(全地球測位システム)で現在位置を把握し、Googleの地図サービスAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)「Google Maps API」を用いてリアルタイムでトラッキングしている。イメージとしてはタクシー配車アプリのように、配送中のトラックの現在地を地図内に可視化するものだ。この仕組みは幾つかの点でコスト削減に寄与している。
代表的な効果は、問い合わせにかかるコストの削減だ。仕込み準備中の飲食店から「食材はいつ届くのか」という問い合わせが発生する状況を考えてみよう。配送管理システムがない場合は、次のようなステップで対応することになる。
- 問い合わせを受けたオペレーターは、配送中のトラックドライバーに状況を確認する
- 配送ドライバーは、おおよその現在地から予測した納品時刻を答える
- オペレーターは、その回答を基に顧客に回答する
この例では残念ながら、問い合わせのやりとりで時間を消費しているにもかかわらず、顧客に回答した納品予想時刻は「ドライバーの勘」であり、正確とは限らない。配送管理システムがあれば、GPSに基づいた精度の高い位置情報から、即座に配送状況を把握できるのだ。トラックの現在位置と(交通状況を加味した)納品予定時刻は、オペレーターだけでなく顧客自身もWebサイトのマイページから確認できる。配送管理システムが顧客に安心感を与え、問い合わせの削減につながっている。
配送管理システムに蓄積した走行履歴のデータは、配送ルートの最適化にも役立っている。分析担当者は走行履歴データを分析することで、配送の道筋や順番に無駄はないかどうか、改善の余地を模索し、改善できることがあればドライバーに伝えている。走行履歴データから配送原価率も計算し、効率化の参考にしているという。
ITの効率化は、ビジネス競争力にも貢献
このように、八面六臂は自社ビジネスのコア要素である決済と物流をITで徹底的に効率化し、コスト削減を進めている。会社にとって致命的なリスクを減らしつつ、商品力を高めようという基本思想を貫いている。
松田氏は、メトリクス(注1)は経営判断に必須の情報だと考えている。計測できる要素は可能な限り計測し、データを集めているという。結果が確実に把握できればできるほど、経営判断から運や賭けの要素を減らせるからだ。「さまざまなシステムログから取得できるメトリクスを活用できれば、ビジネスは“ばくち”ではなくなるのです」(松田氏)
注1:さまざまな活動を測定して定量化し、そのデータを管理に使えるように加工した評価指標。
松田氏はこう語る。「魚の値段は、どこで仕入れても大きな違いはありません。しかし実際の価格には、さまざまな人件費やコストが上乗せされています。われわれはITで徹底した経営効率化を実現することで、上乗せされていたコストを可能な限り削減し『商品力』を高めようとしています」。松田氏が定義する「商品力」は「価格、品質、品ぞろえ」だ。IT化によってコスト削減が実現できれば、食材をより安価に提供できるようになる。余剰資金を使って、扱う食材の品質やラインアップの強化を図ることも可能になる。サービスの価値を高め、顧客である飲食店に貢献したいという思いがあるのだ。当初は鮮魚販売に特化したeコマースサイトだった八面六臂が、今では精肉や野菜、調味料なども扱うようになったことは、商品力強化の信念を体現した好例だ。顧客数も順調に増加しているという。
アナログ要素の根絶が、真の「IT化」
現在の八面六臂のシステムは、サービス立ち上げの発端となった受発注システムに加え、決済サービスと配送管理システム、そして検品や倉庫の在庫管理システムなど多岐にわたる。あらゆるワークフローをIT化する方向でシステムを発展させてきた松田氏は「一部でもアナログ作業が残っていれば、IT化とはいえません」と断言する。
IT化がもたらすのは効率化やコスト削減だけではない。例えばドライバーの走行履歴データを分析して配送の改善につなげたことは、これまで職人芸とされていたような属人的要素を標準化し、安定したオペレーションを実現することに貢献している。
今後のビジネスで強化したい要素について、松田氏は「マーケティング」を挙げる。新規顧客の開拓も、既存顧客へのアピールも続けて、いかに買い続けてもらえるか。価格、品質、品ぞろえといった商品力に加え、必要なタイミングで素早く配達できることが八面六臂の強みだ。さらに商品数を増やしたり、旬の食材に関する情報を顧客に提供したりすることで、飲食店に飽きられない“ショップ”としての魅力も高めていく。
システムの保守も欠かせない要素だ。ビジネスが今後どれだけ拡大しても、これまで通りの品質を維持するための施策も要る。「必要最低限のシステムがそろったからこそ、今後はブラッシュアップを重ねて完成度を高めていく」という。
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