“脱Excel”か“活Excel”か
古いExcelマクロとお別れをする方法、ヒントは「ECRSの原則」
古いExcelマクロが「先祖代々受け継がれた」と呼ばれるほど愛用され続けるケースがあります。しかしマクロの不具合をメンテナンスできないまま、現場の手作業でカバーすることには大きなリスクを伴います。
意外と存在する「先祖代々受け継がれるExcelマクロ」
「先祖代々受け継がれていくもの」といえば、家訓や商売道具、土地、家宝といったところでしょうか。このようなものであれば、家系が続いてきた証として、可能な限り、未来へ受け継いでいくべきだと思います。一方で企業内にも「先祖代々受け継がれてきた」と形容したくなるほど長きにわたって使用されている、「Microsoft Excel」(以下、Excel)のマクロが存在することがあります。
Excelの普及が本格的に始まったのは「Excel 95」が発売された1995年以降であり、既に20年以上の月日がたっています。さすがに20年も使い続けられているExcelマクロを見掛けることはほとんどありませんが、10年近く使用され続けているExcelマクロを見掛けることはそれほど珍しくありません。技術の進歩が著しいITの世界においては、10年近く使用されていれば十分「長期にわたって使用されている」といえるでしょう。長く使われているということは、それだけ業務に欠かすことができない重要なExcelマクロであるということかもしれません。しかし、これらのExcelマクロは本当に末永く使用し、未来へ受け継いでいくべきなのでしょうか。
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Excelマクロ運用に潜むリスク
長期にわたって使用されているExcelマクロといっても、その運用が常に安定しているとは限りません。Excelマクロを扱うスキルを持つ人が、業務の変化に対応して、適宜Excelマクロに機能を追加したり、変更したり、定期的にメンテナンスをしている間は、問題が発生することはほとんどありません。ところがExcelマクロを扱うスキルを持つ人が、社内異動や退職などで部署から離れてしまった場合はどうでしょうか。もし、部署内にExcelマクロを扱うスキルを持つ人が他にいなければ、Excelマクロのメンテナンスに関する引き継ぎが行われないこともあるでしょう。とはいうものの当面は、問題が顕在化することはありません。業務に何らかの変更があり、Excelマクロに機能を追加したり、変更したりする必要に迫られなければ、業務は通常通りに実施することが可能だからです。
それでもいつかは、Excelマクロに手を加えなければならないときは訪れます。そのときに取り得る方法は3つ考えられます。
1つ目は、部署内の誰かがExcelのスキルを学習し、自力で手を加える方法です。一からExcelマクロを作るわけではありませんから、小規模の機能追加や変更であれば、解説書やWebサイトで調べながら独力で対応することも可能です。
2つ目は、異動してしまった前任者に手を加えてもらうことです。部署を異動した以上、本来は業務範囲外となってしまうため、断られてしまう可能性もあります。しかし引き受けてもらうことができれば、目の前の問題は解決できます。前任者に断られても、他部門にExcelマクロを扱うスキルを持つ人がいれば、対応を依頼することもできるでしょう。
3つ目は、Excelマクロに手を加えずに、業務の変更に手作業で対処することです。Excelマクロを使用する場面は、何らかのインプットを基に目的のアウトプットを得る場合がほとんどです。業務の変更により、Excelマクロが目的のアウトプットができなくなってしまうのなら、インプットの時点か、もしくはアウトプットした後で、目的のアウトプットになるように手作業で修正すれば、業務自体は遂行できます。ただし当然、以前よりも業務に時間がかかることになります。
このように部署内にExcelを扱うスキルを持つ人が複数所属している状況を常に保っておかないと、長期にわたってExcelマクロを適切に運用することには、困難が伴います。
業務プロセスの見直しが、Excelマクロとお別れをするための近道
適切に運用できていないにもかかわらず、Excelマクロは、どうしてその状態のまま、長期にわたって使用されてしまうのでしょうか。それは上述したように、Excelマクロを扱うスキルを持つ他部署の人に手を加えてもらったり、Excelマクロの機能が使えなくなった業務については手作業で対処したりと、現場の対応で何とかしてしまうからです。
こうした対応は「現場の知恵」と呼ぶこともできますが、そのExcelマクロを使い続ける限り、同じ対応を何度も繰り返すことになります。つまりExcelマクロを使うことが業務実施の前提となっており、現場の視野が狭くなっていることが、そもそもの問題なのです。
この問題を解決するには、「ECRSの原則」を用いて業務プロセスを見直してみるとよいでしょう。ECRSの原則は、生産現場でよく使用される考え方ですが、事務業務でも十分に応用可能です。ECRSの原則では次の4つの原則に照らし合わせて業務の改善策を検討します。
- E:Eliminate(排除)
- C:Combine(結合)
- R:Rearrange(順序の変更)
- S:Simplify(簡素化)
検討は、E→C→R→Sの順に進めます。このとき重要なことは、部署内の状況だけで検討せず、業務に関わる他部署も含めて検討することです。例えばE(Eliminate:排除)を検討するとき、Excelマクロを使用した業務のアウトプットを使用する他の部門に、そのアウトプットの必要性や重要性を確認してみると、当初は必要だったが、時がたつにつれて必要なくなった部分が見つかったりします。長く使用している間に、外部環境や企業の内部事情が変化しているからです。同様にC(Combine:結合)を考えるときは、インプットするデータを他部門から受け取る時点で、よりアウトプットに近い状態で受け取ることができるかもしれません。特にWebシステムからインプットを受け取る場合、Webシステムがリニューアルされており、よりアウトプットに近いデータを出力できるように機能が追加されている場合があります。このようにして部署内で実施するそもそもの業務量を削減できると、次の原則であるR(Rearrange:順序の変更)やS(Simplify:簡素化)ができる環境が整います。削減した業務に、これらの原則を活用し、手順を見直すことで、長年受け継いできたExcelマクロを使用することなく、必要なアウトプットが得られるようになることもあります。
このように定期的に業務プロセスを見直すことが、先祖代々受け継がれたExcelマクロを使い続けることによるリスクを回避する一番の近道なのです。
このコラムについて
ほとんどの企業が使っている表計算ソフト「Microsoft Excel」。便利なツールですが、本来の目的を超えて“使いこなし過ぎる”ことが、かえって業務効率を低下させてしまったり、業務の属人化につながってしまったりする場面があるのではないでしょうか。
このコラムでは、日常業務でよく見掛けるExcelの活用例を紹介しながら「こんな場面は脱Excelを考えた方がよい」「こういうExcelの活用法はお薦め」といった知見を紹介します。
村山 聡(むらやま・さとし)
1971年愛知県生まれ、名古屋大学経済学部卒、中小企業診断士。
IT企業在職中に、単一業種においてキャリアを積んでいくことに疑問を感じ、どんな業界、職種でも通用する知識を得るべく中小企業診断士を取得。複数社を経て、現在の勤め先にて、コンサルタントとして、データを活用した業務効率改善に取り組む。
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