覇権争いが激化
AIを巡る国家戦略 米中、そして日本の動向は?
AIの研究開発は現在、米国と中国が主導する状況だが、世界中の国家が競争力を維持しようと戦略を練っている。
先進国のほとんどが今、働き方や社会・経済運営の変革を目指してAI戦略の策定を進めている。だが、機械学習は70年ほど前から存在していたにもかかわらず、なぜ今になって、国家がAI戦略の策定に乗り出したのか。そしてなぜ、どの国もまだ、AI産業で独占的な地位を確立するに至っていないのか。
現在のAIは米中が主導
米国と中国はこのところ、AIに照準を絞った起業で注目を集めており、人材の輩出や投資もこの2カ国が中心だ。米国と中国のAI新興企業は目を見張るほどの投資を集めている。例えば中国の新興起業SenseTimeはAI新興企業で、これまでに16億ドルの出資を集めた。2017年の1年間だけで、AIに照準を絞った新興企業は120億ドルもの出資を集め、今後も投資が減速する兆しは見えない。
中国政府はAIを戦略的に不可欠なものと見なし、この業界の発展のために多額の投資を行っている。1年ほど前、中国は3段階のプログラムを打ち出し、2030年までにAIの世界リーダーになるという目標を掲げた。中国は軍事利用やスマートシティー、福祉分野での利用を想定してAIで大きな賭けに出ている。その中には顔認識技術の広範な利用も含まれる。
国民のプライバシーに関する中国の法規制は、特に欧米諸国に比べると、極めて緩い。顔認識といったAI技術の利用は今や常態と化し、国民はプライバシー保護をほとんど期待していない。中国には現在、1億7000万台の監視カメラが設置されており、2020年までにその台数は5億7000万台を超す見通しだ。カメラの多くはAI対応機能が搭載されており、そうしたカメラを相互接続してネットワークを構築することで、交通規則を無視した道路の横断から強盗に至るまであらゆる犯罪の取り締まりが強化でき、犯罪予知を試みることさえ可能だと同国は主張する。これは全て、14億人の人口を常に監視することが前提となる。
中国がAIへの投資を加速するようになったのはごく最近のことだが、米国はAIおよびIT全般の戦略開発に関して深いルーツがある。人工知能という用語は、米国の大学教授が1956年、ダートマス大学のサマーカンファレンスで初めて打ち出した。結果的に、米国は学術大国として、AIの研究分野確立に尽力してきた多くの大手研究機関を擁し、IT分野でトップ級の人材が、今もAI能力の限界を押し広げている。
そうした研究を後押ししているのが、強大かつ最先端のIT大手、Amazon、Apple、Facebook、Microsoft、Google、IBMであり、こうした各社は自らをAIファースト企業と位置付けて、AI技術に積極的な投資を行っている。中国と同様、米国でも、AI新興企業は巨額の出資を集めている。具体例を挙げると、Dataminrは5億7700万ドル、CrowdStrikeは4億8100万ドル、InsideSales.comは2億5120万ドル、Pony.aiは2億1400万ドルの出資を取り付けた。
米政府はAIに関する包括的な国家戦略は打ち出していないものの、連邦政府は軍事と防衛の分野におけるAI開発を後押しする目的で2018年5月に作業部会を設置した。だが米国はAIを巡り、中国だけでなく、世界のあらゆる国との間の覇権争いに直面している。
AI投資を加速させる欧州諸国
欧州では多くの国が、独自のAI戦略策定の重要性に目を向けるようになった。英政府は2017年11月、AIとロボット工学プロジェクトに6800万ポンド(8650万ドル)を拠出し、過酷な環境での安全対策の向上を目指すとともに、新しい研究拠点4カ所に資金を拠出して、オフショア風力発電や原子力発電の安全性向上に向けたロボット技術開発に当たると発表した。ケンブリッジ大学は1300万ドルのスーパーコンピュータを導入し、英国企業がこのスーパーコンピュータをAI関連のプロジェクトに活用できるようにする。英国はまた、自らを倫理的AIのリーダーと位置付け、世界標準の確立を支援しようとしている。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領はAIに関して非常に強気の姿勢で、2018年初め、AIのための国家戦略を発表した。今後5年間でAI関連研究に15億ユーロを投じるとともに、台頭する新興企業を支援する。フランスの計画は、健康、輸送(自動走行車を含む)、環境、防衛/安全保障に関連した4分野に照準を絞る。
長年にわたり、優れた工業能力を持つ産業大国と見なされてきたドイツも、多数のAI人材を抱える。ベルリンは現在、欧州一のAI人材ハブと見なされている。ドイツ南部の新興IT集積地Cyber Valleyは、学術機関とAI企業が連携する新しい機会の創出を目指す。さらに、ドイツで特筆すべき自動車産業は、長年にわたるイノベーションの実績を持つ。自律式運転に関する世界の特許のほぼ半数は、ドイツの自動車業界の企業や、Bosch、Volkswagen、Audi、Porscheといったサプライヤーが保有している。
無視できないアジア諸国のAI戦略
日本はロボット工学の発展と採用に関する長年のリーダーだった。2017年3月に日本政府が発表した「人工知能の研究開発目標と産業化のロードマップ」は、3フェーズによるAIの発展に照準を絞る。2020年までのフェーズ1ではAIの利活用、2025年~2030年のフェーズ2ではAIの一般利用、2025年~2030年のフェーズ3では各領域が複合的につながったエコシステムの構築を掲げている。
この戦略は、AIの研究開発に重点を置くと同時に、産業界と政府および学術機関が連携してAI研究を進展させ、生産性の向上や福祉、モバイルに関連した分野での活用を目指す。日本はまた、この業界で最大級のベンチャーファンドを運営するソフトバンクグループの本拠地でもあり、同社は業界を一変させ得るAI企業に1000億ドル以上を投資している。
韓国もまた、人工知能にまつわる野心的な計画を持ち、AIと無縁ではない。2016年に同国で行われた有名な対局では、DeepMindの「AlphaGo」が、韓国出身の碁の世界チャンピオン、李世ドル氏に勝利した。AIエンジニアの人材不足に対応して、韓国は2020年までに少なくとも6校のAIスクールを新設し、高度なスキルを身に着けたエンジニア5000人以上を新規に養成する計画だ。政府はまた、AI指向の企業インキュベーターを創設し、国内の新興企業を後押しする。さらに、医療、国防、公衆安全に関連した大規模AIプロジェクトに資金を拠出するほか、米国防高等研究計画局(DARPA)が主催しているようなAIの研究開発を競う場を設ける。
世界中のAIプロジェクト
AI技術には大勢の人々の生活を一変させ、影響を及ぼす力がある。これほど多くの国がこの技術に重要性を見いだし、それを中心とする戦略を採用している一因はそこにある。AI技術は既に、労働市場や国家の防衛戦略、サイバーセキュリティ、運輸、倫理および市民生活に関連した他の多くの局面に劇的な影響を与えつつある。そうした理由から、ここで紹介した各国や、その他の国は、経済を変革させ得るこの業界の発展に乗り遅れまいと、包括的なAI戦略の策定に乗り出している。従って、AIの覇権争いはまだ始まったばかりであり、当面の間、減速する兆しは見えない。
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