時と場合に応じた選択を
中小企業がSaaS ERPの導入に踏み切る条件とは?
中小企業がSaaSのERPを導入しようとした場合、オンプレミスでの導入よりも多くの問題に直面する。そして、クラウドERPが全ての企業にフィットするとは限らない。
人工知能(AI)は少なくとも一部のアプリケーションでは定着したようだ。AIがビジネス、経済、さまざまなサービスにもたらすメリットは非常に大きい。だが、そうしたメリットは誰もが平等に受け取れるわけではない。
大半の主要なSaaS(Software as a Service)のERPの場合、コストはそれほど問題にならない。各ERPには何らかのAIが組み込まれており、そのほとんどは企業の規模に関係なく利用できる。問題になるのは「対象範囲」と「カスタマイズ性」だ。SaaS ERPで用意されている分析には制限があり、ユーザーは限られた分析しかできない。分析自体を拡張するのは言うまでもなく、出力結果を自社用に微調整するのも手間がかかり、大量のリソースが必要になる。
端的にいえば、クラウド型AIに頼りきりになることはできず、社内に分析スキルを有する人材が必要になる。しかし、そのコストは実に高額だ。
クラウド型AIの危険性
IBMの「Watson」やSalesforceの「Einstein」に見られるように、SaaSで提供されるAIには本質的な弱点がある。SaaSのAIは「誰もが満足するAI」「自社専用のデータサイエンティストのように働く」といった具合に、どのような用途でも使えると宣伝している。小規模企業に対しては「データを渡すだけで結果が得られる」というように、手軽さや便利さを売り込んでいる。当然話はそれほど単純ではなく、以下の理由からSaaS ERPの導入には慎重になる必要がある。
まず、内部のアルゴリズムがブラックボックスになっている点だ。用いるモデルの種類が異なれば、得られる結果も異なる。次に、結果を評価するにしても実際にどのような処理が実行されたかが分からない点だ。余分なデータは削ぎ落とされただろうか。どうすればそれを把握できるだろうか。結果の信頼性を高めるには何回処理を実行すればよいのだろうか。その答えは誰にも分からない。
データサイエンティストを雇う余裕はない
SaaSで提供されるAIは、企業が「自立」できない限り役に立たない。つまり、分析における問題を正しく設定し、適切なデータを準備し、結果を有意義に評価できる人材が社内に必要となる。
だが、こうしたスキルを有する人材を雇うにはコストがかかるし、見つけるのも難しい。特に中小企業では上記の条件を満たすような人材を確保するのが困難だ。データサイエンスの教育を受ける専門家の数が増え、データサイエンティストが使用するツールの性能が向上するにつれ、これらの問題は自然に解消されるだろう。しかし、現時点では何の解決策にもならない。
恐らく、EinsteinやWatsonといったクラウド型AIがもたらす最大の危険は、「真のデータサイエンティストはいずれ必要なくなる」という考えの流布だ。これは「全てのアプリ開発は間もなくコード記述の必要がなくなる」という迷信と似ている。だが現実的には、データ分析でもアプリケーション開発でも、コーディングと設計は必要だ。設計には、解決すべき問題とその問題を解決する技術を結び付ける深い知識が求められる。こうした知識の深さについては、人間は機械のずっと先を進んでいる。
確保しなければいけないのは熟練のデータサイエンティストだけではない。データ分析の基盤となるインフラも不可欠だ。社内でビッグデータ分析環境を構築しようとすると膨大なサーバリソースが必要になり、手間もコストもかかる。従って中小企業はクラウド型AIを採用せねばならず、その制限を受け入れるしかない。
クラウドとオンプレミスの選択
WatsonやEinsteinは基本的にペイパービュー方式、つまりSaaS ERPの基本機能以外を使った場合に課金する方式を採用している。インフラを購入するのではなく借用することで、自社では処理できないことに対処できる。具体的には、数TBの記憶容量を使った大規模ジョブの実行、R言語やPythonなどで記述した独自のコードによる処理、豊富な種類の組み込みAIによる顔認識、テキスト分析、感情分析などだ。
データの取得と格納も簡単にできる。SaaS型ERPの大半は、バージョンアップのたびに、ビッグデータのインポートとエクスポートが容易になっている。
ビッグデータを格納する領域は自社で持たず、習得が容易なツールセットを利用し、残りは外部に委託して、一歩ずつ着実に作業を進めていく――この一般的なフレームワークが、全てを自社でまかなえない小規模企業にとってのクラウド型AIと分析の方向性を示している。
しかしSaaS型ERPは全ての要素や専門知識が適切に提供され、実用的だからといって、常に最適な選択肢だとは限らない。時と場所によっては従来のオンプレミスを選択すべきだ。
多くの場所からデータが流れ込み、次々に発生する問題をリアルタイムで分析する必要がある場合は、SaaS型ERPが適している。一方で、主に履歴データを分析する場合はオンプレミス型ERPを導入すべきだ。そのほうがより導入コストを抑えられるだけでなく、軟性と適応性もあるため、既存プロセスと簡単に統合できる。社内スタッフも一度に増員する必要はなく、徐々に増やせばよい。
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