大企業向けから中小企業向けまで
いまさら聞けないSAPのERP 5大製品の特徴と最新動向をおさらい(1/2 ページ)
SAPが提供する5つの主要な製品である「SAP ERP」「SAP S/4HANA」「SAP S/4HANA Cloud」「SAP Business One」「SAP Business ByDesign」について、北米の最新事情から製品の概要や特徴を紹介する。
SAPは、業界や業種、ITアーキテクチャを問わず、あらゆる規模の企業が採用できる充実したERPシステムを提供している。そこに含まれるERP製品はさまざまな企業をターゲットにしている。そのターゲットには、ERPシステムをオンプレミスで運用しようとする大企業もあれば、クラウドへの移行によってレガシーシステムをモダナイズし、他のソフトウェアパッケージの統合を目指す企業もある。初めてERPシステムを導入するユーザー企業が多いが、クラウドベースのERPシステムの導入を考える小規模企業もターゲットだ。少しずつモジュールを拡大しようとする中小企業も同様だ。
製品の選択肢は非常に多い。そのため、SAP ERPシステムの導入を検討する企業は、ERPに対するニーズと予算を評価することが重要になる。サービスやサポート以外に、既存のITアーキテクチャも大切な検討事項だ。サービスやサポートは、ソフトウェアの導入時にしか必要としない企業もあれば、継続的に求める企業もある。自社のニーズによっては、インフラを完全に刷新する必要がない場合もある。というのも、SAPは同社のERPサービスをパブリッククラウドで運用できるよう拡大に努めているためだ。具体的には「Amazon Web Services」(AWS)や「Microsoft Azure」などのパブリッククラウドで運用可能だ。事実、SAPはこの両クラウドプラットフォームベンダーとのパートナーシップを発表している。
SAPは、主力のオンプレミスシステム向けSAP ERPに加え、「SAP S/4HANA」「SAP S/4HANA Cloud」「SAP Business One」「SAP Business ByDesign」という5つの主要ERP製品を提供している。
補足すると、SAPのERP製品を評価する場合、同社の製品ブランド戦略は分かりづらい可能性がある。例えば、SAPのマーケティング資料で「クラウドERP」に触れている。これは幅広い意味を持つ用語で、その対象にはSAP S/4HANA Cloud、SAP Business ByDesign、SAP Business Oneのクラウド導入のように、複数の製品が含まれる。
SAP ERP
「SAP ERP Central Component」はSAPの多機能なオンプレミスERPシステムだ。これにはサプライチェーン管理、製品ライフサイクル管理、人事管理、財務管理、顧客関係管理(CRM)ソフトウェアが含まれる。大抵の場合は単にSAP ERPと呼ばれる。自社所有インフラへのオンプレミス導入が可能なことに加え、IaaS(Infrastructure as a Service)ベンダーの協力を受けて導入することも、プライベートクラウドへの導入オプションもある。SAPはユーザー企業がSAP ERPソフトウェアをクラウドに移行する支援策を用意している。SAP ERPソフトウェアを、PaaS(Platform as a Service)として実行されるSAP S/4HANAへと切り替える方法だ。
SAP ERPはその成熟度が強みだ。2018年の時点で17万社を超える世界中の企業に採用されている。SAPは25の業種と37の言語で利用できるようSAP ERPをカスタマイズしている。その結果SAP ERPシステムは、グローバルで商取引する企業や、特殊なニーズを持つ専門業界の企業にとって魅力的な存在になっている。
本稿執筆時点では「Enhancement Package 8 for ERP 6.0」と「Support Package Stack(SPS)7」がSAP ERPの最新リリースだ。SPS 7では流通機能が改善されている。これには「SAP Retail」や「SAP Plant Maintenance」の機能強化が含まれる。「Data Controller Rule Framework」も更新された。Data Controller Rule Frameworkでは、個人データが法的要件に従って保存され、一般データ保護規則(GDPR)に準拠するようになる。さらに、既存の財務、小売り、卸売り、流通、プラント保全機能の全体的な強化としてEnhancement Package 8の存在がある。リリース6.0では、複数通貨環境を管理する企業向けに新しいヘッジ機能も提供される。さらに、リリース6.0に地理空間テクノロジーが組み込まれたことで、事業運営用の位置情報分析が追加された。
重要な注意点として、SAPのインメモリデータベースプラットフォーム「SAP HANA」に移行するには、その前に「SAP Enhancement Package 7 for ERP 6.0」が必要になる。「SAP Enhancement Packages」は企業が必要に応じて機能を追加できるように設計されている。これに対し、SPSリリースは合わせて導入するように設計されたパッチと更新だ。
SAP ERPソフトウェアは、従来通り、オンプレミスシステムとして見積価格に基づいて提供される。SAPから永続的な指名ユーザーベースで直接ライセンスされるか、SAP再販業者を通じて「SAP Business All-in-One」としてライセンスされる。
SAP S/4HANA
SAP S/4HANAはSAPの次世代ERPプラットフォームだ。年間収益が2億5千万ドル以上の中堅企業や大手企業で主に使用されている。SAP HANAインメモリデータベースを基礎に構築され、オンライン分析処理とトランザクション処理を連携させる。
単一のデータベースと並列処理の組み合せにより、企業は高度な分析と高速トランザクション処理を並列実行しながら、正確かつ最新の応答を瞬時に受け取ることができる。リアルタイム分析やほぼリアルタイムの分析を必要とする企業には理想的だ。特に、金融、航空、医療、セキュリティなどの業界に属する企業にとっては申し分ないだろう。ソフトウェアの洗練度合いという点でも、大規模なITスタッフを抱え、トランザクション処理、分析、アプリケーション、データベース運用への専門知識を社内に有する企業には最適だろう。
SAP S/4HANAの注目要素を一部挙げると、人工知能(AI)、流通向け機械学習、製造と資産管理、特定業界向けの中核システムのカスタマイズ機能などがある。
本稿執筆時点で、SAP S/4HANAの直近のリリースは「SAP S/4HANA 1709」だ。これはSAPの第2世代インメモリデータベースプラットフォーム「SAP HANA 2」で実行される。SAP S/4HANA 1709では、パフォーマンスを向上させるためスケールアウトとアクティブ/アクティブ状態処理が利用できる。輸送管理、資源管理、需要主導型のサプライチェーン補充強化も組み込まれている。他に、既存のITアーキテクチャでこのソフトウェアを扱えるかどうかを評価する準備ツールも用意された。
SAP S/4HANAはオンプレミスか、プライベートクラウド環境に導入できる。導入中はSAPからサポートが受けられる。オンプレミスのSAP S/4HANAは年間保守契約ライセンスにより利用可能だ。SAPでは要求に応じてSAP S/4HANAの無料トライアルを提供している。
SAP S/4HANA Cloud
SAP S/4HANA CloudにはSAP ERPシステムの一部のモジュールと、オンプレミス版S/4HANAの機能が備わっている。ただし、更新は1年ごとではなく四半期ごとに行われる。これはSaaS(Software as a Service)バージョンのS/4HANAだ。ユーザーは任意のデバイスからWebブラウザを使ってソフトウェアにアクセスする。全てのビジネス向けアプリケーションは同社の「SAP Fiori」ローンチパッドから起動できる。パブリッククラウドか、専用のプライベートクラウド環境に導入可能だ。
S/4HANA Cloudには、リアルタイムデータ用のインメモリコンピューティングが組み込まれている。それに加え、埋め込み型分析、機械学習サポート、SAP S/4HANAのカスタム拡張機能を開発するための「SAP S/4HANA Cloud Software Development Toolkit」(SDK)も用意されている。本社と系列会社など、SAP ERP製品のインスタンスを1つ以上運用する企業向けに2層導入もできる。SAPの「SAP SuccessFactors」「SAP Fieldglass」「SAP Hybris」「SAP Concur」「SAP Ariba」のようなSAP製品を「SAP Cloud Platform」経由でS/4HANA Cloudに接続することも可能だ。その上、SAPは「SAP API Business Hub」を提供することで、開発者がサンプルアプリ、拡張機能、統合をSAPやパートナーのAPIを使用して構築できるようにもしている。
2018年後半時点では「SAP S/4HANA Cloud 1808」が最新リリースになる。これにはAIに基づく「インテリジェントシナリオ」が用意されている。例えば以下のようなものが含まれる。
- 「SAP Financial Statement Insights」向けの異常ビジネス状況の検出
- オープンな購買要件からのRFx処理の自動化
- 資源に関するバッファー在庫提案の計算改善
- 受注遅延の可能性と納品の計画に対する洞察の改善
- 受注、買掛金、売掛金を追跡する自然言語サポート
- 速やかな対応を求めて緊急情報を特定グループに送る状況処理
機械学習、自然言語処理、予測分析の強化機能が新たに追加されている。SAPによると、リリース1808には人事管理用の新しいスマートスタッフ分析と、化学に関するコンプライアンスや品質管理の主要業績指標(KPI)の改善が含まれているという。
SAP S/4HANA Cloudは、年間収益が2億5000万ドルを超える中規模から大規模な企業に最適だろう。世界でビジネスを行っている企業や、製造や専門サービスといった特定業種向けの専門機能を必要とする企業にも適している。とはいえ、SAPは中小企業にもSAP S/4HANA Cloudを売り込んでいる。
SAP S/4HANA Cloudの価格は月額のサブスクリプションベースで、米国の場合ユーザー1人当たり1カ月220ドルが最低価格だ。導入中はSAPが完全なサポートを行う。SAP S/4HANA Cloudは要求に応じて14日間の無料トライアルが提供される。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
2
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
3
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
4
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
-
5
本当に安いPCで十分か? “すぐ重くなる”を防ぐノートPC選びの絶対条件
-
6
Claudeの不可視透かしに批判殺到 著作権消失や誤判定に潜む企業リスク
-
7
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
8
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
9
LLMの「過学習」、正しく説明している文章はどれ?
-
10
レガシー基幹システムをSAPに統合 山善が突き止めた「標準化と個別最適」の境界線
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー